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第1章 巡礼旅は怖くない 9・英語が苦手でも問題なし 〜口角あげて、おぼこくね!!〜

大滝美恵子

大滝美恵子

フードライター&エディター、ラジオコメンテーター。横浜生まれ。「Hanako」からスタートし、店取材を続けること20年。料理の基礎知識を身に付けたいと一念発起、27歳で渡仏。4年の滞在の間にパリ商工会議所運営のプロフェッショナル養成学校「フェランディ校」で料理を学び(…かなりの劣等生だったものの)、フランス国家調理師試験に合格。レストランはもちろん、ラーメンや丼メシ、スイーツの取材にも意欲を燃やし、身を削って(肥やして!?)食べ続ける毎日。

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昔から拭えない英語コンプレックス

告白しますが、ここで書いていること、デタラメが多いんです。

 

「ええっ!?」と驚く声が聞こえてきそうですが、実は100%事実と断定できないことがありまして…。というのも、楽しそうに巡礼中の出来事を書き連ねているので、きっと語学達者と思われているのではと想像するのですが、私、英語がとても苦手なんです…。空港の入国審査や駅の窓口の切符購入、レストランでオーダーできるくらいの「日常会話レベル」はどうにかなるものの、それ以上の込み入った会話になると耳は自動的にシャットダウン。英語が共通語である路上のやりとりは、「想像力」という分厚いフィルターを通して、私の脳にインプットされたものばかり。だから恐ろしいかな、まったく見当違いな理解をしている可能性も否定できない訳でして…。

 

 

「Buen Camino!(ブエン カミーノ)」。

 

どんなにシャイな人でも、はたまたひとりで歩きたい人でも、一日中、誰とも口を聞かないなんてことは巡礼にはありえません。誰もが言い、言われる言葉、それがスペイン語で「よい巡礼を!」という意味のこの言葉です。「おはよう」や「こんにちは」だったり、時に「頑張ろう」や「あともう少しだよ」だったり、様々な意味を持って心に響きます。

 

歩くのが遅い私は後ろから誰かが歩いてくる気配を感じると、こちらから先に言うのか、向こうから言われるのかドキドキしながら、「5、4、3、2…」と心の中でカウントダウン。そして横を向いて、満面の微笑みで「ブエン カミーノ!」を投げかけます。何も言われないで抜かされていくのはイヤだったので(たまにはそういう人もいるのですが)、ほとんどこちらから、自発的にニッポン人女子のイメージアップを図っていました。

 

ただし、その笑顔が時々、自分自身に試練をもたらすのです…。

 

たいていは挨拶と二言、三言くらい言葉を交わした後、抜かされて行くのですが、私のスマイルにノックダウンされるのか(苦笑)、スピードを緩めて一緒に歩こうとしてくれる人がいます。そういうフレンドリーな人はほとんどが英語が流暢に話せる人か、英語圏から来た人たち。もちろんおしゃべりは楽しいのですが、聞き取れない英語に頑張って相槌を打っていると、10分、20分、会話は明らかな苦痛に…(涙)。私の鈍いスピードに合わせてもらっているのも申し訳なく、足が痛くなったフリをして「ちょっと休憩するから、どうぞ先に行って」と何度、演技をしたことか…。でも、あまりにその演技がうますぎて(!?)、なかには心配して一緒に休憩してくれた「泣けるほどいい人」もいました。

 

 

この日、泊まるのは10世紀にナヴァラ王国の首都だった古都ナヘラから約6キロメートル先にある、アゾフラという小さな村。白亜の回廊の美しいサンタ・マリア・ラ・レアル修道院を見学しにナヘラに滞在してもよかったのですが、身体が慣れて来たせいか「もっと歩きたい」欲求にかられ、ナヘラの公営アルベルゲ(巡礼者向けの宿泊施設)のチェックインを待つ列を横目に、先へと続く赤茶けた岩山の道を登り始めました。

 

