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第1章 巡礼旅は怖くない 3・そもそもカミーノって? 聖ヤコブ巡礼の道

大滝美恵子

大滝美恵子

フードライター&エディター、ラジオコメンテーター。横浜生まれ。「Hanako」からスタートし、店取材を続けること20年。料理の基礎知識を身に付けたいと一念発起、27歳で渡仏。4年の滞在の間にパリ商工会議所運営のプロフェッショナル養成学校「フェランディ校」で料理を学び(…かなりの劣等生だったものの)、フランス国家調理師試験に合格。レストランはもちろん、ラーメンや丼メシ、スイーツの取材にも意欲を燃やし、身を削って(肥やして!?)食べ続ける毎日。

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夜空にきらめく星に導かれて生まれた巡礼路

「カミーノ デ サンティアゴ(Camino de Santiago)」とは、キリスト教の三大聖地のひとつであるスペイン・ガリシア州のサンティアゴ デ コンポステーラ(Santiago de Compostela)を参詣する巡礼旅のこと。街の中心にそびえる大聖堂には、イエス・キリストの十二使徒のひとりである聖ヤコブの遺骸が埋葬されています。

 

この聖ヤコブという名前、英語ではサンジェームス(Saint-james)、フランス語ではサンジャック(Saint-jacques)。そして、スペイン語ではもともとのラテン語が微妙に変化して、そう、サンティアゴ(Santiago)になりました。

 

西暦44年頃、聖ヤコブはエルサレムで殉教し、弟子たちによって亡骸が運ばれたのが現在のスペイン・ガリシア地方。9世紀になって羊飼いが星の光に導かれて墓を見つけ、当時、このあたりを治めていたアルフォンソ2世が遺骨を祀った教会を建立しました。その場所は「星の野原」という意味の「コンポステーラ」と名付けられたといわれています。

 

赤い線が私の歩いたルート「フランス人の道」。薄い茶色の線はスペイン・ポルトガルの他のメジャーな巡礼路を指す。すべての道はサンティアゴ デ コンポステーラに通じ、どこから歩き始めてもよい。フランス国内のパリやル・ピュイ・アン・ヴレー、ヴェズレーなどからスタートするルートも存在する。知り合った中には、中世にならってイタリア・パルマの自宅から約1750km(!)を歩き通した若者も。

 

 

到着までの最後の100kmを徒歩で歩けば巡礼は達成

 

最盛期の12世紀にはなんと年間50万人の巡礼者を数えたといわれるカミーノ デ サンティアゴ。現在でもその人気は衰えることなく、ここ数年は年間20万人を超える人々が巡礼を行っています。実際、私がゴールした2017年5月には1ヶ月で約3万5000人が巡礼を終えました。

 

そのうちの半分以上の人がたどったのが「フランス人の道」と呼ばれるルート。フランスのサン=ジャン=ピエ=ド=ポーから始まる約800kmの道です。カミーノ デ サンティアゴにはフランスのイルンから海岸線沿いを進む「北の道」(約854km)、アンダルシアの州都であるセビージャが出発点の「銀の道」(約705km) 、ポルトガルのリスボンから北上する「ポルトガルの道」(約615km)、など、名前の付いたメジャーなルートが幾つかあります。その中でも一番、整備されていて歩きやすいのが「フランス人の道」。1993年には世界遺産に登録され、ますます注目が集まっています。

 

巡礼は聖地を参詣するのが目的ですから、こうしなければならないという決まりはありません。サンティアゴ デ コンポステーラに到着する最後の100kを歩けば巡礼をしたことになります。なので「フランス人の道」上でも一番スタートする人が多いのは、ゴールから113km地点の街・サリア(Sarria)。中には全距離を数日間ずつ分けて歩いて、何年かかけて踏破する人も。

 

ラテン語で書かれた巡礼証明書には「スペインの保護者であるサンティアゴの墓に誓願を立てるために訪れた巡礼者に対して、サンティアゴ大聖堂の大司教はこの文書を持って大聖堂訪問を証明する」と書かれている。中世のカトリック教会では、犯した罪を軽くしてもらえる免罪符の一種だったとか。

 

 

多くの人々のモチベーションのひとつになっているのが、到着後に巡礼事務所でもらえる巡礼証明書。サンティアゴ デ コンポステーラまで徒歩や騎馬(本当に馬や車椅子で巡礼をする人もいます)で100km、自転車で200kmを完遂したという証明ができればもらうことができます。

 

 

 

何世紀もの間、聖なるものに近づこうと人々が歩いてきた道を、現代に生きる私が今日、踏みしめているという事実。クリスチャンではない私でも、この事実に感慨深いものを感じます。それは日本の四国のお遍路も同じですね。私にとってカミーノは「信じる」ということについて、考える時間でもありました。

 

 

