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巨匠の素顔を知れば、美術鑑賞はもっと面白い①

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偏愛キーワードは「変人」。
名画にこめられたこだわりをひもとくと…

 

ヤマザキマリさん

Mari Yamazaki

ヤマザキマリ

1967年生まれ。14歳のときヨーロッパ一人旅行、17歳からイタリア国立フィレンツェ・アカデミア美術学院へ留学、美術史と油絵を学ぶ。帰国後、漫画家としてデビューし、『テルマエ・ロマエ』で2010年マンガ大賞、手塚治虫文化賞短編賞を受賞。現在は、家族の住むイタリアと日本を行き来しながら、『プリニウス』(とり・みきと共著)や『スティーブ・ジョブズ』など、時空を超えて世界を動かした人物の魅力に迫る作品を、精力的に制作中

 

 

 

売れっ子漫画家であり、今やエッセイや講演など、多彩に活躍するヤマザキマリさんですが、実は幼い頃からの夢、画家を目指し、芸術の本場イタリアで10年間修業を積んだ美術の専門家なのです。しかも、17歳で単身飛び込んだイタリアでの生活は、孤独や劣等感にさいなまれたり、生活力ゼロの詩人の恋人ができてからは、極貧生活も経験。幾度となく逃げ出したいほどの思いをしながらも、踏みとどまったのは、「自分の意志で画家になるとイタリアまで来た以上、中途半端なまま帰るわけにはいかない」という覚悟と、「寛容の精神に満ちたルネサンス美術に癒され、生きる力をもらったから」だそう。

 

何千枚にも及ぶデッサンや模写や西洋美術史の勉強を通して、ほかのどの時代より自由で人間らしさにあふれたルネサンス絵画は、同じ志を持つ者としてヤマザキさんに力を与えたのです。その一方で、「イタリアの国立図書館に行くと、画家たちが残した自筆の契約書などを見ることができるのですが、よーく見ると、その余白に契約金の使い道を計算した跡が残っているのです。つまりまだ未払いのお金の皮算用をしているわけ!」。

 

余白の走り書きからルネサンスを代表する巨匠の、当時の経済状態や考えが透けて見えると、時空を超えてその画家の姿が立ち上り、そのとき描いた絵にこめた思いまで伝わってくるとヤマザキさん。「500年前の人であっても、考えることはさほど違わないと発見したときは、一気に親近感がわき思わずにやりとさせられました。なにしろ、イタリアでは紀元前の古代ローマ遺跡がゴロゴロしていて、500年前なんてほんの少し前という感覚。実際、私のイタリアの家族が住んでいる家は築500年を超えていますから」

 

日本でルネサンスを代表する画家といえばラファエロ、ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチが有名で人気もありますが、ヤマザキさんにかかると、「伴侶にするには最適だけど、早死にしてしまった」ラファエロ、「生真面目すぎて息が詰まる」ミケランジェロ、そして「万能だけど人嫌い」のレオナルド・ダ・ヴィンチと、ラファエロ以外はバッサリ。しかし、ヤマザキさんは、彼らを「変人」と断言しながら、そういう人たちを許容する当時の社会の在り方を、「新たなものを生み出すエネルギーに満ちていて、それは窒息しそうな今の日本にとって何より必要なもの。新作『プリニウス』や『スティーブ・ジョブズ』で、そうした変人たちを描いているのは、今の行き詰まった世界を変えられるのは彼らのような人たちだと思うからなのです」。

異なる考えを許容し、よいものはよいとニュートラルに評価する知性と教養が尊重されるのが、真の意味で開かれたグローバルな社会。日本が目指すお手本は、実は過去に、それも日本人には馴染み深いルネサンスにあると知れば、展覧会で絵に対面したとき、きっと今までとは違う新たな発見があるはず。

 

「絵に画家のすべてがこめられています。展覧会に足を運ぶなら、画家に思いを馳せて向き合ってみてください。何倍も楽しめます」

 

 

『ヤマザキマリの
偏愛ルネサンス美術論』

ヤマザキマリ 著/集英社新書
760円

『ヤマザキマリの 偏愛ルネサンス美術論』

ヤマザキさん自身が偏愛していると語るルネサンスは、修業時代の彼女を支え、今も勇気をくれる存在。それは中世の暗黒から人間を肯定する時代へと導いた文化的一大ムーブメントだからなのだそう。時代背景や巨匠たちの素顔を知ることで、より作品を身近に楽しんでほしいという著者からのメッセージは、美術鑑賞が苦手な人にこそおすすめです。

 

次回は、さまざまな“美術”にまつわる本をご紹介します。

 

撮影/矢部ひとみ〈ヤマザキさん〉 恩田はるみ〈本〉 取材・文/鈴木美穂

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