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こじらせ男子のピュアな魅力と 手紙小説の面白さに開眼!

去年、一昨年と2年連続で流行語大賞にノミネートされた“こじらせ女子”。“流行のファッションや恋愛に疎く、自らの女子力に満足しきれていない女子のこと”という意味で使われ、ドラマの主人公のキャラになるなど、すっかり定着した感があります。

 

そこで思い出したのが、森見登美彦さんの小説に登場する大学生たち。彼らはまさしくこじらせ男子! ファッションや恋愛が苦手、妄想がちなど、あまりにも共通点が多くて……。というか森見さんは、こじらせ系の人々のマイナス要素(!?)を補ってあまりある魅力に、とっくに気がついていらしたんですね。

 

ということで、今回ご紹介するのは森見登美彦さんの『恋文の技術』。全編手紙のみで構成された小説ですが、大学院生・守田一郎の純粋すぎてこじれた恋愛観や自己認識がこれでもか!と表れていて、あちこちで笑いが漏れること必至です。

山本さん_『恋文』

『恋文の技術』
森見登美彦 ポプラ文庫 620円(税別)
掲載されたたくさんの手紙の中でも、思い人への失敗書簡集は抜群の面白さ。
がんばって書けば書くほどヘンテコリンに

 

第一章は、守田が同じ大学の研究室の友人・小松崎に宛てた手紙。春から夏にかけて書かれたそれらを通して、私たちは守田が置かれた状況を知ることになります。
例えば、彼が京都の大学院から遠く離れた能登の実験所に飛ばされたこと。
一人暮らしは初めてのうえ、実験の成果は出ない、就職の見通しも立たないという日々の中で、気晴らしに「文通武者修行」を始めたこと。

 

文通の相手は、研究室に君臨するお姉様・大塚さんや以前家庭教師をしていた間宮少年、クラブの先輩で現在は作家の森見登美彦先生(女性ファンがいっぱいという設定!)、しっかり者の妹にまで及びます。
でも本当に手紙を書きたかった相手は、伊吹夏子さん。守田が片思い中の女性で、文通修行をしようと思い立ったもうひとつの理由は、恋文の技術を磨きたかったから。

 

ところが実際には、何通手紙を書いても、恋文の技術が磨かれる気配などみじんもありません。守田が友人たちに送るその内容は、経験を反映していない恋愛アドバイスだったり、実験のストレスからくる泣き言だったり。

 

とはいえ、恋文の技術を磨こうとはしていたようなのです。その証拠に、守田が伊吹夏子さんへ宛てた「失敗書簡集」なるものが。
興味津々で読んでみると、彼女をほめたたえてすぎて(耳たぶまで!)変態っぽくなった手紙だったり、恋心を知的に表現しようとして逆に数学コンプレックスがバレバレの手紙だったり、親しみやすいキャラを打ち出そうとして阿呆のようになった手紙だったり。
そう、「これじゃあ出せないよね」という空回りの手紙ばかり。
笑えるという意味では、スグレモノなんですけど。

 

また、主人公の本音や人間関係(力関係?)を手紙から読み取れるところも、この小説ならではの面白さです。
つまり守田の小松崎への手紙からは、お互いのダメさを認め合い、固い友情が成立していることがわかる。大塚さんへの手紙からは、彼女を恐れ、厄介だと思いながらも、高く評価していることがわかる。間宮少年への手紙からは、せめて教え子には尊敬してほしいという気持ちと、弟のように大事に思っていることがわかる、という具合に。
もうひとつ、この小説には他人の手紙をのぞき見するような楽しさもちょっとあったりして……(笑)

 

最後には、守田の文通相手たち同士で交わした手紙が明らかになり、彼に起きるとんでもない事態(いいほうへ転がるか、悪いほうへ転がるかわからない!)を予感させます。
そして忘れちゃいけない、肝心の伊吹夏子さんへの恋文はどうなるのか? 守田の研究や将来の展望は?

山本さん_image

私の森見登美彦コレクション。
理系で秀才、なのになぜか青春をこじらせた大学生もので知られる森見さんですが、たぬきを主人公にした家族小説や怪異小説、SFなど多彩なジャンルの作品があります

 

森見作品にはいつも名言(ときに迷言)が満載ですが、私がこの小説で「まさにそう!」と思ったのは、「恋文というのは、意中の人へ差し出すエントリーシートでしょう」という言葉でした。
確かに、自分の長所をアピールするという点ではふたつは同じ。大言壮語になるのはマズイけれど、謙遜しすぎてもいけない。考えれば考えるほどわからなくなって、本当に難しい……。そんな経験、何らかのシチュエーションで多くの方にあるのではないでしょうか。

 

あなたもこの小説を読めばきっと、お気に入りの名言を見つけられるはず。そのときにはすでに、森見ワールドのファンになっていると思いますよ!

 

 

 

 

 

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