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「特別展 明治150年記念 日本を変えた千の技術博」がおもしろい!

吉田さらさ

吉田さらさ

寺と神社の旅研究家。

女性誌の編集者を経て、寺社専門の文筆業を始める。各種講座の講師、寺社旅の案内人なども務めている。著書に「京都仏像を巡る旅」、「お江戸寺町散歩」(いずれも集英社be文庫)、「奈良、寺あそび 仏像ばなし」(岳陽舎)、「近江若狭の仏像」(JTBパブリッシング)など。

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こんにちは、寺社部長の吉田さらさです。

芸術の秋、東京の上野公園では、国内外の美術品を集めた素晴らしい展覧会がいくつも開催中ですが、今回はちょっと趣向を変えて、美術ではなく、科学にまつわる展覧会に行ってみました。

国立科学博物館で開催中の「特別展 明治150年記念 日本を変えた千の技術博」です。

この展覧会を見ようと思ったのは、「明治150年」という言葉に興味を引かれたから。大河ドラマ「西郷どん」などを見ていると、江戸から明治へと移り変わる時に起きたさまざまな変革を、庶民たちがよく受け入れたものだと感心します。それから150年。長い歳月のようですが、日本の歴史の中では、比較的短期間に大きな変化を遂げた時代とも言えます。しかも、そのうち何十年かは自分も実際に体験しています。この展覧会は、科学技術の進歩という観点から、明治から現代に至る時代を検証する内容になっており、今の日本人の生活がどのようにして出来上がったのかを知ることができます。さまざまな科学技術による身近な製品が展示され、自分の人生と重ね合わせながら見ることもできて、とても面白いですよ。

展示は8つの章に分かれており、案内役は、この伝説の聖獣、鬼龍子(きりゅうし)君です。鬼龍子は、江戸時代の幕府直轄の教育機関であった昌平坂学問所を守っていましたが、関東大震災で、建物とともに焼け落ちたと伝わっています。日本人が明治維新という大変革を受け入れることができたのは、江戸時代から学問が盛んで、武家の人々のみならず、庶民の多くが読み書きができたというのが理由のひとつ。鬼龍子君は、日本の学問の発展を見守ってきた存在とも言えます。

 

 

第一章は、明治維新 科学と技術で世が変わる」。

学校制度、科学という学問の始まり、医学、繊維、鉄道など、明治維新後に導入された西洋の考え方や技術を、人々がどう取り入れていったかがわかる展示です。今のわたしたちが当たり前と思って使っているさまざまな制度や技術の始まりが明治維新であったことが、よく理解できます。

中でも印象深いのは。この「凌雲閣」に関する展示です。

明治23年、東京の浅草に登場した12階建ての西洋建築で、またたく間に大人気の観光地になりました。高さ52m。当時の人々にとっては、それが雲を凌ぐほどの高さに見えたのです。現在の東京で一番高い建造物は東京スカイツリーで634m。技術の進歩に驚かされます。

この建物には日本初のエレベーターも設置されていましたが、危険性を指摘され、使用できなくなりました。そしてこの建物自体も、大正12年の関東大震災で上部が倒壊し、解体されました。しかし、こうした大きな災害の経験が、その後の科学のさらなる発展を促したとも言えます。特に地震の多い日本では、揺れに耐える技術の開発が重要なポイントとなっていったのでしょう。

 

電話に関する展示も興味深いです。

日本には、ベルが電話を発明した翌年、明治10年に早くも電話機が渡来し、遠方の人と声が繋がることに、庶民たちは驚いたのだそう。それから140年後の今、電話は小さなコンピューターとなり、誰もが一台持ち歩く必需品になりました。

 

 

第二章「科学で変える」の中の時計の展示も興味深いです。

今の日本人は時間に正確であると言われ、鉄道の運行の正確さなども世界一とされますが、意外にも江戸時代の日本人は、時間にきわめてルーズであったとのこと。しかし、明治8年には国内で時計を製造する人が現れ、明治半ばには、時計を作る町工場がたくさんできたのだそう。日本人は、正確に時を刻む時計という道具に魅せられたのでしょうか。そして時は流れ、1960年代、日本のセイコー社がクォーツ腕時計の開発に成功し、精度と実用性の高い国産腕時計が次々に発売されました。そうした経緯を経て、日本は世界一時間に厳密な国となったのです。技術の発展は、人の性質まで変えてしまうのですね。

