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世紀末ウィーンを体現する天才エゴン・シーレの作品群

吉田さらさ

吉田さらさ

寺と神社の旅研究家。

女性誌の編集者を経て、寺社専門の文筆業を始める。各種講座の講師、寺社旅の案内人なども務めている。著書に「京都仏像を巡る旅」、「お江戸寺町散歩」(いずれも集英社be文庫)、「奈良、寺あそび 仏像ばなし」(岳陽舎)、「近江若狭の仏像」(JTBパブリッシング)など。

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こんにちは、寺社部長の吉田さらさです。

 

今回は、東京都美術館で現在開催中(~2023年4月9日〈日〉)の特別展「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」のご案内です。10代のころからヨーロッパ世紀末美術が好きだったわたしにとって、グスタフ・クリムトとエゴン・シーレは、数ある画家の中でも別格的な存在でした。

 

思いが叶ってはじめてウィーンに行った際、ベルヴェデーレ美術館で「接吻」をはじめとするクリムトの代表作を見てため息をつき、それまで日本では見たことがなかったシーレの生々しいヌード作品を見て驚愕。クリムトが官能性をきらびやかなベールに包んで見せてくれるのに対し、シーレはあらゆる装飾を取り去ったむき出しの性を表現しています。

 

まだ若かったわたしは、あまりにも露骨過ぎて直視できないと思ったものですが、それから何十年もが過ぎ、今では、シーレの性的な表現の奥にある人間の本質のようなものが理解できるようになったと感じています。

 

今回の展覧会は、レオポルド美術館の所蔵作品をメインにしています。

この美術館の創立は2001年。創立者のルドルフ・レオポルド氏は1940年代から絵画収集を始め、やがてエゴン・シーレの魅力を発見し、大コレクションを作り上げました。そのころシーレは「少し行き過ぎた性的な表現をする画家」というイメージで、あまり高く評価されていなかったため、作品は高価ではなかったようです。

 

しかし、ルドルフ・レオポルド氏は大富豪というわけではなく、絵を買い続けるために借金を重ねたとのこと。そのかいあってエゴン・シーレの真価は次第に認められるようになり、今ではオーストリアを代表する画家となりました。

 

 

ルドルフ・レオポルド氏は、シーレに続いて、シーレのよき理解者であったクリムトの作品も収集し始め、ウィーン分離派の創立メンバーたちの作品へと広がっていきました。

今回の展覧会では、シーレだけでなく、同時代の画家たちによるポスターなどが多数展示され、世紀末ウィーンの雰囲気を体感することができます。

赤い背景の前のケープと帽子をかぶった婦人 
グスタフ・クリムト 1897~98年
クリムト財団蔵

 

モデルは不詳だが、当時最先端のファッションを身にまとう女性像。

クリムトは1897年に同じ志を持つ仲間たちとウィーン分離派を結成し、絵画だけでなく、建築、音楽、演劇など多岐に渡る革新的な芸術概念を生み出して行きました。

 

 

「第2回 ウィーン分離派展」ポスター
ヨーゼフ・マリア・オルブリヒ 1898年
リヒャルト・L・グラブマン蔵

 

ヨーゼフ・マリア・オルブリヒは、現在もウィーンの観光名所として人気のウィーン分離派開館の建築家。このポスターは、1898年に開館したこの建物をデザイン化したものです。

 

この展覧会の見どころのひとつは、章ごとにシーレ本人の写真と言葉が展示されていることです。

 

シーレは自画像も多く描いた画家で、自分の姿にも強い関心があったようです。そのためか、写真を撮られる際の表情やポーズも考え尽くされており、今見てもスタイリッシュな写真になっています。

 

これは16歳のころの写真ですが、鋭いまなざしなどに、すでに非凡さが感じられます。

 

毛皮の襟巻をした芸術家の母(マリー・シーレ)の肖像
エゴン・シーレ 1907年
レオポルド美術館蔵

 

1906年、16歳の若さで ウィーン美術アカデミーに入学したシーレが描いた、母親の肖像。横顔の人物は、通常、視線は前向き描かれるものでしょうが、この絵では、視線は画家に向けられています。

この母親がどんな人であったかはわかりませんが、何となくこの目は怖い。

 

 

