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横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 第8話 長男の結婚式

横森理香

横森理香

作家・エッセイスト。1963年生まれ。多摩美術大学卒。 現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代 大人女子のためのお年頃読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちんバブル純愛物語』は文化庁の主宰する日本文学輸出プロジェクトに選出され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブ諸国で翻訳出版されている。 著書に『コーネンキなんてこわくない』など多数。 また、「ベリーダンス健康法」の講師としても活躍。 主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行っている。 日本大人女子協会代表

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主人公・佐知は、最小限の人数で済ませようとしていた息子たちの結婚式に、結局、叔母たちを招待することに。感染症予防を考えた会食や、花嫁のドレスや親せきの着物の手配、まるで自分のことのように式の準備を進めていく佐知だった・・・・・・作家・横森理香が大人女子のリアリティを描きます。

ミック・イタヤ

イラスト/ミック・イタヤ

 

第8話 長男の結婚式

 

20211119日の昼過ぎ。

都内結婚式場の美容室に、叔母の弘江と佐知の母、佐知と花梨が並んでいた。

鏡の向こう側には、嫁の佳恵とその母親もいる。

何人かの美容師が慣れた手つきで髪と顔を仕上げていく中、まず先に入っていた佳恵から仕上がった。

 

「わ、きれい 佳恵さん化粧映えするわねぇ」

佐知は思わず言ってしまったが、花梨に鏡越しに睨まれた。

それって、化粧しなきゃブスって言ってるようなモンじゃね? とでも言いだけだ。

 

「はい、じゃ、花嫁さん着付け入ります」

佳恵は奥の着付け室に連れていかれた。

入れ替わりに、着付け室からモーニング姿の夫と、紋付羽織袴の息子が出てきた。

「久志、カッコイイ!」

佐知はもう泣きそうだ。

あの、ちいさかった息子が、こんなに立派になって・・・。

夫のモーニング姿も悪くない。二人とも誇らしげな顔をしている。

コロナ禍で先行き色々な不安はあるが、晴れてこの日を迎えられて良かったと、佐知は胸をなでおろした。

 

佳恵の色打掛着付けが終わり、撮影に出た。

「佳恵さん、きれいよ~」

介添人のおばさんに裾を持たれ、美容室を出ていく佳恵を、一堂はほれぼれと眺めた。

「馬子にも衣装とはよく言ったもんだねぇ」

「ほんとだよ、拝めて良かった」

叔母と母も嬉しそうだ。

 

結婚式は、やはり二人のためだけのものではなく、家族の思い出作りのためにあるのだと、佐知は思った。

 

 

館内写真スタジオにて数枚、日本庭園で数枚、写真撮影は進む。

十一月の終わり、紅葉が美しい庭園にて、

「はい、じゃあ、お好きなポーズを取ってください」

とカメラマンに言われても、久志と佳恵はもじもじとうまく動けない。

この日のトワイライトウェディングは二組いて、もう一組のカップルは、新郎がキックのポーズを決めたり、新婦が着物姿でジャンプしたりしていた。

 

五月雨式にヘアメイクと着付けが仕上がり、家族が次々に出てきた。

とっくに仕上がっていた佐知の夫は、そうそうに表のカフェテーブルで生ビールを飲みながら、撮影の様子を見ていた。

佐知がその隣に座ると、

「おおっ、誰かと思った」

と失礼なことを言う。

ふん、私だって、ちゃんとお仕度すれば、まだまだきれいなんだから、と、佐知は勝ち誇った気分になった。

 

「お飲み物はなんになさいますか?」

 初老のウェイターがやってきた。

「シャンパンを、グラスで」

「かしこまりました」

 

運ばれたグラスの泡越し、美しい庭園の夕景に、新郎新婦の姿が浮かび上がる。佐知はこれまでの苦労が、すべて洗い流されるような気持ちだった。

それは二人へのお祝いというよりむしろ、我慢、我慢の二年間、なんとか心身の健康を保ち、生き延びてきた自分への、ご褒美だった。

 

「はい、ではみなさんお揃いになってください。ご家族での撮影となります」

髪を結い、留袖を着た叔母と母も、久しぶりに美しい。振袖を着た花梨も、ふだんのにくったらしさを忘れるほど可憐である。

そして佳恵の母も、ちゃんとすれば案外きれいなんじゃないかしら、と思えた。

 

全員がドレスアップして、一堂に会す。人数は最小限だが、ここに叔母と母を呼べたことが、何より嬉しかった。亡くなった従姉への、いい弔いにもなった。

「亜希の夢を、さっちゃんが果たすんじゃないか」

叔母の言葉が蘇る。佳恵のおなかの中には新しい命が宿っているのだ。

こうやって、命は繰り返される。

佐知は目頭を押さえた。

 

 

神殿にて短い挙式のあと、一堂は館内料亭の個室に移動した。

「あら、きれいだわねぇ、紅葉が」

ライトアップされた紅葉が正面に見える席に、叔母と母を座らせた。二人には、もしかしたら最後の祝宴となるかもしれないからだった。

花梨はどうにも早くは結婚しそうにもないし、八十代になると急激に老化が進むと聞いている。冥途の土産ではないにしても、ボケる前に味合わせてあげたかった。

 

「わぁ、素敵!」

 新郎新婦がお色直しをして登場した。

和装もいいが、洋装はまた、初々しい二人にぴったりだった。

佐知のお仕着せだが、純白のフロックコートに身を包んだ久志は、プリンスさながら。

「久志カッコイイよ~」

母が涙ぐむ。

ふんわりとしたレースのウェディングドレスに身を包む佳恵も、我が娘のように愛おしく感じる、佐知であった。

 

 

◆「mist」のこれまでのお話は、こちらでお読みいただけます。

 

◆次回は、9月8日(木)公開予定です。お楽しみに。

 

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