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路上生活者を演じて板谷由夏さんが考えたこと(インタビュー/前編)

10数年ぶりの主演映画だというのに、板谷由夏さんには一切、気負いがない。

与えられた役になりきり、ごく普通の女性の生活感をひたむきに演じている。

“彼女は私だったかもしれない”。

そう世の女性たちを震撼させたあの事件をモチーフに、オリジナル作品として高橋伴明監督がメガホンを取った本作は、

板谷さんがヒロインを演じることで『夜明けまでバス停で』という社会派エンターテインメント作品となり、

私たちが忘れていたこと、私たちが怒るべきこと、私たちが見つめるべきことを、ゆっくり静かに教えてくれている。

 

撮影/富田一也 ヘア&メイク/結城春香 スタイリスト/古田ひろひこ 取材・文/岡本麻佑

板谷由夏

板谷由夏さん
Profile

いたや・ゆか●1975年6月22日、福岡県生まれ。’94年よりモデルとして活動し、’99年に映画『avec mon mari』で俳優デビュー。俳優のほか、’07~’18年に『NEWS ZERO』(日本テレビ系)のキャスター、『映画工房』(WOWOW)のMC、またファッション・ブランド『SINME(シンメ)』のディレクターを務めるなど、幅広く活躍している。主な作品にドラマ『ファースト・クラス』『家庭教師のトラコ』、映画『運命じゃない人』『サッド ヴァケイション』『SUNNY 強い気持ち・強い愛』など。現在、ドラマ『夫婦円満レシピ ~交換しない?一晩だけ~』(テレビ東京系・水曜24時30分~)に出演中。

 

私たちはもっと怒っていい

 

「高橋伴明監督が、『久しぶりにやらないか』と声をかけてくださって。もちろん『お受けします』と言ったら、『主演です』って後から伺ったんです。

主演だろうが脇だろうが、作品の中で俳優がやるべき事は一緒で、その役に向き合う以外ないので、私はそういうことをあまり意識してこなかっのですが、でも、ありがたいと思います」

 

『夜明けまでバス停で』は、板谷さんにとって17年ぶりの主演映画。

2020年12月、東京都心の片隅で、バス停で休んでいた路上生活者とみられる女性が殺された事件がモチーフになっている。

女性は64歳。渋谷区幡ヶ谷の現場は深夜でも明るい場所で、半年以上前から彼女は、終バスが通過した後ベンチに座り、仮眠をとっていたらしい。いつも身ぎれいにしていたが、殺されたときの所持金はわずか8円だったとか。

 

「あの事件を知ったときは、もちろんショックでした。そして演じることが決まってから調べてみたら、昔劇団でお芝居をしていたとか、路上にいてもどこかでちゃんと着替えていたとか、彼女が生きていた証を掘れば掘るほど切なくなってしまって」

板谷由夏

彼女はどんな人生を送り、どんな人間関係の中で暮らし、なぜ住む場所を失ってしまったのか。作品は、事実をそのままなぞっているわけではないけれど。

 

「年齢も設定も違いますし、高橋監督はこの作品で、あの女性を描こうとしていたわけではなくて、彼女という存在を通して世の中にメッセージを送りたかったのだと思います。

“こういう人が、もしかしたらあなたの周りにもいるかもしれない” “今あなたは、こういう世の中に生きているんだ” “今の日本はこんなに手厳しい国なんだ”って。

ニュースを見たり、新聞を読んでいても思いますよね、“ああ、日本って、こういうことか”って。“そういうところに、今私は生きているんだな”って」

 

コロナ禍で不景気になり、予想できなかった形で困難にぶち当たる。そんなこと、誰にも起こりうることなのに。

 

「私たちって、安易に人に頼っちゃいけないって教わっているじゃないですか。自分のことは自分で解決しなさいとか、人に迷惑をかけてはいけませんとか。自助とか自己責任という言葉がのしかかってきて。

でも本当に困ったらギブアップしていいし、助けてって言っていい。高橋監督は、もっと世の中に疑問符を持つべきだし、もっと怒っていいって伝えたいのだと思います。

まわりには助けを求めている人がいるのかもしれないってことに、私たちも気付くべきなんですよね。そして気がついた時点で、行動すればいい。

お節介かな?なんて、気後れすることもあるけれど、困っている人がいたら助けるのって、当たり前のことなんです。

なんかもっと人に優しい世の中でいいのに。このコロナ禍で、いろんなことを試されているなって思います」

板谷由夏

衣装/SINME

 

とはいえこの映画、見終わったあとに残るのは、ある種の爽快感。決して暗くて重い作品ではない。板谷さんを囲んで、豪華キャストが適材適所。社会派エンターテインメントに仕上がっている。

 

「はい、重鎮の皆さんもご出演です(笑)。

印象に残っているのは、やはり柄本明さん。柄本さんって、現場ではほとんど私語をなさらない、シャイで無口な方なんですね。

ある時、一緒に並んで歩くシーンがあったんですけど、立って待っているときに、ぼそっと『こういうなんでもなく歩くシーンが一番難しいんだよな』って。『たまーに、できること、あるんだけどさ』っておっしゃったんです。

私、『わかるー!』って心の中で叫んでました(笑)。あんなにベテランであんなにお芝居のことを熟知されている柄本さんでも『たまに』なんだ。年をとればできるようになることでもないんだなって。

本当に、ただ歩く演技って難しいんです。俳優はどうしても“普通に歩く”ことを演じてしまうから。歩こうと思って歩くし、立とうと思って立っちゃうんですよね。街でロケしていても、一般の人のリアリティには、とうてい敵いません。

でも柄本さんは今もそこを抜け出そうと試行錯誤なさっている。やっぱりすごいです」

 

そして板谷さん自身も、ヒロインが路上生活者になっていく過程を真摯に演じている。もともと細い体から、さらに2キロ落として切羽詰まった状況を演じたとか。

 

「私は体質的に痩せやすいので、ベスト体重を維持できるように普段から食事管理をしています。年齢的にも、痩せすぎちゃうと、どうしても老けて見えるので…。でも今回は痩せていかないと、それこそリアリティがないかなって」

 

47歳、私生活ではふたりの男の子の母であり、妻であり。俳優だけでなく、ファッションブランド『SINME』のディレクターを務めている。

スレンダーな体の、いったいどこにそのバイタリティが? というお話は、続きで詳しく!

 

(板谷さんの体の悩みやファッションについての、インタビュー後編はコチラ

 

『夜明けまでバス停で』

板谷由夏「夜明けまでバス停で」ポスタービジュアル

2020年冬、東京・幡ヶ谷のバス停で、ホームレスの女性が襲われ、死亡。誰にも助けを求めずひとりで生きようとしていた彼女が陥った悲劇に、多くの女性が衝撃を受けた。高橋伴明監督がこの事件をモチーフに社会的孤立を描く本作は、各方面から熱い注目を集めている。

板谷由夏「夜明けまでバス停で」スチール写真

2022年10月8日(土)より新宿K’s Cinema、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開中

配給:渋谷プロダクション

脚本:梶原阿貴

監督:高橋伴明

出演:板谷由夏 大西礼芳 三浦貴大 松浦祐也 ルビーモレノ 片岡礼子 土居志央梨

柄本佑 下元史朗 筒井真理子 根岸季衣 柄本明ほか

©2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

公式サイト:https://yoakemademovie.com/

 

 

 

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