第1章 巡礼旅は怖くない 10・大人ひとり巡礼旅のススメ!?

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フードライター&エディター、ラジオコメンテーター。横浜生まれ。「Hanako」からスタートし、店取材を続けること20年。料理の基礎知識を身に付けたいと一念発起、27歳で渡仏。4年の滞在の間にパリ商工会議所運営のプロフェッショナル養成学校「フェランディ校」で料理を学び(…かなりの劣等生だったものの)、フランス国家調理師試験に合格。レストランはもちろん、ラーメンや丼メシ、スイーツの取材にも意欲を燃やし、身を削って(肥やして!?)食べ続ける毎日。

 

イースターの日に辿り着いた“奇跡の鶏”の街

朝、小さな洗面台で顔をバシャバシャと洗っていると、白人の若い女の子に「ハッピーイースター!」と声をかけられました。そうです、今日はイースター、スペイン語では「La Semana Santa(セマナ サンタ)」。十字架に架けられたイエス様が復活した日です。

 

アゾフラから緑の平原を歩くこと約4時間。菜の花畑の向こうに教会の塔の先端が小さく見えてきました。聖人ドミニコ(スペイン語名はドミンゴ・デ・グスマン・ガルセス)の名前を冠する街、サント・ドミンゴ・デ・ラ・カルサーダに到着です。広場では市場が開かれていたり、カメラを持った観光客とすれ違ったりして、街は華やいだ春の連休気分満載。太鼓の音が聞こえてくるほうへ歩いていくと、聖母マリア像を乗せた山車を引く行列と出くわしました。悲しい印象の短調の調べのなか、黒いベールを纏ったマリア様が運ばれて行きます。街のはずれの聖フランシスコ広場まで来た行列は、今度は色とりどりの花で飾られたイエス様を先頭に、白いベールに着替えたマリア様を従えて、街の中心へと戻って行きました。

 

さて、巡礼の重要な中継地として栄えたこの街には12世紀に造られた白い石造りのカテドラルがあり、聖ドミニコの眠る墓があるのと同時に、彼が起こした鶏にまつわる奇跡でも知られています。

 

その昔、ドイツから来た夫婦とその息子が巡礼途中に、この街に滞在しました。宿の娘はその若者に恋するのですが、振り向いてもらうことができず、愛しさ余って憎さ100倍、娘は若者の荷物に銀の杯を隠して、それが盗まれたと訴えました。若者は捕らえられ、盗難罪で絞首刑に処されてしまいます。翌日、嘆き悲しんだ夫婦は最後にもうひと目だけ息子の遺体に会いたいと処刑台に向かうのですが、驚いたことに「聖ドミニコが私の命を守ってくださいました」と言う息子の声が聞こえてきました。驚いた夫婦はそれを市庁舎に伝えに行きますが、食事中だった市長は目の前の皿を指して「あの若者がまだ生きているなんて、このグリルチキンが生きていると言うのと同じだ」と疑います。すると奇跡が起き、料理された鶏肉が調理前の元気な姿に戻ったのでした。

 

「グリルした鶏が歌うサント・ドミンゴ・デ・ラ・カルサーダ」という言葉と共に、奇跡にちなんでこのカテドラルでは鶏が大切に飼育されています。庭の片隅に置かれた木製のオンボロの鶏小屋ではなく、なんと教会内のゴシック風装飾の美しい鶏舎で飼われているからビックリ!! さすが、奇跡の立役者のニワトリさん、超破格の高待遇…。

 

 

街のパン屋のショーウインドーにも、「聖人の奇跡」と言う名の鶏の形をした菓子パンが並んでいます。しかし、「うっ」と私が釘付けになったのはその隣…。「聖ドミンゴのパイ」と言う名のお菓子、こ、これはどう見ても人間!? なんでも絞首刑になった若者をモチーフにしたパイで、最初は長方形の台で試作したのだけれども、あまりにも棺桶のようだとホタテ貝にしたとのこと…。中にはりんごペーストが入っているサクサクのこのペストリー、1993年の発売以降、この街を代表するお菓子になったそうです。日本で言うところの大仏饅頭や人形焼の、キリスト教版と言ってもいいでしょうか。リアルすぎた(それこそがニッポンの技術の高さなのですが)人形焼がどうしても食べられなかった外国人の友達を思い出しました…。

 

しみじみとウインドーを覗き込み「うぷぷっ」と漏らしてしまった笑い声を、あたりを見回して慌ててひっこめました。笑うなんて失礼かしらん。あーあ、一緒に笑ってくれる誰かが隣にいたらなぁ…。

 

ひとり旅は優しさも、切なさも身にしみる

 

ひとりの巡礼が寂しいなと思うのは、美しい景色を目の前に、それを分かち合う相手がいない時。また、何かイヤな目にあって、その愚痴を聞いてくれる相手がいない時。誰かがいればその感動は2倍になりますし、そして逆に困難は2倍、こたえるのです。

 

巡礼路にはいろいろなグループが歩いていました。仲の良い賑やかなスペイン人の同級生グループ、SNSで巡礼参加を呼びかけて集まった初対面同士だと言う台湾人チーム。定年退職を機に念願だった巡礼の夢を叶えたフランス人夫婦は、歩くのが遅れがちな奥さんをご主人がさりげなくフォローしている絆が素敵でした。また、20歳前後の息子たち3人を連れたアメリカ人のお母さんは、エプロンをつけて朝食を作り、揃ってお祈りをしている姿がとても微笑ましくて。30代の韓国人カップルは誰をも惹きつけるオープンハートの持ち主たちで、二人で過ごす時間を大切にしたいと仕事を辞めてハネムーン巡礼に来たなんて、身悶えするほど憧れちゃう!!

 

 

ひとりで旅をしていると、誰かから与えられる優しさがとても心に響きます。そして日頃、何気なく自分が受けている優しさを、ありがたく思い出します。ただでさえ歳のせいで涙もろくなっているのに、さらに巡礼中の涙腺の弱さときたら、触れば水が出てくる壊れた蛇口…。 望んでひとりで巡礼旅に出たものの、いつも隣に仲間がいる人たちを、素直に羨ましいと思って見ていました。

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