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お寺と仏具と伝統産業の街、 高岡を歩く( 前編 )国宝の仏像を再現するプロジェクト

吉田さらさ

吉田さらさ

寺と神社の旅研究家。

女性誌の編集者を経て、寺社専門の文筆業を始める。各種講座の講師、寺社旅の案内人なども務めている。著書に「京都仏像を巡る旅」、「お江戸寺町散歩」(いずれも集英社be文庫)、「奈良、寺あそび 仏像ばなし」(岳陽舎)、「近江若狭の仏像」(JTBパブリッシング)など。

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お寺と仏具と伝統産業の街、
高岡を歩く(前編) 

国宝の仏像を再現するプロジェクト

 

 

こんにちは、寺社部長の吉田さらさです。

全国各地のお寺と神社を旅して、お役立ち情報をお伝えしています。

今回は、富山県高岡市のお話をさせていただきます。

 

北陸新幹線が開通して一年、金沢観光が盛り上がっています。

高岡市は、そのひとつ手前、能登半島の付け根にある魅力的な街です。金沢と同じように加賀藩前田家によって開かれ、戦災にも遭わなかったため、古い建物や街並みがよく残っています。しかしそれらは観光地ではなく、伝統を守る人々が暮らす場所です。このような街をのんびりと歩き、お気に入りの場所を見つけることが旅の醍醐味だと思います。

 

吉田_高岡_前_1

高岡は、お寺が多く、仏具の生産が盛んな土地。中でも銅を鋳造する技術に優れ、こちらで作られた銅の製品は「高岡銅器」と呼ばれる伝統工芸品です。製品は、お寺で使われる梵鐘(ぼんしょう)や仏像、一般的な銅像、日用品など多岐に渡り、大量生産ではなく、昔ながらの小さな工場で、代々この仕事を継承する職人さんたちが作っておられます。

 

吉田_高岡_前_2

 

高岡で銅器造りが盛んになったのは、17世紀はじめ、加賀藩主の前田利長が、街の振興を図るために鉄器を作る職人を呼び寄せたのが始まりとされます。その後、銅を含むさまざまな金属類の加工技術が発展しました。現在では、全国のお寺にある鐘や仏像、銅像のおよそ95%が高岡で生産されています。

 

吉田_高岡_前_3

そんな高岡銅器の伝統の粋を集めた代表作が、このたびほぼ完成しました。高岡、南砺(なんと)両市と東京芸術大などによるプロジェクトにより、奈良、法隆寺の金堂に祀られる「釈迦三尊像」が再現されたのです。簡単に言ってしまえばレプリカですが、釈迦三尊像は門外不出の国宝ですから、同じものを再現するのは容易なことではありません。細かな部分まで計測し、3D画像などの最新技術と伝統的な技法を駆使して創り上げるまでには、幾多の困難を乗り越えねばなりませんでした。

 

次のページでは出来上がった三尊像をご紹介します。

吉田_高岡_前_4

出来上がった三尊像は、2016年3月21日に高岡市でお披露目が行われました。今後は東京芸術大学で古色をつけるなどの仕上げが行われ、「もうひとつの国宝、釈迦三尊像」として、国内外の展覧会などで展示される予定です。高岡の高度な技術により、世界中の人々に、門外不出の釈迦三尊像を見てもらうチャンスが生まれたのです。

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釈迦三尊像の光背を作成した梶原製作所さんの作業場も見学し、光背を作成する際に使われた原型も見せていただきました(上の写真は原型ではなく、再現された光背そのものです)。原型とは溶かした金属を流し込む鋳型を作る際に使われるもので、最終的には、その原型通りの像になります。しかし、国宝の釈迦三尊像を動かすわけにはいかないので、今回の原型は、3Dプリンターで取った小さなパーツを組み合わせて作られました。したがって、いくら技術が進んだと言っても、実物とまったく同じというわけにはいきません。それをいかにして実物に近づけるかで、たいへんなご苦労をなさったとのことです。

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日本の著名な仏像は、多くが木でできています。金属製のものは主に銅に金メッキを施した金銅仏が多く、飛鳥時代、奈良時代には主流でしたが、その後、あまり造られなくなりました。代表的作品は、薬師寺の薬師三尊像、東大寺の大仏様、そして今回再現された法隆寺金堂の釈迦三尊像などです。飛鳥時代や奈良時代に金銅仏を造るのは、複雑で難しい作業でした。でもそれは昔の話。技術が進んだ今は、比較的簡単にいろいろな形の像を造れるのではないかと思っていましたが、こちらで作業工程をお話しいただき、それは間違いだとわかりました。現在でも、金属で仏像を造る作業は、特別な技術と知識、芸術的なセンスを必要とするたいへんな仕事なのです。

 

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ごく簡単に説明すると、まず、粘土などで原型を造り、それを元に鋳型を制作し、そこに溶かした金属を流し込んで鋳型をはずす。取り出した本体を磨いたり着色するなどして美しく仕上げる、という工程です。

 

高岡の魅力的な伝統工芸のお話を次のページでも!

吉田_高岡_前_8

「イメージとしては鯛焼きを作る感じだが、鯛焼きと違って像には前後に凸凹があるから、鋳型もより複雑な構造になり、そう簡単にはいかないんだ」と、梶原敏治社長。

 

梶原製作所のホームページ

銅像の製作過程はこちらで見られます。

http://kajihara-ss.com/

 

高岡では、もう一ヵ所、金属を使った伝統工芸品を作る職人さんの工房を見学しました。お経をあげるときに使う「おりん」を作るシマタニ昇龍工房さんです。こちらでは家庭用の小さなものではなく、寺院向けの大きなものを作っておられます。こちらで作られたおりんは、福井県永平寺、京都の南禅寺など、全国のお寺で使われています。

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こちらでも、伝統工芸士の島谷好徳さんに説明していただきました。工程は、簡単に言って、まず金属の板を叩いて伸ばしてパーツを作り、張り合わせて丸い形にし、炉で焼いて柔らかくしてきれいに形を整えるという手順ですが、おりんの場合、より重要なのは音です。できあがったものを叩いてみて、職人さんがよい音がするかどうか聞き分け、ダメならおりんの口径の厚み部分を細かく凹凸をつけて調整していきます。これをすることによって、柔らかく波長が長い「癒しの音」が出来上がります。職人さんの研ぎ澄まされた耳と熟練した手によって長年伝承されてきた貴重な技術です。

 

吉田_高岡_前_10

 

シマタニ昇龍工房のホームページ

調音前と調音後の音の違いも視聴できます。

http://www.syouryu.co.jp/

 

後編、

「お寺と大仏様と古い街歩き」に続きます。

 

 

 

 

吉田さらさ 

公式サイト

http://home.c01.itscom.net/sarasa/

個人Facebook

https://www.facebook.com/yoshidasarasa

イベントのお知らせページ

https://www.facebook.com/yoshidasarasa2

 

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