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心がすっと静かになる不思議なアート空間

吉田さらさ

吉田さらさ

寺と神社の旅研究家。

女性誌の編集者を経て、寺社専門の文筆業を始める。各種講座の講師、寺社旅の案内人なども務めている。著書に「京都仏像を巡る旅」、「お江戸寺町散歩」(いずれも集英社be文庫)、「奈良、寺あそび 仏像ばなし」(岳陽舎)、「近江若狭の仏像」(JTBパブリッシング)など。

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こんにちは。寺社部長の吉田さらさです。

 

まだまだ暑い東京。今回も、見に行くだけで涼しくなる展覧会をご紹介します。

国立新美術館で現在開催中(~2022年11月7日〈月〉)の「国立新美術館開館15周年記念 李禹煥です李禹煥(リ・ウファン)は、1936年韓国に生まれ、日本に渡って哲学や美術を学び、世界的に活躍しているアーティストです。

 

最初に「見るだけで涼しくなる」と書いたのですが、それは、鑑賞者それぞれの感じ方によると思います。

 

わたしが美術館を訪れたのはおそらく35度近い日だったのですが、展示室に入った瞬間に、作品が醸し出す静謐な空気に包まれて、汗がすっと引くのを感じました。周りの人々の気配も消えて行き、そこにある作品と自分だけの世界に入ったかのような。現代アートは、このように、自分の個人的な感覚で楽しめばいいんだという基本を実感しました。

 

展覧会のホームページの中に、今回の展覧会について、李さんご本人が語っておられる動画があります。

 

それを拝見してさらに納得。誰でも既成概念を持っているが、そこから少しずれた何かを提示し、別の次元を覗き見るような体験を誘導したい。作品の意味を考えるのも大切なことだが、それ以前に、自分が身体を持った存在であり、作品が作り出す非日常な空間に入った時に、自分がどう反応するか、響き合うかを感じてもらいたいとのこと。

 

つまりわたしは、入った瞬間に涼しくなったという身体的反応を大切にすべきだということなのでしょう。

 

(中央)関係項 1968年/2019年 石、鉄、ガラス 森美術館 東京
(右上)第四の構成A 1968年 蛍光塗料、ベニヤ板 作家蔵
(左上)第四の構成B 1968年/2022年 蛍光塗料、ベニヤ板 作家蔵

 

床の上の作品は、鉄板の上にガラス板を敷き、その上に石が置かれています。ガラス板に石の影、天井の照明、壁の別の作品が映っています。

見る場所によっては、自分や他の鑑賞者の姿も映ります。それも含めて鑑賞の対象なのでしょう。

 

壁の作品は、目に突き刺さるほどの強烈な色合いと、平面なのにメビウスの輪のように見える目の錯覚を楽しみました。

 

 

関係項-不協和音 2004年/2022年 石、ステンレス 作家蔵

 

二つの石と二本のステンレスの棒。不協和音というタイトルがついていますが、わたしには、絶妙のハーモニーを奏でているように見えます。

 

置き方によっても違って見えるのでしょうか。

 

 

関係項-棲処(B)2017年/2022年 石 作家蔵

 

もとは、2017年にフランスのラ・トゥーレット修道院で開催された『ル・コルビュジエの中の李禹煥 記憶の彼方に』という展覧会のために制作されたものを展示室内に再制作。床に敷き詰められた石は固定されておらず、上を歩くと、カタカタ、ガラガラと音をたてます。

最初は「えっ、何の音?」と思いましたし、そもそも、作品の上を歩いてよいこと自体が驚きです。なるほど、この作品は、自分の行動に起因する現象も含めて鑑賞すればよいのですね。石を積み上げた塔も興味深いです。

 

そういえば、山の頂上や寺社などに行くと、このような形状のものをよく見かけます。人は、石を見ると積み上げたくなる無意識的な欲望を持っているのでしょうか。

 

 

関係項-鏡の道 2021年/2022年 石、ステンレス 作家蔵

 

まわりの現象を映し込む鏡の道。

 

この日は一般公開前の内覧会だったため、鑑賞者たちが遠巻きに眺めている中、突然李さん本人が登場。このように上を歩いて鑑賞してよいのだということを、身をもって示してくださいました。

 

 

関係項-アーチ 2014年/2022年 石、ステンレス 作家蔵

 

2014年にフランスのヴェルサイユ宮殿に展示された『関係項-ヴェルサイユのアーチ』という作品の再制作で、野外展示されています。

真夏の青空と六本木のビル群が作品をさらに引き立てます。

 

何か月か前に、瀬戸内海のアートの島、直島の李禹煥美術館で同じ形の作品を見ましたが、あちらは背景が海。同じアーチでも、置かれた場所で違って見えるものです。

 

 

(左)点より 1973年 岩絵具、膠/カンヴァス いわき市立美術館
(右)点より 1977年 岩絵具、膠/カンヴァス 東京国立近代美術館

 

李さんは、彫刻だけでなく、絵画にも取り組んでおられます。こちらはその初期の作品。

筆に絵具をつけて点を描いて行くと、最初は濃く、次第に薄くなります。

その時々の呼吸、リズム、調子が表れるため、一回限りの失敗が許されない作業です。

 

 

(左)風と共に・ (右)風と共に
どちらも1991年 岩絵具、膠/カンヴァス 作家蔵

 

次第に描いていない部分が面白くなり、点や線が少なくなって単純化されていきます。

描いていない部分の開いた空間から風が吹いて来そうで、「風と共に」というタイトルがぴったりだなと感じました。

 

 

対話-ウォールペインティング 2022年 アクリル絵具/壁 作家蔵

 

今回の展覧会のために、展示室の壁に直接描かれた作品。空間の中にこの作品だけがぽつんとあり、さほど大きくないながら、たいへんな存在感。

何を表しているのかを考える以前に、目が引き付けられます。

 

 

 

音声ガイドのナビゲーターは俳優の中谷美紀さん。知的な語り口で解説してくださいます。

李さんご本人による解説や担当学芸員さんのお話もあります。スマートフォンでQRコードを読み取って聞く方式なので無料です。イヤホンをお忘れなく。

 

鑑賞を終えて外に出ると、依然としてひどい酷暑です。

しかし、美術館入り口にあるこの看板の写真は、どこまでも静謐で涼やかでした。

 

この展覧会は11月上旬まで続きます。秋になってからもう一度この展覧会を見たら、自分はどう感じるのだろう。

 

 

「国立新美術館開館15周年記念 李禹煥」

東京展

国立新美術館 2022年8月10日〈水〉~11月7日〈月〉

 

兵庫展

兵庫県立美術館 2022年12月13日〈火〉~2023年2月12日〈日〉

 

展覧会公式ホームページ

 

 

𠮷田さらさ 公式サイト

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