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第1章 巡礼旅は怖くない 7・荷物はとにかく軽く、コンパクトに

大滝美恵子

大滝美恵子

フードライター&エディター、ラジオコメンテーター。横浜生まれ。「Hanako」からスタートし、店取材を続けること20年。料理の基礎知識を身に付けたいと一念発起、27歳で渡仏。4年の滞在の間にパリ商工会議所運営のプロフェッショナル養成学校「フェランディ校」で料理を学び(…かなりの劣等生だったものの)、フランス国家調理師試験に合格。レストランはもちろん、ラーメンや丼メシ、スイーツの取材にも意欲を燃やし、身を削って(肥やして!?)食べ続ける毎日。

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憧れは「キャンディ•キャンディ」のトランク

 

思い起こせば、テキ屋稼業で日本全国を渡り歩いた「寅さん」も、宇宙空間を走る銀河鉄道で旅したミステリアスな美女「メーテル」も、そして白馬に乗った王子様がいつか現れる幻想を私に植えつけた「キャンディ」も、手で提げられる(あまり重くなさそうな)トランクひとつで旅をしていました。とくに白地に四隅の赤い留め具が付いた「キャンディ」のトランクが欲しくて欲しくて、おもちゃ屋さんの店先で泣いてねだった記憶があるような、ないような…。リボンやフリル、ストライプの可愛いたくさんの洋服があのトランクに全部入るのかなと、子供ながら不思議に思ったものです。

 

王子様なんていないという現実(!?)を知ったいまも、旅の理想は「トランクひとつ」。世界中どこへ旅しようと、そして巡礼旅にはなおさら、荷物は軽いに越したことはありません。

 

出発前、私は真剣に持って行く荷物の選別と10グラム単位の軽量化に取り組みました。それは本当に必要なのか。紛失したり壊したりしても泣かないか。ゴールしたら捨てていいものか。何とか軽くすることはできないか。

 

普段の日常生活で、私が持ち歩くバッグ、これがまた重いんです…。パソコンや仕事の書類が入っている時はもちろんですが、まず、化粧ポーチが大きいのは否定できません。メイク道具、歯ブラシセット、裁縫道具、胃薬に整腸薬、ハンコ、口臭予防のガムに飴…。メイク直しもほぼしませんし、外出先で歯を磨くこともほぼないのですが、「いざという時に困らないように」という意識が強いせいか、小さめのかぼちゃレベルの塊がいつもバッグの中に投げ込まれています。「モテる女の鞄は小さい」なんて巷の噂は、私にとっては住む世界の違う話でして…。

 

 

防水加工の登山靴、人前で着られるギリギリの着古した服、旅館の名入りタオル、軽さで選んだ寝袋、安いビーチサンダル、芯を抜いたトイレットペーパー、日数ピッタリの常用薬、割り箸とフォーク、充電器に変換プラグなどなど。厳選しているつもりでも、みるみるバックパックが膨らんでいきます。

 

約1ヶ月にわたる旅なので、洗顔セットやコスメポーチも普通の感覚で用意すると、とんでもないことになります。いかに「持っていかない」決断をするか頭を悩ませていたところ、タイミングよく耳にしたのが、シャンプー&リンスを使わない「湯シャン」、そして化粧はもちろん、基礎化粧品も使わない「何もしないスキンケア」という美容の考え方。もちろんその正しい理論や方法があるのですが、すぼらな私はこれ幸いと、その文字面だけを都合良く解釈し、「持っていかない」決断の理由にすることにしました。

 

その結果、ポーチの中には洗髪と洗顔、ボディソープとしても使える多目的液体石鹸と化粧水、日焼け止め、そして毛抜きだけ(洗面台の鏡の位置が高すぎて使える機会がほぼなく、ムダ毛への意識はいつからかなくなるのですが…)。普段、それだけすれば外出用の顔になると思い込んでいる口紅が、一番、持っていかない勇気が必要だったものでしょうか。スカスカしたポーチを眺めていたら、リボンのついたお気に入りのポーチ自体がいらない気がしてきて、最後にはジッパー付きの保存袋に入れ直すことにしました。

 

巡礼の荷物準備のコンセプトは「虚栄心より安全&軽量化」。あれがないと困ってしまうのではという「イタズラな不安」と、他人からどう思われるかという「世間の目」をどれだけ置いていけるかという、内なる心の戦いでした。

 

 

「予備はいらない」を強く心がける

 

