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天空の聖地 千葉の鋸山を歩いてみよう

吉田さらさ

吉田さらさ

寺と神社の旅研究家。

女性誌の編集者を経て、寺社専門の文筆業を始める。各種講座の講師、寺社旅の案内人なども務めている。著書に「京都仏像を巡る旅」、「お江戸寺町散歩」(いずれも集英社be文庫)、「奈良、寺あそび 仏像ばなし」(岳陽舎)、「近江若狭の仏像」(JTBパブリッシング)など。

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こんにちは、寺社部長の吉田さらさです。

 

今回は、千葉県富津市と鋸南町の境目にある絶景の山、鋸山をご紹介します。

この山は房州石と呼ばれる石の産地です。房州石は江戸時代から昭和60年までこの山から切り出され、建築資材として使われていました。石切りはとりわけ明治から大正時代に盛んに行われ、日本の近代化を支えた大切な要素のひとつでした。

現在は石切り場跡が大迫力の景観を作り出し、天空の絶景ポイントとして人気になっています。鋸山は標高329m。

麓からロープウェイに乗って登ることができますし、途中まで車で行くこともできます。しかし、それでも一部には険しいところもあるので、ある程度足元を固めてお出かけください。

 

今回は、代々石切り業に携わってきた「芳家」の16代当主である鈴木裕士さんにご案内ただきました。お父様の代まで実際に石切り業をしていたとのことで、鋸山のことを知り尽くしておられます。

 

石切り場の魅力をもっと広く知ってもらうためにさまざまな活動をなさっており、そのかいあって、2021年には、文化庁による日本遺産の候補地域に認定されました。現在は日本遺産登録を目指して、ますますパワフルに活動中です。

 

実際に鋸山に行く前に、まずは基礎知識をということで、鈴木さん達が運営なさっている鋸山美術館を訪ねました。石と芸術をテーマにして町おこしに取り組む金谷のシンボル的な存在で、地域にゆかりのある方を中心に、さまざまなアーティストの作品が展示されています。

 

同じ敷地内に、別館・鋸山資料館「あなたの知らない鋸山の世界」があります。

房州石で造られた国登録有形文化財の石蔵で、鋸山と石切りの歴史に関する資料がたくさん展示されています。古い写真や昔使われていた道具などを見ながら、鈴木さんが詳しく説明してくださいました。

 

 

ここで学んだあれこれの中でも特に印象に残った点は、鋸山の名前の由来についてです。

 

長年石切りが行われたことにより地形がギザギザになったことから鋸山と呼ばれるようになったと言われておりますが、実は元から山の稜線部分が鋸の歯ようであることからついた名前だそうです。

山の稜線はかつて「上総の国」と「安房の国」との国境で、それぞれが自分の国の方向に石を切り出したため、境目の部分がより尖ったのです。人の営みが、このように他に類を見ない景観を作り出したのですね。

 

石切り職人の仕事はたいへんな重労働でした。

つるはしを使って正確に決まった大きさの石を切り出し、石の滑り台を使って滑り降ろした後はねこ車を使って港まで運びます。運ぶのは、なんと、女性の仕事でした。

 

 

さて、いよいよロープウェイに乗って鋸山に向かいます。東京湾一望の素晴らしい眺めです。

 

 

鋸山は多くの部分が乾坤山日本寺というお寺の境内となっているので、拝観料を支払って入ります。

 

日本寺は今からおよそ1300年前、聖武天皇の勅詔と光明皇后のお言葉を受け、高僧行基菩薩によって開かれた、関東最古の勅願所です。勅願所とは、時の天皇や上皇の命を受けて国家鎮護などを祈るための寺のことです。

そのような由緒のある古寺が千葉にあったとは、これもまた驚きです。

 

 

しばらく歩くと、石切り場跡を貫く道に入ります。

両脇にある高い岩壁は自然のものではなく、長年石を掘り下げた結果、谷のような地形になったのです。

つまり、もともとは、両脇の岩壁の上が地面だったわけです。

 

こちらは、石を切り出した跡の岩壁に彫られた「百尺観音」です。

像高およそ30m。まるで中国やインドの巨大石窟のような迫力ある姿です。

昭和41年に6年の歳月をかけて完成。世界の戦争戦死病没殉難者の供養のため、そして、東京湾周辺の航海、航空、陸上交通の事故などの犠牲者を供養するために造られました。