 

 

第三章「くらしを変える技術」では、電気や照明に関する展示に注目です。

最初はガス灯、やがて電気による照明に変わり、夜の街は明るく安全なものとなり、人々の活動時間も広がりました。

人々の暮らしをさらに変えたのは、さまざまな道具の電化です。扇風機、冷蔵庫、掃除機、洗濯機など、便利な家電製品の普及により、特に主婦の仕事が大きく軽減されました。このあたりの展示になると、一部、わたしにも見覚えのあるものが。わたしの子供のころの洗濯機には脱水機能がなく、洗濯物を二つのローラーに挟んで絞る形でしたっけね。

 

 

次ページに続きます。

第五章「モノを変える技術」。

こちらにも、わたしがよく知っているものの展示がありました。セルロイドのおもちゃや筆箱、石鹸箱などは、子供時代に身近にあったものばかり。セルロイドは印刷が乗りやすく、発色がよかったので、いろいろな製品が作られましたが、燃えやすいという難点もあり、戦後は石油性プラスティックにとってかわられるようになったのだとか。

レーヨン、ナイロンなどの化学繊維の多様化により、安価でおしゃれな既製服が手に入りやすくなったのも、この時代の特徴です。

特にナイロンストッキングは、ミニスカートの流行とあいまって、熱狂的に女性に受け入れられました。なるほど、科学の発展は、ファッションにも大きな影響を及ぼしていたのですね。

 

 

第八章「コミュニケーションを変える技術」。

「昭和の電話」というコーナーには、わたしたちの世代にとって懐かしいものがたくさんあります。昔、家にあった黒電話、電話ボックスの黄色い電話、よく店先などに置いてあった赤い公衆電話、自動車電話などなど。学生時代は10円玉をたくさん握りしめ、公衆電話から誰かに電話しましたが、その後テレフォンカードが普及し、ずいぶん便利になったと感じたものです。しばらくするとポケベルなるものも登場し、こっそり連絡を取り合いたい恋人たちの役に立っていましたっけ。それが今や、誰でもスマートフォンを持つ時代になり、世界中どこにいても、瞬時にメッセージをやり取りできるようになりました。より高速かつ高密度に他者と繋がりたい。人間の持つそんな基本的な欲求が、電話という機械の恐るべき発達を後押ししてきたのでしょうか。

計算機に始まるコンピューターの発達にも目を見張るものがあります。子供のころ、自分がコンピューターを使って仕事をする日が来るとは想像していなかったけれど、今では、手書きよりパソコンで文章を書く方がずっと簡単になってしまいました。

それというのも、日本語による入力が可能になったおかげです。アルファベットだけで表記できる欧米の言葉とは違い、日本語には、漢字、カタカナ、ひらがなが入り交じり、機械で表記するのが極めて困難です。しかし、1978年にワードプロセッサーが登場することにより、日本語入力が可能になりました。1980年代も後半になると、ワープロは小型化し、値段も下がって、一般的な事務用品となりました。ここに至り、わたしたちもワープロが使えなくては時代に置いて行かれるという状況になり、必死で入力の練習をしたものです。ほどなくパーソナルコンピューターが普及し始め、ワープロはその役目を終えることになりました。

 

 

科学技術の発展という観点から見た明治150年は、わたしたちの生活を取り巻くさまざまなものが、恐るべきスピードで進化を遂げた時代であることがわかりました。その間、日本は、世界でも有数の科学技術大国になり、さまざまな製品を世界に送り出してきました。しかし、近年海外旅行に出かけると、日本の電化製品を見かける機会が減ってきた気がします。とりわけホテルのテレビは、少し前までならほとんどが日本製だったのに、今は違う国の製品に取って変わられているような。ほどなく平成も終わります。この展覧会を見た子供たちが、新たな技術を発明する人になって、より優れたメイドインジャパンの科学製品を生み出すことを期待したいですね。

 

 

特別展 明治150年記念

「日本を変えた千の技術博」

2018年10月30日(火)~2019年3月3日(日)

国立科学博物館(東京・上野公園)

展覧会特設サイト

http://meiji150.exhn.jp/

 

 

吉田さらさ

公式サイト

http://home.c01.itscom.net/sarasa/

個人Facebook

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