もうひとつ、心がけなければならなかったのは「予備はいらない」という意識でした。失くした時のための2本目のペンや、予備の乾電池はバックパックには入れませんでした。出番のないアイテムは持っていってはいけない、すべてが必ず使うものであれ。…そう呟きながら、目の前の、何年も着たことのない服や鞄で溢れかえる洋服ダンスの現状は見て見ないフリ(苦笑)。

その意識の攻防戦は歩き始めてからも続きました。歩いている途中でしばらく予備を手放せなかったもの、それは水です。

 

初日の山越えで、巡礼事務所でのアドバイス通り、1リットル入りの水のペットボトルを2本、バックパックに入れました。ちょっと大袈裟かなと思っていたのですが、私にとっては地獄のようだった山道ルート、なんと途中で水を飲み切ってしまいました。泉が渇水していた不運も手伝って、唇を湿らす程度にと気を付けていたのですが、まだまだゴールまで程遠い地点で2本のペットボトルは空っぽ…。水がないと思えば思うほど、喉や唇に意識がいってしまって、しんどい山道がさらにしんどくなりました。

 

それがトラウマになってしまい、巡礼路に村々が頻繁に現れるようになってからも、2リットルの水を背負って歩いていました。村に入ればバルで水が買えたり、教会や公園の泉で水を補充することができるので、1本で十分だと頭では解っていたのにもかかわらず、です。

 

経験から感じてしまった不安はしばらくの間、小心者の私のバックパックを重くしていましたが、旅に慣れるに連れ、ペットボトルのサイズも小さくなっていきました。そう、水の代わりに道中のバルで飲むようになったグラスワインの量と反比例するように(笑)。

 

 

巡礼路には、びっくりするような荷物を持った、たくさんのツワモノがおりました。ガスコンロ一式を持ってきていたロシア人の男の子のバックパックは驚愕の30キログラム。長髪&ヒゲのオーストラリア人男性が背負っていたのは趣味のギター。巡礼のゴールに近づくにつれ、段々にアルベルゲ(巡礼者向けの宿泊施設)の台所設備が貧弱になっていくので、途中で大きな中華鍋を買って交代でバックパックにくくりつけていた若者グループ。まだよちよち歩きの可愛い赤ちゃんをバギーに乗せて押して歩いていたママさん巡礼者…。

 

どれだけの荷物を背負うのか、背負わないのか、大切なものは家に置いてくるのか、一緒に連れて行くのか、それはその人次第。100人いれば100通りのカミーノ(巡礼)のスタイルがあるのです。

荷物デリバリーが年齢の分かれ目!?

 

今日の行程のハイライトは緩やかながらも、丘を上る道。「なんで上りなのよ!?」と理不尽な文句を垂れながら、それでも足を進めます。色の褪せた雑草や低木が生えた大地に緑の麦畑が申し訳程度にある風景は、残念ながらあまり目を楽しませてくれるものではありません。

 

けれども、砂利道をえっちらおっちら歩いている私を追い越していく巡礼者の顔ぶれのユニークなこと! ぴったりフィットのサイクルウェアで自転車を走らすサイクリングチームには、余裕たっぷりの熟練者からいまにもバタンと倒れそうなフラフラタイヤの人まで、様々な状態のメンバーが。とっても明るいスペイン人のおじさまは、タバコとワインの入った革の水筒だけを持って歩いていて、水筒に口を付けずに飲む様子を写真に撮らせてくれました。これだから、なんやかや言っても、巡礼旅は楽しいのです。

 

 

息を切らして山道を登り切り、谷を見下ろすように置かれたベンチでひと休み。「よいしょ」と荷物を足元へ降ろして、あたりに人がいないのをいいことに、両手両足を投げ出してベンチに横になってみました。呼吸が整ってから、鈍痛が始まっていた右膝を気休めのマッサージ…。

 

すると「なんで今日は重たい荷物をもってるんだい!?」と背後から大きな声。現れたのは南アフリカ共和国から来たリチャードさん。昨日、初めて言葉を交わして顔見知りになったのですが、年齢は60歳過ぎくらい、もう4回目だというベテラン巡礼者です。私のバックパックを持ち上げて、首を横に振ります。黒いサングラスの下の表情ははっきりとわからないですが、一文字に結んだ口元と両手を広げたジェスチャーで、呆れているのは一目瞭然。「こんなに重いの、送らなくちゃダメだよ」と言いながら、背中の超軽量ナップザックから筋肉痛緩和クリームを取り出して、私に貸してくれました。