 

 

石を切り出した後に残る岩壁。下に掘り進むため、地面もどんどん低くなります。

壁に大学名の落書きがありますが、これが彫られた時代は、ここに手が届く高さに地面があったということです。

 

 

その先の崖っぷちから下を覗くと、ますますものすごい景観が。

通称「ラピュタの壁」です。

昔ここは普通の山肌だったのですが、掘り進んだ結果、はからずも、このような大絶景が生まれたのです。人間の力に驚愕。

 

こちらは通称「地獄覗き」。

昔は右側の崖と左側の崖をつなぐ橋のような形だったのですが、今は右側だけ空中に突き出すような形で残っています。この下の岩はもちろんすべて切り出されたのです。

 

 

ものすごい高さです。高所恐怖症のわたしは、とても、この先端に立って地獄を覗くことなんかできません。

鋸山の見どころはまだまだありますが、登り下りがけっこうきついため、本日はここで終了して引き返します。

 

ロープウェイの乗り場に戻り、名物「地獄アイス」で疲れを癒しました。

竹炭とバニラ。意外とマイルドで美味しかったです。

 

 

翌日は、鋸山の中腹あたりまで車で行き、鋸山のもうひとつの名所コース、東海千五百羅漢を巡ります。

こちらもかなり上り下りがありますが、ほとんどのところで石段が整備されているので、前日よりは少し楽かも知れません。

 

 

羅漢とは仏教において最高の悟りを得た修行者のことで、十六羅漢、五百羅漢などがよく知られています。

十六羅漢はこの世に留まって仏法を守護する役割を持つ十六人の羅漢、五百羅漢は常にお釈迦様に付き添った五百人の羅漢で、それぞれ、像としてよく作られてきました。しかし、千五百羅漢というのは、世界でも類を見ない数です。1779年から1798年に、名石工の大野甚五郎英令という人が、27名の弟子とともに1553体の石仏を刻みました。

 

よく見ると、首の部分と体部の色が違う羅漢さんが多いです。

明治初頭に起きた廃仏毀釈運動の際に首が落とされてしまったため、新たなお首をつける修復がなされているのです。「羅漢様お首つなぎ」をはじめとした日本寺の復興活動は、今も続いています。

 

羅漢さんだけでなく、他のさまざまな種類の仏様の像もあります。

こちらは美しい観音様たちです。

こうした石仏群は岩肌をうがった洞窟のようなところに並んでおり、急な石段を上り下りしてお参りします。山内には、下界とは違う清らかな空気が流れており、まるで別世界のよう。

 

実はわたしは、長年ここに来たいと思っていたのですが、なかなかチャンスがありませんでした。しかし今回、よいご縁を得て、ようやく連れてきていただくことができたのです。感謝でいっぱい。

 

 

長い長い石段を下り切ったところに、圧巻の巨大磨崖仏があります。像高は約31m。

 

もとは千五百羅漢を彫った大野甚五郎英令が3年ほどかけて完成したものですが、その後荒廃し、昭和44年に再現されました。磨崖仏として全国最大級であるだけでなく、鎌倉の大仏様、奈良の大仏様よりも大きい、日本一の大仏様です。(磨崖仏としては日本最大)

 

この仏様は薬師如来です。手に持っている壺の中には病気に苦しむ人を治す薬が入っています。頼りがいがあって、救ってくださるお力も大きいように感じられるので、わたしは大きい仏像が好きです。

 

 

ここからさらに下ると、日本寺の薬師本殿や観音堂などがあります。

そちらもお参りしたかったのですが、時間や体力にも限りがあるので、また次回のお楽しみとしました。

 

 

下山し、海辺のシーフードレストラン「the Fish」でランチをいただきました。

ここではいろいろな魚料理が食べられますが、今回はこのあたりの名物のアジフライ定食をチョイス。さくさく、ふわふわで、ほんとに美味しい。

 

お店の前に魚のオブジェがありました。その背後には、先ほど登った鋸山が見えています。

山だけでなく海もグルメも楽しめる内房。

歴史も学び、盛りだくさんなショートトリップになりました。

 

 

鋸山に関する詳細情報は、こちらのサイトをごらんください。

 

鋸山美術館・鋸山資料館の情報こちらです。

 

鋸山日本寺公式サイトはこちらです。

 

 

𠮷田さらさ 公式サイト

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