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江國香織さんの感性が見えてくる、さまざまな味の旅エッセイ

山本圭子

山本圭子

出版社勤務を経て、ライターに。『MORE』『COSMOPOLITAN』『MAQUIA』でブックスコラムを担当したのち、現在『eclat』『青春と読書』などで書評や著者インタビューを手がける。

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新しい小説が出ると必ず読む作家さんは何人かいますが、江國香織さんはそのひとり。
彼女の魅力は多々あれど、私にとって最大のそれは「ここには(江國さんが考えた)本当のことが書かれている」と思えること。

 

“東京で暮らす40代独身女性はこう”とか“今どきの男子大学生はこう”みたいな、パターンにはまった描き方がみじんもない。登場人物すべてに対する江國さんの考え――「こんな育ち方でこんな経験をしてきた人はこんな考え方なのでは」というものが透けて見え、しかも納得できるので、読むうちに生の人間を直に見ているような気持ちになるのです。

 

私にとってこの感覚はとても不思議だし、貴重。
それを味わいたくて、彼女の新刊が出ると毎回飛びつくのだと思います。

 

さて今回ご紹介したいのは、そんな江國さんが旅にまつわる思いをつづった最新エッセイ集『旅ドロップ』ですが、感想をひとことでいうと
「彼女の感受性がダイレクトに伝わってきた!」

 

それはいかにも江國さんらしいけれど、決してひとりよがりじゃない。
「そういえばそう」「私もそんな気がしていたけど言葉にできなかった」みたいな感覚がたくさん描かれていて、自分自身の旅まで思い出して、心の領域がふわっと広がったような気がしてきました。

 

書評_photo

『旅ドロップ』 江國香織 小学館 ¥1400(税別) なぜか常軌を逸したことをした大分の旅。童話「幸福な王子」と「おやゆびひめ」から得た、旅立とうとしている者をひきとめてはいけない、という信念(?)のようなもの。短いけれど中身の濃い37のエッセイと詩3編を収録した1冊

 

たとえば「乗り継ぎのこと、あるいはフランクフルトの空港の思い出」に描かれたこの部分。

 

「……でも、それだけじゃなく、乗り継ぎのための時間というものが、そもそも私は好きなのだろう。それは出発地でも目的地でもない場所であり、出発前でも到着後でもない時間だ。その中間のどこかに、ぽっかり出現する時空間、しかも外国。乗り継ぎの空港にいるとき、私は自分を、そこにいるのにいないもののように感じる。座敷わらしみたいに。そして、どこにも行かれると感じる。その気になれば、目的地以外の場所にだって行かれるのだと。」

 

そうそう! 自由なような不自由なような、ワクワクとちょっとした不安がないまぜになる乗り継ぎの時間って本当に特別。

 

そういえば、この間行ったスペイン・マドリードの広くて新しい空港は気持ちよかったな。グラナダへの乗り継ぎの時間に、乾いたのどでミルク入りコーヒー(カフェコンレッチェ)を飲んだら、緊張感がじんわりほぐれてきたっけ……などと、半年前の風景があざやかによみがえってきました。


このエッセイ集で特筆すべきなのは、ひとつひとつのお話がとても短いこと(原稿用紙2枚半くらい)。なのにまるで短編小説のような起伏があり、江國さんならではの驚きや発見が込められていること。

 

「これってもう職人芸!」と感嘆してしまいますが、それを支えているのは彼女の自由を愛する気持ち、そしてすべての人への尊敬の念と好奇心ではないかと思いました。

 

そう、江國さんの精神はものすごくたくましい。同時に、ときどき幼い子どものような“すれていない感じ”が垣間見える。
その混ざり具合がとてもチャーミングだし、健やかという感じがするのです。

 

『旅ドロップ』には国内外への旅だけでなく日常からはみ出す旅や平安時代の旅など、37のお話が収められています。

 

個人的には、この本は一気にではなく、ゆっくり読んでいただきたい。というか、自然にそうなってしまうかもしれません。

 

なぜなら「聞いて、私の旅ではこんなことがあったの!」などと誰かに(江國さんに?)話したくなるし、すべてのお話を頭の中の決して忘れない場所にしまっておきたくなるから。

 

 

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