私が「巡礼者」になった街、サン=ジャン=ピエ=ド=ポー

 

さてさて、話は「フランス人の道」のスタート地点である、サン=ジャン=ピエ=ド=ポーに戻ります。はるばる日本から飛行機、バス、列車を乗り継いで、ようやく出発地点に着きました。1日に数えるほどしかないローカル線が着いたのは、人気のない小さな駅。いつもは飛行機を降りた先が旅の目的地なのに、そこが出発地点だなんてなんだかヘンな感じです。

 

一緒に列車を降りたバックパック姿の巡礼者らしきグループの後をついて歩き出しました。まず誰もが向かうのは巡礼事務所なので、地図を見るより、正しい選択のはず。けれど、バックパッカー初心者の私はなんとなく自分の姿が気恥ずかしく、そして独り旅を悟られるのも恥ずかしい気がして、振り返って駅舎の写真を撮ったり、花の植木鉢が飾られた住宅を眺めたり、何となくフラフラ。するとあっという間に彼らとの距離は開き、慌てて追いかけるも、道は短いながらも上り坂。彼らの姿を見失い、こちらはすでに息が上がってゼーハーゼーハー。こんなんで本当に大丈夫なの、ワタシ!?

 

どんよりと不安な気持ちが胸を横切りましたが、呼吸を落ち着けて周りを見て見ると、坂の上は可愛いカフェやビストロが並ぶ街の目抜き通り。バカンス中らしいフランス人がそぞろ歩きを楽しんでいます。赤や緑の旗やラウブル(バスク地方の十字架)を目にしたら、不思議と軽快な足取りに(笑)。

 

ドキドキしながら巡礼事務所を覗くと、笑顔の溢れるスタッフたちが「ボンジュール!」。私を担当したのはゆうに70は越えていそうな白髪の男性でした。パスポートを見せ、名前や国籍を用紙に記入して登録終了。巡礼者の証である巡礼手帳(クレデンシャル)を発行してもらいました。これからこの手帳にスタンプをもらいながら歩いて行くのです。

 

あまりにもあっさりと登録が終わってしまったので、正直、拍子抜け。登録の際には巡礼目的を聞かれるとのことだったので、クリスチャンではないけれど神様を信じていると言った方がいいのか、無宗教だけれどもキリスト教に興味があると言った方がいいのかなど、実はとても心配していました。

 

私はカトリック系の女子大に入学したのですが、それまでキリスト教に触れたことはまったくありませんでしたし、キリスト教系の授業も正直、ちんぷんかんぷん。英語の教鞭を執るのはシスターだったのですが、ミッション系女子校出身の他の生徒たちのように「シスター」と呼びかけることにどうにも馴染めず、思わず「先生」と言ってしまったバツの悪さをいまでも覚えています。校内にあったお御堂に入ったのも数えるほどしかなく、近い環境にいたからこそ、余計、私には縁のないものとしてキリスト教を遠くに感じていました。

 

だから、そんな私が巡礼をしてもいいのか、神の冒涜にはあたらないのか、ずっと心に引っかかっていたのです。

 

「私、ちゃんと歩き通せるか不安なんです…」

テキパキと明日のピレネー越えの説明をする彼にポツリと告げたところ、

「大丈夫、大丈夫、心配なんてする必要はないよ。足を止めずに進めば着く。それだけだよ」と大笑い。そしていきなり「あなたは独身?」。

 

若干、面食らいつつも「はい」と答えると、「僕はね、人生のパートナーをこの巡礼で見つけたんだよ。巡礼の途中で出会って、今も一緒にいるんだ。あなたにもチャンスがあるから、頑張りなさい」。

…巡礼に対して抱いていたストイックなイメージが一瞬にして消え去りました。そうだ、忘れてた、ここは死ぬまで男が男で、女が女である国、フランスだった!(笑)

 

そしてもらった真っ白なホタテ貝。巡礼者である目印です。これをバックパックにキュッと結びつけ、私は晴れて巡礼者になりました。

 

巡礼事務所でもらったクレデンシャルと宿のリスト。道の高低差も表した行程提案表は大助かり。1と書かれた枠を見ると、第1日目のサン=ジャン=ピエ=ド=ポーからロンセスバリェスへの道がどれだけしんどいか、一目瞭然。

 

  • MEMO 第3日目 計25.9km

ララソーニャ(スペイン/ナヴァラ地方)

シスルメノール(スペイン/ナヴァラ地方)

 

林の中を歩くことが多く、比較的、アップダウンの少ない行程。遠くに工場や新興住宅地が現れ、行き交う車や人も増えて、だんだんと大きな生活圏に近づいているのがわかる。古い城壁を越えると、牛追い祭りで有名な大都市パンプローナ。賑やかな街に、ポプラの綿毛が一面に舞っていた。

 

地図イラスト/石田奈緒美

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