貧血で倒れる

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 1968年生まれ。日本語教師を経て、ノンフィクション作家に。2012年『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)で第10回集英社・開高健ノンフィクション賞を受賞。他に『駆け込み寺の男 ―玄秀盛―』(ハヤカワ文庫)、『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』(早川書房)など

PHOTO©Hayakawa Publishing Corporation

考えてみれば、貧血にもなるのも無理はない。生理の周期が25日と短く、しかも経血の量が尋常ではない。体の真ん中に大きな穴が開いて、すべての体液がどんどん流れだしてしまうような感覚だった。

 

 

腰の骨を鈍器で殴られているような痛みには、長年晒されてもう慣れっこになってしまったが、不快であることに変わりはない。

 

 

夜用のナプキンが昼の2、3時間でいっぱいになった。取材中はすごく困る。話が乗っているときに、ちょっとトイレというわけにはいかない。取材相手に相槌を打ちながら、わたしは血液で椅子を汚していないか心配になる。ときどき気づかれないように腰を浮かせて様子を見なければならなかった。

 

 

夜用ナプキン2枚、3枚と重ねて対応するが、それでも不安は払しょくできない。毎月毎月スプラッター映画も顔負けの血の海を見た。今更ホラーなんてちっとも怖くない。

 

 

それに比べると男性の中には、最近血を見たのはささくれを剥いた時、なんていうのどかな人も多いだろうから、生理中の女性の苦労はなかなかわかってくれないだろう。

 

 

だからといって「生理中なんだね、大変だね」なんて言葉をかけてもらいたいかといえば、そういうのとも少し違う。「さあ、座って休んでいて」、というのも大きなお世話だ。わたしは同情とか、いたわりとか、そういう類の感情で接してもらうのがあまり得意ではない。

 

 

正直なところ気を使われるというのが一番苦手だった。気を使われると、気を使い返さなくてはいけないという強迫観念があって自分自身が面倒くさい。できれば、好きなようにさせてほしい。

 

 

休みたいときに休める空気や、自然の中を歩ける自由、人と話さないでいられるスペース、静かな時間がほしい。それはたぶん、子どもだって、お年寄りだって、男性諸氏だって同じなのではないかと思う。みな、人にはわからない不調を抱えているものだ。身の回りの家電だって調子が悪くなるのに、自分だけが毎日健康で、寸分の狂いもなく動きます、というのは理想ではあるが難しい。

 

 

だから、少しだけ、いつもの生活から外れる時間がほしいのだ。

 

 

一杯のコーヒーを飲んで午前中だけでもぼおっとする時間、山の手線でいつもの駅で降りずにぐるぐる乗っている日常からの逸脱、車窓に見えている釣り堀にちょっとだけ寄ってふぬけになること、そんな〈チューニングするための小休止〉が必要だった。それも「生理がひどいです」「きょうはデスクにいるのがどうにもしんどいです」なんていう理由をいちいち誰かに告げずに。

佐々さん_photo

 

 

わたしたちはいまだに自分が仕事をしない正当な理由を誰かに向かって宣言しなくてはならない。仕事をしないことは日本では異常事態なのだ。

 

 

だが、当のわたしが、自分自身に小休止を許すことができなかった。わたしは猛烈に仕事をしていた。

 


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