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女はトランスフォームするのだ

佐々涼子

佐々涼子

1968年生まれ。日本語教師を経て、ノンフィクション作家に。2012年『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)で第10回集英社・開高健ノンフィクション賞を受賞。他に『駆け込み寺の男 ―玄秀盛―』(ハヤカワ文庫)、『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』(早川書房)など

PHOTO©Hayakawa Publishing Corporation

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意識が特に高いわけでもなく、医師に文句があるわけでもなく、不運に不運が重なって、婦人科を転々としてきた。「やっぱり佐々さん、持ってますね」と褒められるが、へんなほめ方をしてくれるな。ちっとも嬉しくないわい。そして、自分が見上げているのは、総合病院の立派な建物である。

 

 

受付をすませると、フードコートの呼び出しボタンのようなものを渡された。これが鳴ったら来いという。便利になったものだ。病院内には小じゃれたカフェや中庭があって、みな思い思いに時間をつぶしている。最近の病院は、こんなことになっているのか。

 

佐々さん_photo

 

壁紙が花柄のファンシーな産婦人科もびっくりしたが、最新の総合病院にもびっくりする。そういえば、この病気にかかる前に一度行った産婦人科は、「乳首の色をピンクにします」とか、「膣の締まりをよくします」とか「陰部の形を整えます」といったパンフレットがずらずらっと並べてある病院だった。あまりに待っている時間が長かったので、思わず熟読してしまった。

 

 

表立って語られることがない婦人科だけに、初めて知ることが多いのである。産婦人科っていろいろ個性があるのだ。確かに、いろいろと勉強になることが多い。それにしたってノンフィクションの神様は私に何を学ばせようとしているのか。

 

 

さて、病院内のカフェでまったりしている間に、時間が来て、いよいよ診察の時間である。

 

 

第三の医師は、ロマンスグレーのジェントルマンだった。
最初のお医者さんは、卵巣も子宮も取らずに中の悪いところを手術しましょうと提案した。次のお医者さんはふたつの卵巣を取ってしまいましょうということだった。次のお医者さんは何と言うのだろう。

「まだしっかり卵巣は機能していますね。これで卵巣をふたついっぺんに取ってしまうと、ホルモンバランスが崩れて、具合が悪くなってしまうかもしれませんね」

 

 

そうそう、それが心配だったのだ。私は以前からホルモン剤がすごく体に合わない。それを考えると卵巣を取って、ホルモンが出なくなるのも、ダメージを受けるだろうなと予想がついた。

 

 

「卵巣脳腫は、これからも大きくなっていく危険性があります。あなたの年齢を考えると、卵巣を残しておくメリットはありません。右は取りましょう」
私はうなずく。
「それから、子宮筋腫ですが、これは子宮ごととってしまった方がいいかもしれない」
「……。子宮ですか?」
「うん」

 

 

右卵巣&子宮摘出。見事に、三者三様である。こんなにも違うものなのか。風邪薬をパブロンにするかルルにするかという話じゃなくて、問題となっているのは臓器を取るか取らないって話なのである。どっちでもいいやとは言えない。

 

 

私はこれまでの病院めぐりの経緯と、見事に意見が分かれていることについて、率直に医師に語った。すると、ジェントルマン先生は言う。

 

 

「たとえば、目覚まし時計にも、寿命がありますよね。壊れるときって針が進んだり、止まったりと、不規則な動き方をしませんか? あるいは、いきなりリンと鳴ることもあるかもしれなません。でも、時計によっては静かにピタッと止まることもあります。それは時計によって違うんです。個性なんですね。

 

 

今の佐々さんの状態は、時計が寿命を迎えて止まりかけているようなものなんです。治療方針というのは、その症状をどう止めるか、という方法論の違いにすぎません」

 

佐々さん_photo

 

 

ああ、そうか、なんとなく合点がいった。今までいろんな病気やケガで病院にかかってきたが、それはいずれも「治療」、つまり良くなる方向に向かって努力がなされた。でも、これは今までの治療とはちょっと違う。言ってみれば、「上手な終わらせ方」なのだ。

 

 

思春期に初潮を迎えてから今までずっと抱えてきたものをそろそろ手放すときがきたのだ。楽に手放す人もいれば、手放すときにトラブルが起きる人もいる。

 

「脱皮」という言葉が頭に浮かんだ。女性はこの時期、蝉や蝶のようにトランスフォームするのだ。産む性という機能を脱ぎ捨てて、さっぱりするのである。

 

佐々さん_photo

 

12歳で初潮が始まり、52歳で閉経するとして、約40年間もの長きに渡って、毎月毎月産むためのスタンバイをし続けた身体なのだ。自分の意志や、自分がどう生きたいかを超えて、勝手にそれが起動したり、終了したりする。

 

 

時々卵子が受精し、それが大きくなって、自分とは別の人格の息子たちが私の身体を通ってやって来たこともあった。そのシステムが今、派手に軋みながらグランドフィナーレを迎えようとしている。ロケットが燃料タンクを切り離すように、『エイリアン』の女王が、卵を持っている身体を切り離してビョーンと跳躍して出てきたように、わたしも、身軽に飛び出していけそうだ。

 

 

閉経したら、「私は自由だ!」と叫びながら赤飯炊きたい。さぞかしおいしいことだろう。

 

 

未体験の50代を見てみたくなった。

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