途中でアメリカ・コロラド州出身のコリンに話しかけられ、ホームスクーリング(学校に行かずに家庭で勉強すること)で大学に入学したという息子さんの話を興味深く、一生懸命聞いているうちに、気付けば村の入り口に到着。目抜き通りのバルのテラスで遅めのランチをしていた、私の巡礼の先生的存在の南アフリカのリチャードに「ここまで来て大正解だよ、早くチェックインしておいで」と声をかけられ、向かった公営アルベルゲの素晴らしいこと!! 3階建ての現代的な建物は驚きの全室ツイン利用で、各フロアにシャワーが設置され、広々としたガラス張りのダイニングホールも居心地がよさそうです。

 

くつろげそうな雰囲気に皆、溜まっていた疲労も軽くなったようで、食堂では自炊した料理を前に笑い声の上がるグループがちらほら。私も看護師のアメリカ人女子・アリシアに「ワインの試飲をしない?」と誘われて、村の小さな食品店へご当地、ラ・リオハ地方のワインとチーズ、オリーブの買い出しに。参加メンバーが英語ネイティブスピーカーばかりだったので、最初は「引っ込み思案」を発揮して、ひたすら飲み&食べるのみだったのですが、そのうち濃厚な赤ワインを味方に、勇猛果敢にどうにか会話に切り込んでいきました。

 

 

巡礼をするのに語学力の有無はあまり問題になりません。もちろんスペイン語を少し勉強しておけばよかったなと思ったことはあるものの、英語については「日常会話」レベルで大丈夫。道中、言葉を交わすことになるアルベルゲやバルで働くスペイン人は巡礼を支えるプロ。スペイン語も英語も話せなくても(きっと)どうにかしてくれます。巡礼者にも英語を話さない人はいますし、話せる人は話せるなりの、話せない人は話せないなりの、交流が楽しめるのがカミーノ(巡礼)です。単語レベルのつたない英語しかコミュニケーションを図る方法はないのに、一緒に歩いていたイタリア人のおじいさんとOurAge世代の韓国人女性の仲の良さは羨ましいほどでした。

 

「思っていることを伝えようとする」というキモチ、そして足りない語学力をフォローする「想像力」が、英語コンプレックスに立ち向かう私のつたない武器なのです。

困った時は「困った」アピールを!?

 

巡礼は「一期一会」という言葉を噛みしめる旅です。

 

スタートの日が同じだと、大多数の人は同じくらいの距離を歩くので、泊まるアルベルゲや滞在する村が異なったとしても、抜きつ抜かれつ、後日、また会えたりします。日を重ねるに連れ、段々と顔見知りが増えていくのですが、一方で約束をして一緒に歩いている訳ではないので、スピードやスケジュールが違えば、二度と会えない人も大勢います。そう、明日も会えると思って連絡先を交換しなかったのを悔やんでいる、忘れがたい巡礼者がどれだけいることか…(涙)。

 

そのうち、たとえ口を聞いたことがなくとも、ホタテ貝をぶら下げた巡礼者というだけで、仲間意識が芽生えてくるから不思議です。性別も年齢も国籍も関係ない、サンティアゴ デ コンポステーラを目指す者同士という仲間意識。それは散歩中のワンちゃんの飼い主同士が、ベビーカーを押しているママさん同士が抱くであろう、「この人もきっといい人に違いない」と言う思いと同じでしょうか。もちろん巡礼中、誰かと交わることが義務ではないですし、ひとりで歩きたかったら、ひとりで歩けばいいのです。けれども何か困った局面にぶつかった時は、巡礼者にヘルプを求めるのが正解…と言うより、求めていなくても救いの手が差し伸べられるのが巡礼旅!?

