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横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン2 コロナ同棲 第5話 金欠と低気圧不調

横森理香

横森理香

作家・エッセイスト。1963年生まれ。多摩美術大学卒。 現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代 大人女子のためのお年頃読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちんバブル純愛物語』は文化庁の主宰する日本文学輸出プロジェクトに選出され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブ諸国で翻訳出版されている。 著書に『コーネンキなんてこわくない』など多数。 また、「ベリーダンス健康法」の講師としても活躍。 主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行っている。 日本大人女子協会代表

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同じマンションの中に同世代の友達(瞳)ができた美穂だったが、コロナ禍でおしゃべりも思うようにならない。あり余る時間を、アルコールで埋める毎日。幸せを感じるのは、定期的に家に来る男と抱きあっているときだけだった・・・・・・大人女子のセツナイ内情を描く、横森先生がお届けする~mist~をどうぞ。

第5話 金欠と低気圧不調

 

夫が支払っていた住宅ローンを自分で支払い始めると、通帳の残高はいつもカツカツだった。買い物のほとんどを通販でしている今、月末に利用金額の知らせが来るたび、びくびくしていた。

名義変更をすると住宅ローンだけでなく、不動産にまつわる税金も支払わねばならず、その金額は、結構きつかった。その上、マンションの管理費も、白金だけに安くはなかった。

 

 

さらに、古いマンションだから、去年は風呂釜が壊れ、大枚をはたいた。今年に入ってエアコンも壊れ、とうとう美穂は定期預金を解約した。リモートワークになってから一日中家にいるので、光熱費や水道代も驚くほどだった。

そもそも、天井に埋め込まれた古い大きいエアコンは、電気を食うだけでなく、修理代も洗浄代も高かった。買い替える際、三割減となったボーナスでは足りないことに、まず衝撃を受けた。残業代が付かないのも辛い。

 

洗濯機や食洗器も老朽化しているが、買い替える余裕がないので、直し直し使っている。その修理費もいちいち痛かった。色々考えると、借りた方が安い、という元夫の意見は正しかったと思う美穂であったが、引っ越す気にはなれなかった。

今更、この年になって、借家暮らしに戻りたくはなかったし、物件探しも引っ越しも全て面倒だった。

「そんな金も気力もないしね・・・」

 

 

同僚の中には、今後もずっとリモートワークだろうから、都内に高い家賃を払って借りることもないと、都外に引っ越した人もいた。

「同じ家賃で、こんなに広くて、環境も良くて最高だよ」

とラインで埼玉の田園風景を送ってくれたが、別に羨ましくもなかった。

美穂は最早、ここでこのままうっかり死ねたら、それが本望だと思うようになっていた。

PCR検査もしていないから、自分がコロナに感染しているかどうかはわからなかったが、

「無症状で、コロナ突然死、とかないのかな・・・」

と常々思っていた。酔っぱらって、気持ち良く突かれている時に、突然死ねたりしないかな。イク、イクゥツ、とか言いながら、ホントに逝っちゃうやつ・・・。

 

横森理香 小説

イラスト/ナガノチサト

 

毎月末、通帳の残高とカードの利用金額との見比べっこは、大きなストレスだった。特にこの1年、タイミング悪く入用が多く、金は羽が生えたように無くなっていった。心療内科の診察代と薬代に加え、歯も悪くなってきたから、その治療代も追い打ちをかけた。

 

離婚後、酔っぱらって歯を磨かず寝てしまうことが多かった美穂は、歯槽膿漏で虫歯だった。会社近くの歯医者に通ってはいるが、治療しても治療しても、一向に良くならない。

美穂は心の中で、あの藪医者、と呼んでいた。

 

数カ月前、奥歯に激痛が起こり家の近所の歯科医院を受診すると、

「明日抜歯して、インプラントにしたほうがいいですね」

とあっさり言われた。

「そんな急に・・・」

と怯える美穂に、

「ここまで悪くなると、それしか治療法はないです」

と歯医者は言った。

馴染の藪医者に行く気力もなく、また、行っても良くならないような気がしたから、美穂は四十万支払って、奥歯をインプラントにしたのだった。

 

 

それからだ。激しい片頭痛に加え、色々な不調が起こって来たのは。梅雨に入るとひどい肩こりと怠さに襲われ、鼻が詰まった。

全部治療した歯の側なので歯科医に聞くと、

「治療とは関係ないと思われます。内科を受診されたらいかがですか?」

と言われた。

しかし、コロナ禍で医療が切迫している中、大きい病院にも行きたくなかったし、その気力もなかった。かかりつけの心療内科で頭痛薬を出してもらい、近所の耳鼻科で点鼻薬をもらった。

 

しかし、具合は良くならない。

あまりの体調の悪さに、このまま仕事を続けられるのか、ローンを払い続けられるのか、不安になって来た。働けなくなったら、実家の世話になるしかないのだが、出戻りの娘に父はどんな罵声を浴びせるのだろうか。それを思うと、たまらない気分になった。

 

 

そんな時、タイミングよく同僚の一人が、どこかでルームシェアできないかと言い出した。それは、出社日にたまたま居合わせたメガネ君の一人で、美穂と同年代のシステムエンジニア菅野だった。

五十代にもなって実家住まいの独り者で、家で仕事するのはもうキツイ、と言うのだ。

 

「年老いた両親と築半世紀の古家で一日中はね・・・。気分転換できないし、子供並みに干渉されるんですよ」

とカフェテリアで茶飲み話をするから、

「あ、うちで良かったら一部屋空いてますけど」

と気軽な調子で申し出たのだ。

「え、でも・・・」

菅野君は怯えた顏をした。が、美穂はひるまなかった。

「二年前に離婚したから夫の部屋が空いてるんですけど、ここから自転車で10分ぐらいのマンションだから便利ですよ」

 

 

間貸しして少しでもローンの足しにできればありがたいし、システムエンジニアが家にいれば、仕事の上でも鬼に金棒だ。美穂は久しぶりに、希望の光、のようなものを見た。

長梅雨で毎日じとじとしていたが、気分はすっかり、梅雨明けだった。

 

「今日仕事終わったら、下見に来ませんか?」

疑心暗鬼な中年メガネ君ではあったが、

「そんな急に、いいんですか?」

美穂の誘いに、乗ったのだった。

 

◆次回は、7月22日(木)公開予定です。お楽しみに。

◆これまでのお話はこちらからどうぞ。

 

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