ほおずきの実のある自画像
エゴン・シーレ 1912年
レオポルド美術館蔵

 

数あるシーレの自画像の中でももっとも有名な作品のひとつ。

仮に、シーレがどんな人物かを知らない状態で見たとしても、「この人は心の中に何か複雑なものを秘めていそうだ」と感じるのではないでしょうか。描かれた人物の内面がのぞき込め、見る者の感情を動かす力のある肖像画は、めったにないと思います。

 

自分を見つめる人Ⅱ(死と男)
エゴン・シーレ 1911年
レオポルド美術館蔵

 

これも自画像。

背後に描かれている人物は自分の影? それとも、死を象徴する亡霊? もうひとりの自分、もしくは「死」に捉えられて身動きが取れない状態を表しているのだろうか。

そう言えば、ごく若いころ、自分もこのような精神状態に陥った記憶があります。

 

母と二人の子供Ⅱ
エゴン・シーレ 1915年
レオポルド美術館蔵

 

2人の子供を持つ母親の座像。こういった絵の場合、母親は慈愛に満ちた表情、子供たちは安らかで可愛らしい顔をしているものですが、シーレの描く母子像はまったく違います。

 

母親はどくろのようで、左側の子供はまるで死んでいるよう。右側の子供は、兄弟の様子を見て、自分もいずれそうなるのかと恐れおののいているように見えます。

 

 

母と子 
エゴン・シーレ 1912年
レオポルド美術館蔵

 

この母子像も恐ろしい。母親は自分の一部であるかのように子供を強く抱き、子供は身動きが取れず、見開いた目で助けを求めています。この絵にも、少し覚えのある感情を呼び覚まされる。

血のつながりとは、絶対に逃れることができない足かせのようなものでもあります。

 

悲しみの女
エゴン・シーレ 1912年
レオポルド美術館蔵

 

このころ恋人だったワリーという女性を描いたもの。この表情は何を表しているのだろう。

悲しみの女というタイトルだが、悲しみばかりではなく、何か挑戦的なものも感じられます。頭部の左上にもうひとりの人物の顔が。これはシーレ自身らしい。

シーレが、女性と関係においてさまざまな葛藤を抱えていたことが想像されます。

 

モルダウ河畔のクルマウ(小さな街Ⅳ)
エゴン・シーレ 1914年
レオポルド美術館蔵

 

シーレは、晩年には風景画もよく描きました。

これはシーレの母親の出身地のクルマウ(現在のチェコのチェスキークルムロフ)。

写実性はなく、平面的な様式が特徴です。

 

 

横たわる女
エゴン・シーレ 1917年
レオポルド美術館蔵

 

自画像、女性像ともに、裸体画もよく描いたシーレ。いずれにせよポーズが大胆で、性器までがむき出しになったものも多いです。こちらはかろうじて布がかかってはいるが、ポーズは衝撃的です。

 

シーレは1915年にそれまで恋人だったワリーと別れて裕福な女性、エーディトと結婚。この絵のモデルはそのエーディトをモデルにしたものとされますが、顔は違う女性になっているとか。

 

「第49回 ウィーン分離派展」ポスター
エゴン・シーレ 1918年
宮崎県美術館

 

シーレはこの年のウィーン分離派展で、画家としても経済的にも大きな成功を得ました。

 

このポスターでは、一番奥の(絵の上部)に描かれた人物がシーレ本人です。下部中央に誰もいない椅子がありますが、もとはグスタフ・クリムトが描かれていました。

それが消されたのは、1918年2月に、クリムトがスペイン風邪で亡くなったためです。

ウィーン分離派展で大成功を収めたシーレ。

しかし、その幸福は長くは続きませんでした。

 

まず、妻のエーディトがスペイン風邪にかかって死去。その死から3日後の1918年10月31日に、シーレ自身も同じ病気で亡くなりました。わずか28年の生涯でした。

最後に残したのは、「戦争が終わったのだから、ぼくは行かねばならない。ぼくの絵は世界中の美術館に展示されるだろう」という言葉でした。実際に、シーレの絵は世界中の美術館に展示されるようになりました。

 

 

レオポルド美術館

エゴン・シーレ展

ウィーンが生んだ若き天才

東京都美術館

2023年1月26日~4月9日

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