HAPPY PLUS
https://ourage.jp/kounenki_no_chie/more/276856/

横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 第2話 気に入らない娘

横森理香

横森理香

作家・エッセイスト。1963年生まれ。多摩美術大学卒。 現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代 大人女子のためのお年頃読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちんバブル純愛物語』は文化庁の主宰する日本文学輸出プロジェクトに選出され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブ諸国で翻訳出版されている。 著書に『コーネンキなんてこわくない』など多数。 また、「ベリーダンス健康法」の講師としても活躍。 主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行っている。 日本大人女子協会代表

記事一覧を見る

夫と娘と暮らす佐知のもとにかかってきた突然の電話。家を出てずっと音沙汰なかった息子が「紹介したい人がいる」という。結婚相手と会うべく、ひさびさに家族の食事会を設けることに。作家・横森理香が、大人女子のリアリティを描きます。

ミック・イタヤ

イラスト/ミック・イタヤ

 

第2話 気に入らない娘

 

馴染の中華料理店は、目黒通り沿いにあった。佐知の家からは車で10分ぐらいだ。美味しい中華料理をつまみに紹興酒でも飲みたいところだが、夫が飲む場合は、運転手として飲まずにいねばならない。

でもま、姑としてお手本を見せるためには、酒は飲まないことにしておいた方がいいか・・・佐知は心の中で、自分を律した。

 

「さー、なんにする?」

 円卓に着き、夫が意気揚々とメニューを広げる。

「私あれ食べたい。プリっぷりのエビ入ってる、細長い春巻き」

「お、いいね。じゃ、人数分頼むか。一人一本食いたいよな」

「それとあれ、とろっとろの冬瓜スープ」

「いいね」

 

二人はまだ来てなかった。佐知はたびたび、入り口付近を見てそわそわしていた。

息子の久志は東急線沿線に住んでいるから、都立大学駅から歩いてくるだろう。

どんな娘なんだろう。きれいな子だったらいいな・・・。

 

「さっちゃんは何にする?」

心ここにあらずの佐知に、夫が聞く。

「私これ、新ザーサイの冷菜」

あー、これをつまみに生ビールきゅうっと飲みたいところだが、今日はあきらめるか・・・。久しぶりの外食だというのに、佐知は我慢を強いられた。

 

 

「お飲み物はナンになさいますか?」

中国なまりの日本語で店員がオーダーを取りに来た。

「あ、生ビール。大きいので」

夫が嬉しそうに言う。

「私、あたたかいジャスミンティで」

「私も」

娘の花梨はソーバー・キュリアスという最先端のライフスタイルを身に着けていて、リモートワークになってから酒をやめた。

 

「あー、これ食いたいな、久しぶりだから」

夫がメニューを指さす。

「あ、イイネ!!  ナスと牛肉の土鍋炊き」

佐知はこのアツアツとろとろの一品が大好きだった。

「青菜とホタテの炒め物は?」

娘はペスカトリアンなので、肉は食べない。

「いいねイイネ」

ったく、誰に似たんだよ、めんどくさい女、と思いながら、

「海鮮焼きそばも食べない?」

と娘に寄せた。

「はい、じゃあ、ザーサイの冷菜だろ、エビの春巻き、ナスと牛肉の・・・」

 

 

夫が注文を読み上げているところに、ぬうっと久志が現れた。

「久しぶり」

相変わらず地味でひょろい息子のうしろに、これまた地味ぃな女がついてきた。

「石川佳恵さん」

息子が紹介する。また、名前も地味だわー、佐知はあきれた。

「初めまして」

息子に椅子を引かれて、その娘も着席した。

 

席順が偶然、佐知の真横だ。

くそっ、真正面で、たっぷり観察したかったのに・・・佐知はマスクの中で、下唇を噛んだ。

家族で食事に出ても、本当に食べるとき以外は、マスクをしていた。

 

佳恵は、背も中ぐらい、太っても痩せてもなく、おしゃれでもダサくもない。特にこれといって目立った特徴のない、普通の娘だった。

しかし、マスクに隠された顔からは、芯の強さ、みたいなものがにじみ出ていた。

 

 

「なんか食べたいものあったら、なんでも頼みなさい」

ケチな夫が、いいところを見せようと、メニューを渡した。

佳恵は会釈をしてから、メニューを見もせず久志に渡す。

抜け目ない女だ、と、佐知は思った。素直に食べたいものを注文すれば可愛いものが・・・。

 

「俺、特大餃子と、チャーハン食べたい」

久志が少年時代とおんなじものを選んだ。

くー、可愛い!!  佐知は身もだえた。やっぱり男の子は可愛い。

「久志もビール飲むだろ」

「うん」

 

「佳恵さんは?」

 夫が聞くと、

「私はあたたかいお茶で」

と遠慮する。

けっ、可愛くねー女。

佐知はどんどん、この嫁になるであろう娘が、嫌いになっていくのだった。

 

◆「mist」のこれまでのお話は、こちらでお読みいただけます。

◆次回は、8月18日(木)公開予定です。お楽しみに。

 

この特集も読まれています!

子宮筋腫特集~症状から治療まで
フェムゾーンの悩み解決
ツボ・指圧で不調を改善
40代からでも「絶対痩せる」
広瀬あつこさんの「若返りメイク」
閉経の不安を解消

今すぐチェック!

やや無骨な名前とは裏腹に、上品で優しい芋焼酎! 原日出子さんの簡単おつまみもご紹介中です

やや無骨な名前とは裏腹に、上品で優しい芋焼酎! 原日出子さんの簡単おつまみもご紹介中です

PR
<前の記事

<前の記事
第51回/横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝…

次の記事>

次の記事>
第53回/横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝…

この連載の最新記事

横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 最終話 孫という名の宝物

第60回/横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 最終話 孫という名の宝物

横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 第9話 家族だけのお正月

第59回/横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 第9話 家族だけのお正月

横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 第8話 長男の結婚式

第58回/横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 第8話 長男の結婚式

この連載をもっと見る

今日の人気記事ランキング

今すぐチェック!

OurAgeスペシャル