手術当日がやってきた

プロフィール写真

1968年生まれ。日本語教師を経て、ノンフィクション作家に。2012年『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)で第10回集英社・開高健ノンフィクション賞を受賞。他に『駆け込み寺の男 ―玄秀盛―』(ハヤカワ文庫)、『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』(早川書房)など

PHOTO©Hayakawa Publishing Corporation

手術当日がやってきた。

 

 

いつもはあちこちに思考が飛んでしまう私が、こういう時には妙に頭がクリアになる。風景がくっきりと見え、耳がよく聞こえ、いよいよ冷静になってくるのだ。

 

 

まな板の鯉というのは、こういう感じなのかもしれない。あるいは、果し合いの前のサムライなども、こんな感じなのではないかな。などと、手術直前まで鯉とサムライに共感するなどして過ごした。

 

佐々さん_photo

 

立ち合いに来てくれた次男には、手術直前にどうしても言い残しておきたいことがあった。

「摘出した卵巣は、写真で押さえておいてね!」

 

 

髪の毛が生えているかもしれないし、歯が生えているかも。あるいはもっとすごいかもしれない卵巣を、見逃してなるものか。ホラー映画好きな次男は、涼しい顔をして了解した。小さな手術なので、みなほどほどにポジティブである。

 

 

卵巣一個を取るだけの、命にかかわることのない簡単な手術だ。それを決めるまで、きちんと時間をかけたことについて、今はよかったと思っている。医師は臓器に気を取られて、しばしば本体である人間を置いてけぼりにするのもわかったし、自分が女性であることから目を背けてきたこともわかった。

 

 

手術までのこの時間は、自分の女性性を見つけるための巡礼のようなものだった。私にもそんな臓器がついていたのか、女だったのか、というちょっとした発見の旅だったのである。思春期に感じたわずらわしさと、今の状況は少し似ているかもしれない。

 

 

初潮を経験したときの、なんともいえない違和感。自分の軸にしっかりと根づいたものではなく、後付けのオプションとしてくっついてくる「女性」という面倒くささが、人生を複雑にすることを、私はあの頃ちゃんと予感していた。

佐々さん_photo

シェア ツイート LINEで送る

OurAgeをもっと楽しみませんか?

OurAgeはウェブサイトだけでなく、メールマガジンやfacebook、Twitterでも「とっておき」情報をお届けしています。
ぜひチェックしてください!

OurAge メルマガ会員

会員だけのお得な情報もお届けします!

登録はこちら(無料)
twitter
MyAge / OurAge
  • コメント

    コメントを投稿する

    コメントを投稿する

    post date*

    ニックネーム
    コメント
    To Top