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「世界が愛した料理人」とは?

北村美香

北村美香

フードエディター&ライター

世界のレストランのトレンド取材から、毎日のごはんレシピの単行本編集まで、幅広く食を取材し続けて25年。

食べ歩く日々が続くので、家での食事はきわめてナチュラルでヘルシー。健康食への関心も深い。
朝日新聞のコラム「ジョシ目線」をはじめ、集英社「エクラ」などの女性誌や男性誌をメインに執筆。
手がけた単行本は「やさい歳時記」長尾智子著(集英社)、「芸術家の食卓」林綾野著(講談社)、

「出張料理人が教える本当に使えるおもてなし本」マカロン由香著(講談社)など

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こんにちは。北村美香です。

「世界が愛した料理人」という映画を試写会で見ました。

「お腹が空く映画」というジャンルがあるなら、これがまさにそうでしょう。映画のリーフレットには、「スペイン史上最年少でミシュラン三ツ星を獲得した天才料理人。最高の料理に必要なもの、料理に込めるべき魂とは何かを探すために、彼は東京・銀座にある鮨屋に出かけた。他にも世界の名料理人の創作の秘密も紐解きながら、主人公であるシェフが目指す究極の料理の姿が次第に明らかになる」とあります。

 

2017年の第67回ベルリン国際映画祭で上映され、話題を集めた究極の美食ドキュメンタリーです。主人公の天才料理人とは、エネコ・アチャ・アスルメンディ。スペイン・バスク地方の三ツ星レストラン「アスルメンディ」のシェフです。

スペイン・バスク地方は、私も何度か訪れたことのある土地です。この地方の街には三ツ星レストランからふだん使いの食堂やバルまで、美味しい店がぎっしりと詰まっていて、朝から晩まで食べ歩いても飽きません。マルシェをのぞけば、ぴちぴちの魚から骨太な肉類、とれたて野菜やフルーツ、素朴な焼き菓子まで、すべて買い占めたくなるほど。

ここが「美食の地」と言われるのは、ミシュランガイドの星の数にも表れています。四国よりほんの少し広いエリアに、三ツ星が4軒あります。サンセバスチャンに3店、そしてビルバオ郊外にある、エネコシェフの「アスルメンディ」が2013年に、その仲間入りをしました。

当時、36歳だったエネコシェフは、スペイン最年少で三ツ星シェフとなったのです。バスクに伝わる食への情熱を受け継ぐ、若き料理人が世界から注目されるようになった瞬間でした。

「アスルメンディ」は、ビルバオ空港から車で20分ほど。林やぶどう畑を見下ろす丘の上にあります。ダイニングの南側はすべてガラス張り。テーブル席に座ると、なだらかな丘が続く田園風景に溶け込むよう。そこで楽しめるのは、バスクの食材をふんだんに使ったガストロノミーの世界。エネコシェフが味、テクスチャー、色彩の完成度を高めながら、ひと皿ひと皿作り上げています。

トリュフ風味の卵。卵黄の卵液を少しだけ抜き、トリュフの香りを抽出した液体を注入。口の中でベストマッチな味と香りが一気に弾ける

サルモレッティ(ひめじ)と海藻。パセリのエマルション(乳化させたソース)を、まるでお皿の模様のように敷いている

 

エネコシェフは「エネコシステム」と自ら呼んでいる『持続可能な循環システム』をレストランで実践しています。料理に使うハーブや花をレストラン内で育て、生ゴミはコンポストにして近隣の農家へ。絶滅寸前の野菜や豆類を復活させたり、地熱を利用して店内の室温を調節したり。そして、物流にもこだわりが。各々の納入業者が食材などをお店に届けるのではなく、レストラン独自の配送センターに集められ、1日1回だけトラックで運んできて、CO2の排出を削減。さらには、病院食のための簡単で美味しいレシピを紹介したレシピ本を出版し、売り上げを子どもの肥満防止協会へ寄付。これらすべてを含めて、エネコシェフの料理なのです。

2017年、東京・西麻布に「エネコ東京」がオープンし、「アスルメンディ」のエッセンスを日本でも味わえるようになりました。オープン当時、私はエネコシェフにインタビューしました。なぜ日本に出店したのかという質問にエネコシェフは、「日本人の食に対する繊細な感性に、もともとシンパシーを覚えていました。バスク以外でお店を出すなら日本で、と考えていた」と答えてくれました。

 

このときは、エネコシェフは、ドキュメンタリー映画の撮影のため、東京・銀座の鮨の名店「すきやばし次郎」へ向かう直前でした。言わずと知れた三ツ星の大先輩にして、三ツ星最年長の小野二郎さん(92歳)のお店です。「わくわくします。緊張しています」と話していたのを覚えています。

 

後に来日したとき、「小野二郎さんに初めてお会いしたときのことは、興奮し過ぎてよく覚えていないのですが、鮨を握る手の動きの優美さがとても印象に残っています。最も感銘を受けた鮨は鰹。藁で炙った鰹と酢飯が、口の中で完璧にハーモナイズしていました。とても感動しました」と語っていたのが印象的でした。

小野二郎さんの鮨について、先日亡くなったフランス料理の巨匠・ジョエル・ロブションは、「ピュア」と言っています。基本に忠実に、毎日鮨を握る二郎さん。かたや、三ツ星獲得最年少であり、バスクの自然に寄り添うように建つレストランで料理を続けるエネコシェフ。巨大都市・東京のど真ん中である銀座と、森や山に抱かれるスペイン・バスク。三ツ星最年長と最年少。あまりに対照的なふたりですが、共通しているのは「食べてくれる人を幸せにしたい」という気持ちです。

映画「世界が愛した料理人」の冒頭、日米首脳会談で来日したオバマ前大統領が「すきやばし次郎」を訪れたときのエピソードを、二郎さんが語っています。「まぐろの握りをほおばるたびに、大統領がウインクしてくれたんですよ」。この話がきちんと伝わっていれば、大統領がこのとき、ほとんど鮨を食べなかったなどという噂は広まらなかったでしょう。

 

淡々と彼らを追うカメラワークの中で、ひと際印象に残ったのが、完成された料理の数々。料理の本質が語りかけてきて、どんな言葉より圧倒される思いがします。「料理でいちばん大切なのはオリジナリティ」と言い切るエネコシェフ。料理人にとって、料理そのものが言葉であり、作り手のすべてをひと皿にのせてテーブルに運んでくるのだと、この映画は教えてくれます。

 

『世界が愛した料理人』

9月22日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

配給:アンプラグド

(c)C0pyright Festimania Pictures Nasa Producciones,All Rights Reserved.

監督:アンヘル・パラ、ホセ・アントニオ・ブランコ

公式サイト:http://sekai-ryori.com/

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