 

 

ピレネーの険しい山越えに挑んでいる最中、あまりの疲労に思考は停止、ただただ歩く機械と化していた時、後ろから大声で「ストーーップ」と叫ばれました。自分に向かって言われたのかどうか、とりあえず本気の大きな声だったので振り向いてみたら、100メートル以上離れた場所から、両腕をふって「ノー」と叫んで走ってくる女性たちが…。よくわからないまま立ち止まっていると、「そっちは行っちゃいけない道よ。戻ってきて」と3人のスペイン人女性のグループに手招きされました。あっ、そう言えば、道が崩れて危険だから矢印通りに行ってはいけないと巡礼事務所で言われた場所があったっけ…。

 

行き過ぎた石碑をよく見ると、別の方向を指すフレッチャ(矢印)がうっすらと描いてあります。少し頭をふって我に返ると、「どうもありがとう。疲れすぎてて、何も考えられなかったの」と同世代らしき彼女たちにお礼。すると「いいのよ、私たちももう限界だもん。さ、これ、舐めて、気分が変わるわよ」とハッカ味の飴をくれました。優しさに嬉しくなって、もらった飴をすぐ口に放り込んだのですが、水を持っていない状態だったのをすっかり忘れ、口が乾いて、大変な目になったのはご存知の通り…。

 

そして、その日の夕方、目まぐるしく変わった天候のせいもあり、ヘロヘロになってたどり着いたアルベルゲのチェックイン時。スペイン語のやりとりで正確にはわからないのですが、どうやら並んでいる列の前方でベッドの空きがないと揉めている…!? もう歩き続けられないし、どうしよう…と絶望的な気持ちになってしゃがみこんでしまったところ、「どうしたの?」と先ほどの3人組の女性たちが到着。事情を話すと、「大丈夫、私たちのキャンセル分をあげるわ」と心強いセリフ。なんと、ドタキャンした友達の分のベッドの予約を譲ってくれることになりました。あぁ、ありがたや、ありがたや。

 

私にとっては救世主だった彼女たち、翌朝の出発時にお礼を言いたかったのですが、ゆっくり支度をしながら待ってはみたものの、起きる気配はまるでナシ…。残念ながら、彼女たちとはそれきり二度と会うことはありませんでした。

 

 

普段からひとり旅が多いにもかかわらず、「おひとり様」であることを「寂しい」「恥ずかしい」とどこかで思っている節があって、周りにそれを悟られないために「ひとりでも全然平気」「ひとりで何でもできる」と言うアピールを無理にする自分がいました。そう、困っている素振りは見せたくない。誰も私の動向なんて気にもしていないでしょうに、これぞ自意識過剰の見栄っ張りです(苦笑)。

 

そんな私が巡礼中、困っていたらそれを隠す必要はないんだと思うようになりました。優しさや労りの気持ちを躊躇せず表してくれる人たちに囲まれた空間では、弱さをさらけ出す方がまったく生きやすいことに気付いたのです。無理して差し出された手を遠ざけるより、素直に握り返すほうが相手の厚意に報いることができるってものですよね!?

 

これって図々しいオバサン思考かしらと思いつつも、私が決めた旅のモットーは「口角上げて、おぼこくね!!」。何しろ常に笑顔で、知ったかぶりは止めて、困った時は困っている状態を隠さないようにしました。そのおかげで、巡礼はより人の優しさに触れられる旅になりました。

 

(次回に続く)

 

  • MEMO 第9日目 計21.8km

ナバレッテ(スペイン/ラ・リオハ地方)

アゾフラ(スペイン/ラ・リオハ地方)

 

頂上の公園を中心通りが渦状になっている街・ナバレッテ。巡礼路は茶色いぶどう畑へと繋がっていく。大地にどっしりと根をはるぶどうの木々は、まだ4月の新芽をわずかに出したばかり。ナヘリリャ川を目指して緩やかな坂道を下って行くと、ラ・リオハ地方の中間地点にあたる古都ナヘラ。地層の見える赤い岩肌の山道を登ると、再び一面のぶどう畑が現れる。

 

 

地図イラスト/石田奈緒美

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