注目の女性作家が描く警察小説は男も女も生きざまが見事!

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出版社勤務を経て、ライターに。『MORE』『COSMOPOLITAN』『MAQUIA』でブックスコラムを担当したのち、現在『eclat』『青春と読書』などで書評や著者インタビューを手がける。

「最近、よく読んでいるのは柚月裕子さんの警察小説かな」。

 

以前、知り合いの男性編集者にそう言われて「読んでみよう」と思っていたものの、機会を逃していた柚月作品。初めて読んだのは今年になってからで、ひと月半の南米・チリ滞在の間でした。

 

 

キンドルに入れておいた本をほぼ読み尽くし、「そうだ!」と思い出して購入したのが『盤上の向日葵』(いつでもどこでも買えるのが電子書籍のいいところですね)。最近話題の将棋界が舞台のミステリーですが、将棋のルールがわからない私でも一気に引き込まれるほど、濃密な人間ドラマでした。

 

 

帰国後も引き続き読んだ柚月作品の中で、「ourage世代ならいろいろな場面で共感できるはず!」と思ったのが『慈雨』。
王道の警察モノですが、同時に夫婦の、家族の物語にもなっていて、読後すぐには本を閉じたくないほど、深い余韻と手ごたえを感じました。

 

書評_photo

『慈雨』 柚月裕子 集英社 ¥1600 +税 忘れられない過去を抱えた刑事が、妻との巡礼の旅を通してみずからの道のりを振り返り、未解決事件や現在に向き合っていく。著者は1968年生まれ。『盤上の向日葵』で2018年本屋大賞2位に輝いた作家

 

主人公は元刑事の神場智則。42年勤めた警察を定年退職したばかりで、妻の香代子と四国巡礼の旅の最中です。

 

社会人のひとり娘・幸知と愛犬マーサは留守番で、幸知は神場の部下だった緒方と交際中――と書くと、幸せで充実したリタイア生活のようですが、神場の胸中は重くよどんでいます。

 

 

その理由は、16年前の幼女殺害と酷似した事件が退職前に起こり、犯人がつかまらないままだったから。

 

 

そして16年前の事件には、神場とごくわずかの人しか知らない大きな秘密があったから。
つまり、秘密の罪深さがずっと神場の心をさいなんでいたのです。

 

 

もうひとりの主人公が、幸知の恋人・緒方。彼は刑事として神場を尊敬し、神場もまた緒方の能力や人間性を買っている。退職後も幼女殺害事件を気に掛ける神場に対して、緒方は誠実に向き合おうとするほどです。

 

 

なのになぜか神場は、緒方と幸知の交際にいい顔をしない。
「神場はどうしてそんなにかたくななの?」と思うのが当然の流れですが、どうやらそこには彼の過去、特に私的な面が関係しているらしく……。

 

 

未解決の幼女殺害事件と妻との四国巡礼の旅、加えて神場の過去が折り重なるように語られていく骨太なこのドラマ。

 

 

もしかしたら最初は五里霧中な感じがするかもしれませんが、読むうちに少しずつ物語の全貌が姿を現し、事件解決の鍵らしきものも見えてきます。
同時に、登場人物たちの本当の気持ちも。

 

 

この“少しずつ霧が晴れてくる感じ”こそ、長編ミステリーの醍醐味ではないでしょうか。
そしてラストシーンで降る雨が、まさに慈雨(万物を潤し育てる雨)。
神場夫婦だけでなく、読む人の心もじんわりとうるおして、思わず涙がこぼれそうに……。

 

 

次のページに続きます。

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第46回
注目の女性作家が描く警察小説は男も女も生きざまが見事!

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