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横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン2 コロナ同棲 第8話 二人の告白

横森理香

横森理香

作家・エッセイスト。1963年生まれ。多摩美術大学卒。 現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代 大人女子のためのお年頃読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちんバブル純愛物語』は文化庁の主宰する日本文学輸出プロジェクトに選出され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブ諸国で翻訳出版されている。 著書に『コーネンキなんてこわくない』など多数。 また、「ベリーダンス健康法」の講師としても活躍。 主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行っている。 日本大人女子協会代表

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部屋をキレイに整え、食事も用意してくれるルームメイト菅野君。美穂はいつしか昼から呑むのをやめ、深酒をすることもなくなっていた。二人暮らしに慣れていく一方、いつかリモートワークが終わり、彼が出て行ってしまう日が怖くなる美穂だった・・・・・大人女子のセツナイ内情を描く、横森先生が届ける~mist~をどうぞ。

第8話 二人の告白

 

「大動脈乖離という病名を聞いたことがありますか?」

 

菅野君は、テレビの方を見たまま言った。

「あ、ネットニュースでたまに出てくるやつ。車運転してて突然死した人がそのまま突っ込んじゃって、あとから病名が出て来る・・・」

「それです。五年ほど前、自宅で背中に激痛が走り、家族に救急車を呼んでもらったんです。それっきり記憶がなく、気が付いたら病院のベッドにいました」

 

美穂はいつもの癖で、すぐさまスマホで「大動脈乖離」を調べた。

大動脈の血管が裂け、血液の通り道が、本来のものとは別にもう一つできた状態だと書いてある。

 

「その結果、大動脈が破裂したり、多くの臓器に障害をもたらせたりする。放置すると命にかかわります。わ、怖い病気じゃないですか。手術したんですか?」

「搬送が遅れていたら死んでいましたが、幸い手術はしないで済みました。その代わり、後遺症でいっときは歩けなくなって、自宅で寝たきりでした」

「まぁ可哀想に・・・」

「今でも、足に少し障害が残っているんですよ」

「え、そうは見えないけど・・・」

「躓かないよう、ゆっくり歩いてますから」

ああそれが、菅野君を優雅に見せているんだなと、美穂は思った。

 

「原因は、なんだったんですか?」

「不摂生です。仕事に夢中で、徹夜も嬉々としていました。酒、たばこ、コーヒー、食事も外食ばかりでした。太ってたんですよ。高血圧なのに、何も改善してなかった」

「あ、それで手料理?」

「そうです。タバコとコーヒーをやめ、酒もほどほどにしました。今でも治療は続いていて、定期検診もしています」

「でも、とっても健康的に見える・・・」

「ところが、今も動脈瘤があって、あと二ミリ大きくなったら、人工の大動脈を入れる手術をしないといけないんです」

「まぁ~、そんな状態だとは!  私の面倒見てる場合じゃないじゃないですか!」

「いやそれは、張り合いになっていいです」

菅野君は一瞬美穂の方を見て、にっこりと笑った。

 

 

「実は私も・・・」

と美穂が心療内科に通っていることを告白しようとすると、

「知ってます」

と菅野君が制した。この家を掃除していれば、美穂がどんな生活をしているのか、一目瞭然だった。

 

横森理香 小説

イラスト/ナガノチサト

 

「お酒は減らして、薬も少しずつ減らしたほうがいいです」

「ですよね」

「ちゃんと食べて、ちゃんと寝ることです。それだけで人は、幸せになれます。僕は死にかけて、やっと分かったんですよ」

「菅野君がこの家に来てから、お陰様で健康的になったよ、私」

 

菅野君は美穂宅に出勤する際、お昼と夕飯の食材を買って来てくれるのだ。

毎日の事なので、美穂も食費を半分負担することにしていた。

 

「でもさ、いずれはいなくなると思うと不安で・・・」

「はい、僕も精一杯健康維持を心掛けていますが、なにしろ爆弾を抱えているので、約束はできません」

「いや、そういう問題じゃなくて、菅野君は他人でしょう? いずれはいなくなるんだよね? 今はいっとき、気分転換も兼ねてここに通っているんだよね」

「あ~」

菅野君は一瞬考えて、言った。

「そういうことですか」

「うん。私、夫と別れてから寂しくて。飼ってたウサギも死んじゃってね。コロナで誰にも会えなくなっちゃったし。それで自棄になってたの。また一人になっちゃったらって思うと・・・」

 

じとーっと菅野君の横顔を見つめる美穂に、振り返りもせず菅野君は言った。

「ここに通い続けることは生きてる限りできますが、肉体的なご希望には添えません」

「は?」

「大動脈乖離のあと、性的不能になりました」

「へっ、そんなこと期待してないよー」

くそ真面目に告白する菅野君がおかしくて、美穂は笑った。

「セックスなんてしなくていいよー。一緒に寝てくれるだけでいいから」

菅野君が振り返って、言った。

「一緒に寝る、ですか」

「うん。そしたら睡眠薬なくても寝れそうな気がするんだよね」

「うーん、でも、あれですか? 伊藤さんの部屋にあるシングルベッドでは、二人寝るのは不可能だと」

「ですよねー、きゃっきゃっ」

菅野君は背が高く、太っていた頃は相当の巨体だっただろうと推測された。

 

 

「僕、自分ではわからないんですけど、鼾もすごいみたいなんですよ、家族によると」

「あ、鼾なら私もすごいらしいですよ。元夫がよく言ってた。隣の部屋までとどろき渡るから眠れないって」

「しかしソーシャルディスタンスを取らなきゃいけない今、一緒に寝るというのは相当な濃厚接触ですよね?」

「かなり!」

二人でケタケタと笑った。

 

「とりあえず、甘えてみていいですか?」

美穂はソファに横になり、菅野の膝に、頭を乗せた。

「こんな感じですか?」

菅野はその頭を、優しく撫でた。

「うんうん、いい感じ・・・こういうのが、私には必要なの」

菅野の大きな手が、あたたかかった。長く求めて得られなかったもの。美穂は疲れ果てた旅人が、やっと宿に辿り着いたように、コトっと寝てしまった。

 

睡眠薬も飲まず、泥酔したわけでもなく、寝たのは久しぶりの事だった。気が付くと、ブランケットが掛けられていて、朝になっていた。

 

「おやすみなさい」

というメモが、テーブルの上に置いてある。

「明日また来ますって、通いのお手伝いさんか?!」

美穂は明るい気分で、久しぶりに朝ごはんでも食べてみようと、キッチンに向かった。

 

◆次回は、7月29日(木)公開予定です。お楽しみに。

 

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