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松本千登世/髪を切った日

松本千登世

松本千登世

美容エディター。客室乗務員、広告代理店勤務、出版社勤務を経てフリーランスに。心に届く美しい言葉で綴られたエッセイや美容特集は、つねに多くの女性の支持を集める。著書に『いつも綺麗、じゃなくていい。50歳からの美人の「空気」のまといかた』(PHP研究所)ほか多数
撮影/目黒智子

髪をばっさりと切った、その日。どきどきして、ぞくぞくして、正直、夜も眠れないほどだった。こんな感覚、いつぶりだろう? 鏡に映る私は、いつもと表情が違って見える、姿勢が違って見える、人格までも違って見える。

 

これなら、分け目を変えて楽しんでもいいし、ラフなオールバックやウエットな外はねもできるかもしれない。新しい服にも、新しいリップにも挑戦してみたい…。ふと気づいた。あっ、心が弾んでる。それと同時に、ずっと止まっていた「何か」が動きはじめたのを感じたのだ。

ずっとショートヘアだった30代。まもなく40歳を迎えようというある日、前髪をぱつんと分厚く切りそろえた自分の顔に抱いた違和感をきっかけにロングヘアへ。以来、15年もの間、深く考えないままに、ほぼ同じ髪型を貫いた。それはなぜだったのだろう? 改めて自らに問い直してみると、「好きだから」「似合うから」「私らしいから」など、積極的で前向きの意志はなかったように思う。

 

むしろ、逆。長い髪に慣れれば慣れるほど、言葉にこそしなかったものの、「切ると扱いづらいんじゃないか」「切ると服にもメイクにも迷うんじゃないか」「切ると老けるんじゃないか」というネガティブな気持ちが芽生え、知らぬ間に「切る」という選択肢そのものが人生から消えていた。つまり「変わる」ことを恐れ、「変わらない」ことにこだわって、「無難」や「安心」に甘え続けた結果の長い髪。そう気づかされたのだ。

 

髪だけじゃないのだと思う。見た目も行動も、年齢を重ねるほどに、変化に対して不安になったり、億劫になったり。そうこうしているうちに、可能性や選択肢に「枠」を作り、無難や安心が「絶対」になっていた。そして、変わるとも変わろうとも思えなくなって、ふと気づくと止まっていた、みたいな。

 

無難や安心を超えた先に、本物の高揚感や幸福感があるのに。可能性も選択肢も、年齢や立場だけでは決まらないのに。枠を決めるのは、ほかの誰でもなく、自分自身。その枠を取り払うことができたら、人生が動く、人生が変わる。枠を作るのも壊すのも自分次第、そう確信したのである。

 

 

「ステイホーム」によって、私たちは、それまでの当たり前が決して当たり前ではなかったことに気づかされた。何気ない日常がどれほど愛おしく、幸せなものであるか。

 

一方で、同じ時間に電車に乗ったり、直接会って打ち合わせをしたり、「こうでなくちゃ」「これしかない」と疑いもしなかったルーティンが、実は簡単に変えられるものであることにも。未曾有の出来事をきっかけに、ずっと抱えていたいろいろなものがふるいにかけられ、自分にとっての本質がクリアに見えたはず。枠が取り払われたはずなのだ。

 

だからこそ、まったく新しい「これから」に向けての一歩は、誰かに頼るのでなく、助けを待つのでなく、もちろん、まわりにおもねるのでもなく、もっと自由に、もっと意志的に、もっと力強く、「私」の力で踏み出したいと思う。何が好きなのか。何を欲しているのか。直感して思考して、意志を研ぎ澄まし、筋肉を鍛え蓄え、新しい日常を一から「創りたい」と思うのだ。

 

ちなみに、一歩のための洋服選びにかかった時間は、なんと1時間。これもまた「なんだか、楽しい」。もしかして私は、変われたのかもしれない。

 

 

原文/松本千登世  写真/興村憲彦

 

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