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横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン5 大人女子の恋愛事情 第3話 リアルで濃厚接触

横森理香

横森理香

作家・エッセイスト。1963年生まれ。多摩美術大学卒。 現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代 大人女子のためのお年頃読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちんバブル純愛物語』は文化庁の主宰する日本文学輸出プロジェクトに選出され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブ諸国で翻訳出版されている。 著書に『コーネンキなんてこわくない』など多数。 また、「ベリーダンス健康法」の講師としても活躍。 主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行っている。 日本大人女子協会代表

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2年ぶりの大人女子会で盛り上がる瞳と美穂と桂子。桂子にはインド人の彼、さっちゃんと付き合っていた。話題は、静岡に住む彼に会いに行った桂子の話になり・・・。作家・横森理香の連載小説「mist」シーズン5は、コロナ禍の東京を描く、初沢亜利氏の写真集「東京 二〇二〇、二〇二一。」とコラボです。             

初沢亜利

撮影/初沢亜利 写真集「東京 二〇二〇、二〇二一。」より

 

第3話 リアルで濃厚接触

 

「まず驚いたことにさ、静岡駅で、いきなり『会いたかった』ってハグされたんだよ」

「えーーーー!!

「目立たん?」

「まぁ改札じゃなくて、コンコースの物陰に連れ込まれてだけどさ」

「目の前でやられたら、老人とか腰抜かすよ。このコロナ禍に」

「それからガウッて」

桂子は手で顎のところを、虎に噛みつかれたように掴んだ。

 

「キスされたの」

「うっそ」

「もう、激しくて食われるかって思ったよ。あっちの人は、動物的なんだね」

「いやいや、さっちゃんがコーフンしてただけでは?」

「タイプなんだねー、桂子が」

「じゃああれ? その日はさっちゃんちにお泊り?」

「いや、銀行送金して、ランチして帰ってきたよ。猫ほっとけないじゃん」

「そうなんだ、つまんないの・・・」

美穂が唇を尖らせる。

 

「えー、だいたい無理でしょ? 27歳の息子みたいな子に、三段腹見せらんないよ」

と桂子は言うが、痩せる気はまったくないようだ。

鱒のお寿司とカマボコをつまみに、日本酒をクイクイ飲んでいる。

 

「お昼なに食べたの?」

「イタリアン食べたいっていうからさ、適当にググって、静岡市内のレストラン行った。やつほとんど自炊だから、店も知らないんだよね」

 

桂子がスマホを開いて、料理写真を見せた。

「ふーん、美味しそうじゃん」

「うん、美味しかったよ。安かったしね。奢ってあげちゃった」

「えー、なんでぇ? 金持ちなら奢ってもらえばよかったのに~」

「え、でもさ、一人で外国に住んで、言葉も不自由で銀行送金もできず、可哀そうだなって思っちゃって」

「桂子、優しい~」

「その優しさに惚れたんだね、さっちゃん。もう帰ったの?」

「うん、成田行く前、東京出てきたから、東京駅でまたちょっと会ったよ」

「へえ、今度はどした?」

「もうガウッはしなかったけどさ、軽くハグした」

「さすがに東京駅は、人目を避けられないからね」

 

「んで?」

「ちょうど昼時だったからさ、地下でごぼ天うどんといくらおにぎり食べた。やつはちくわ天うどんと親子丼。今回はおごってくれたよ」

「美味しそう・・・」

「なんかお腹空いてきた」

「はいはい、揚げますよ」

 

 

瞳がキッチンに立った。ごま油の香ばしい香りが漂ってくる。

「はい、じゃまずスミイカからね」

「わーい」

 

瞳は揚げたてを少しずつ、懐紙を敷いた笊に入れ、運んだ。

レモンを絞り、抹茶塩でいただく。

「美味しい~、サクサク」

「なかなか家で、こんなにうまく揚げられないよね」

「ふふふっ、ビール飲む?」

「あるの? 飲む飲む」

 

瞳が冷蔵庫から、コロナ禍でハマった缶ビールを出した。

「あ、東京エールだ。私も好き」

「私も。コロナ禍で缶ビール、クオリティ上がったよね」

「ね、クラフトビール系が美味しい」

瞳が注いでくれたくれた切り子のビールグラスで、三人はまた乾杯をした。

「じゃ次は芝海老ね」

「わーい」

 

 

酔いが回ってくると、ふだんサバサバした男っぽい桂子が、実はさっちゃんの事が大好きだと、二人にも分かった。

 

「国に土産買うっていうから、東京駅の地下街をさ、手をつないで歩いたんだよ。キャラクターグッズとか見て笑って。それだけなんだけど、もしかしたらそれが、私がやりたかったことなのかなって」

「あ、分かる。若い頃は恋人とよく手をつないで歩いたけど、もう何十年も誰かと手を取り合うことなんてなかったもんね」

美穂も自分の体験を踏まえて、実感を込めて言った。

「え、で、美穂んちは一緒に寝てるの?」

瞳が揚げたての海老天を運びながら聞いた。

 

「そー、添い寝よ。何にもしないけどねー」

「いやいや、添い寝こそがあたたかい」

「もう別にさ、セックスとかいいよね、大人女子は」

「んだ」

瞳が海老天をサクッと食べながらうなづいた。

 

 

「いい音! 私もいただいちゃう」

「いただきます(^^)/

サクサクといい音が瞳の部屋に響く。

 

ポンっと、瞳が新しい缶ビールを開け、みなのグラスに注いだ。

「ぷはー! ビール美味しい!」

「いや、ほんと」

「店で飲むクラフトビールに引け取らんよね、これ」

 

桂子は宣言下の夏、クラフトビール専門店に寄り、酒類は提供してないと言われ、オレンジジュースを飲んで帰った。その無念さを思うと、皆で分かち合う缶ビールのうまいことうまいこと。

 

「じゃそろそろ蕎麦茹でるよ」

「わーい」

 

さっちゃんは国に帰ってからも、毎日ラインをしてきてくれるのだという。

「ほら見て、庭にマンゴーとか生えてんだよ」

「うわ、マジで」

桂子はインドの鬱蒼とした庭に、たわわなマンゴーが成っている写真を、ラインの画面から見せてくれた。

「柿みたいなもん、なんだろうねぇ」

「かもかも」

 

瞳が刻んだネギとおろしたてのワサビを運んできた。

「は~、いい香り」

美穂がうっとりと言う。

「そろそろ蕎麦湯で上がるよ~」

「はーい」

 

コロナ禍で愛のかけらを拾った大人女子たちの、幸せな年の瀬だった。

 

 

◆「mist」のこれまでのお話は、こちらでお読みいただけます。

◆次回は、3月24日(木)公開予定です。お楽しみに。

 

★初沢亜利さんの写真集「東京 二〇二〇、二〇二一。」は、こちらからどうぞ。

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