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餃子が名物の銀座のバーには、親子の涙と笑いの歴史が

山本圭子

山本圭子

出版社勤務を経て、ライターに。『MORE』『COSMOPOLITAN』『MAQUIA』でブックスコラムを担当したのち、現在『eclat』『青春と読書』などで書評や著者インタビューを手がける。

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最近、親しい友人たちと真剣に話すテーマと言えば、親や自分の老後について。

 

 

自分のことはちょっと先だとしても、親の老後については「まだ大丈夫と思っていたけれど、そろそろ決断しなければならない問題が……」とみんな口をそろえます。
例えば、今のままひとり暮らしを続けてもらっていいものか。自家用車がないと不便な場所に住んでいるけれど高齢で運転が心配、などなど。

 

 

あまりにもいろいろなケースがあるので、いつも「ひとくくりには語れないよね」という結論になってしまうのですが、それだけに「じゃあ私の場合はどう動くべき?」と考えるようになりました。

 

 

そしてこの問題は「自分自身はどんな老後を送りたいか」というテーマにつながっているだけに、みんな真剣さが増しているように思えます。

 

 

一方で本の世界に目を向けると、「4、5年前から親の老いをテーマにした小説が増えてきた!?」という感触があって。

 

 

懸命に介護をするひとり娘の胸中を描いた話、恋人の親の老いにかかわっていく男の話、孫の行動が意外にも功を奏する話……。

 

 

シリアスだったり、いい意味で肩の力が抜けていたりと物語のトーンはさまざまですが、どれを読んでも「それって自分にも起こりうるかも」「そういう考え方もあるのか」と気づかされます。
小説は実用書ではないけれど、それぞれの作家が独自の視点でこの問題に向き合っているだけに(ご自身の体験が反映されている話も多いよう)、自然とそういう読み方をしてしまうんですね。

 

 

そんなことを考えていたある日、OurAgeのふみっちーに勧められたのが『東京銀座六丁目 僕と母さんの餃子狂詩曲』(かずこ著)。
「著者名は“かずこ”なのにタイトルには“僕”?」と思いながら読み進めると、そこにはかずこさんとお母さんの波乱万丈の半生がつづられていました。
そして、かずこさんが現在老齢のお母さんをどう受け止めているのか、ということも。

 

書評_photo

『東京銀座六丁目 僕と母さんの餃子狂詩曲』
かずこ著
集英社クリエイティブ ¥1500(税別)
国語の授業で音読をするなら、ラジオドラマさながらにやりたい。文化祭で演劇をするなら、心にプロ意識を持ってやりたい。普通からはみ出しがちだった少年は、その後紆余曲折を経て、母のために銀座でバーを開業。そこで果たしたさまざまな再会とは?笑いと感動がいっぱいのノンフィクション

 

 

かずこさんの本名は和之さん。両親と兄との暮らしは裕福ではなかったけれど、お母さんが知恵とバイタリティーにあふれる人物で、一家の大黒柱的存在でした。

 

 

日々内職をしながら子どもと明るく会話をし、創意工夫していろいろな料理を作るお母さんのそばで、かずこさんはのびのびと育っていったのです。

 

 

お母さんは幼い頃のかずこさんを「ひょうきんでおもしろい子でしょ!」と言っていたそうですが、

 

 

「……おもしろいことをすれば、母さんが喜んでくれる、(中略)だから、たとえ常識外れな突飛なことでも、母さんや周囲の人に笑ってもらうためなら何でもやった。母さんを喜ばせると僕はハッピーに生きられるという、『安心』のサイクルが完成していたのだ」

 

 

これが本当の気持ちでした。

 

 

そんなかずこさんですが、じょじょに自分には女の子の友だちのほうが多いこと、女の子と一緒のほうが自然でいられることに気づいていきます。
つまり和之より“かずこ”のほうが自分にぴったりだとわかっていくのですが、反面それを人に知られることを恐れるように。

 

 

なぜなら「おかま」と言われ、いじめを受けるから……。

無邪気な幼少期からひたすら本当の自分を隠す思春期へ。この頃のかずこさんの心境をつづった章は読んでいて息苦しくなるほどですが、高校入学が転機になって生活をエンジョイできるように。

 

 

その後、作業療法士になりたいと目標を定めて秋田の短期大学部へ。念願を叶えて自治医大付属病院で働き始めて四年半後、経験を生かしてバリアフリー住宅の仕事に従事。いろいろな事情からさらに転職してPR会社などを立ち上げ、海外でも活躍するようになります。

 

 

かずこさんが悩んでいた性の問題も、お母さんも含めて周囲は彼の個性と理解していったよう。
逆に言えば、かずこさんはそれくらいの度量のある人と付き合うことで、世界を広げていったと言えるかもしれません。

 

 

こんなふうに書くと順調な歩みのようですが、その裏にはいろいろな人から影響を受け、それを胸にひとつずつ階段を上ろうとするかずこさんの努力があります。
そしてとにかくかずこさんには知恵とバイタリティーがあるのが強み! これはそのまま、お母さんの長所なんですね。

 

 

ところが、年齢を重ねたお母さんにはある変化が起きていました。
頭部に動脈瘤があることがわかり、手術は成功したものの、ひとりにするのが心配なほどの鬱状態になったのです。

 

 

ここでかずこさんは大決断! お母さんの心身をいい方向に導くために、長年暮らしていた栃木から住まいを東京に移して、彼女を巻き込んだあるプロジェクトを始めます。

 

 

それは、銀座六丁目で会員制のバーを開き、店の名物料理を餃子にして、お母さんに準備を手伝ってもらうというものでした。
かずこさんが作業療法士だからこそのアイディアだし、バイタリティーあふれる性格だからこその行動力!

 

 

「さすが」と思うと同時に、「普通は難しいよね」というのが最初に読んだときの気持ちでした。
でも、だんだん「同じことはできないにしても、自分にはとても無理と考えなくてもいいのでは」という気がしてきて。

 

 

親の老後のために、子どもは何をどうすればいいのか。
一般的に考えるのは「親や自分が無理せずにできそうなこと」からの選択だと思います。
もちろんそれで良し!だけれど、もしかしたら「できそうなこと」だけでなく「親が奮起しそうなこと」を選択肢に加えてみてもいいんじゃないか……。

 

 

それが簡単ではないことは十分わかります。でもこの本を読むとノンフィクションならではの説得力を感じ、「トライしてみるという方法もありかも」という気持ちがちょっと芽生えた、というか。

 

 

本であれ、友人との会話であれ、いろいろな情報源に耳を傾けて、具体例を知るということでもらえる刺激って貴重だな。

 

 

そんなことをしみじみ感じ、帰省の日程を考えながら、50数回目の夏を過ごしています。

書評_photo


『銀座 千と一の物語』
藤田宜永著
文春文庫 ¥740(税別)
銀座が舞台の物語といえばこれ、直木賞作家による33のショートストーリー。華やかな銀座通り、風情のある裏通り、意外なものがあるデパートの屋上、古い町工場など、多彩な話のきっかけになった場所は、読む人の記憶もよみがえらせてくれそう

 

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