 

荷物は軽くすべきだと声高に言ってきましたが、実は巡礼路では一般業者やスペイン郵便局による、村から村へ荷物を運んでくれるデリバリーサービスを利用することができます。運賃は一区間(約25kmまで)、1個5〜8ユーロくらい(日本円で700〜1,000円程度)。連絡先、目的地を書いた専用の袋にお金を入れて、荷物に結んでおきます。高齢者をはじめ自転車チーム、体力に自信のない人、途中でケガをしてしまった人など、いろいろな人がこのサービスを利用していました。

 

 

昨日、リチャードさんと会った時はデリバリーサービスを利用して私も身軽で歩いていたのですが、今朝は何となく大丈夫そうな気がして、すべての荷物を背負って歩いていたのです。昨晩のアルベルゲで思いがけず受けられた全身マッサージのおかげで気力が持ち直したせいもあるのですが、ほかにもこんな理由がありました。

 

いままで何日間かデリバリーサービスを利用していたのですが、身軽で歩いている時、「荷物軽そうだね」「なんで荷物が小さいの?」と声をかけられることが多かったのです。彼らにしてみたら、深い意味はなかったのでしょうが、「デリバリーサービスで送ったの」と答える度、自分が荷物を持って歩けない年寄り!?と宣言しているような気に…。若い子でも荷物を送る人はいますし、まったくアホな見栄に過ぎないのですが、願わくば大多数の若い子たちと同じでありたかったのです。あぁ、「若く見られたい」という気持ちはどこまで自分の首を絞めるのでしょうか…。

 

それに「荷物を送る」という行為に、何となく罪悪感を感じていたのも事実です。途中でバスや車を使って道をスキップすることについても同じでした。巡礼を成し遂げるには最後の100キロメートル区間を完歩すればいいので、途中までは交通機関を利用しても何の問題もないのです。けれどもどうしても「ズル」という考えが頭をよぎってしまう。ラクをすることが巡礼にはふさわしくないのでは、という思いが常につきまとっていました。

 

そして、さらにもうひとつ。1日1回5ユーロ程度とはいえ、1ヶ月間のトータルで考えるとこの運送費、バカにならないのです。清貧の巡礼旅において、1ユーロの食費もキリ詰めて、何より交通費をかけずに旅しているのに、毎日、当たり前のようにこの代金を払っていいものか…。実際、このサービスを利用している人のほとんどは身体に荷物の負荷をかけたくない、そして金銭的に余裕のある高齢者組。私は金銭的に余裕があるアダルトチームなの? それともまだまだ若さで乗り切れるヤングチームなの? 46歳の乙女心は揺れに揺れるのでありました。

 

数日分の痛み止めの薬まで分けてくれたリチャードさんに、「明日はそこまで大変なルートじゃないけれど、膝が痛いなら無理して荷物を背負わないこと。ゴールできなくなったら、元も子もないでしょ」と諭されつつ、うっすらと丘の向こうに見えてきた本日の目的地・ビアナを目指します。

 

街の入り口近くにあった私営アルベルゲに迷うことなくチェックイン。何十キロにも感じられていたバックパックをおろし、ふうーっと肩で大きく息をします。すると、私のパスポートを見た受付の女性スタッフに「あなたは若く見えるわね、とてもこの歳には見えない」と言われて、「いやいやいや」と手を振りながらも、思わず笑みがこぼれます。やっぱり明日も荷物を背負おうかしらん!? とその気になった私の目に飛び込んできたのは、脱いだ帽子の内側にできた白髪染めの黒い輪染み。現実にハタと気付き、満面の笑みは力のない苦笑いに変わっていったのでした…。

 

(次回に続く)

 

 

  • MEMO 第7日目 計18.6km

ロス アルコス(スペイン/ナヴァラ地方)

ビアナ(スペイン/ナヴァラ地方)

 

ロス アルコスから約8キロメートル、エルサレムにある聖墳墓教会と同じ形をした八角形の聖セプルクロ教会で知られるトレス デル リオまでは平らな道が続く。人里を離れ、低木の茂る丘を登っていくと、遠くにはラ・リオハ地方の山影がうっすらと。今日、目指すのは丘の上の城壁の街・ビアナ。ナヴァラ地方最後のこの街には、ルネサンス期の政治家チェザーレ・ボルジアが眠っている。

 

地図イラスト/石田奈緒美

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