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モテファッションで武装する女性の、本音と底力がリアル!

山本圭子

山本圭子

出版社勤務を経て、ライターに。『MORE』『COSMOPOLITAN』『MAQUIA』でブックスコラムを担当したのち、現在『eclat』『青春と読書』などで書評や著者インタビューを手がける。

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OurAge世代の方ならきっと目に浮かぶと思いますが、その昔、ニュートラなるものが流行ったことがありました。

 

 

たとえば、派手な色使いのシャツにセミタイトのスカート、靴やバッグはヴィトン、セリーヌなどなど。
当時の私は、年頃の女の子相応にファッションに興味はあったけれど、「あのスタイルとは無縁だな~」と思っていました。
一番の理由はブランドものを買う余裕がなかったからですが、もうひとつの理由は、服で自分がジャンル分けされるようでこわかったから。

 

 

とはいえちょっと試してみたい願望があったのか、一度だけ派手シャツを買い、サークルの集まりか何かに着て行ったことがあります。 みんなの反応は「似合うじゃん!」。

 

 

ところが自分でも驚いたことに、全然うれしくなかったのです。
多分それほど好きじゃなかったのに、なんとなく流行の迫力に気圧されて買った服だったからでしょう。
とても居心地が悪く、複雑な気分になったことを、よーく覚えています。

 

 

そんなあれこれを思い出したのは、綿矢りささんの『ウォーク・イン・クローゼット』を読んだから。ある意味これは“女性と服を巡る愛と格闘の話”なのです。

書評_photo

『ウォーク・イン・クローゼット』
綿矢りさ 講談社 ¥1400(税別)
28歳の早希は清楚なモテファッションに身を包み、婚活に励むが、既婚者に言い寄られたりしてうまくいかない。彼女の幼なじみ・だりあは、堅気とは言えない家庭で育ったが、がむしゃらに頑張って有名タレントになった。ふたりは大人になっても友情で結ばれていたが、だりあの妊娠を機に転機が。早希の男友達で弟キャラのユーヤもいい味を出している中編小説。他に「いなか、の、すとーかー」も収録

 

 

主人公の早希は、洋服が大好きな28歳のOL。
「すべての衣類をクリーニング屋さんに任せられればいいけれど、お金の余裕もない。それに急に外出の用事が入ったとき、あの服がいまクリーニング中で無いなんて! とクローゼットを開けて嘆き悲しむ事態もさけられる」からと、予定のない休日は風呂場で洗濯ざんまいです。

 

 

そのやり方は、手洗いが必要な服の場合、衣類ごとに洗い方や干し方を考え(レザー素材でも自分で洗う!)、アイロン組はハンガーに吊るしてスチームアイロンとそれ用のミトンでシワなく仕上げる。ほぼ一日がかりでそれらが終わると充実感を得られる……というのだから偉い、スゴイ!

 

 

そんな彼女が着る服は、ほとんどの場合“対男用”。大人っぽい服を着てみたい願望もあるけれど、結婚という流れに持っていける彼氏ができるまではガーリーで清楚なモテファッション、と決めています。
運命の男性がどういう人かわからないから、とりあえずオールマイティな服にしておこう、と。

 

 

つまり早希は服そのものを愛しているし、それらに婚活という目的を盛り込んでいることも自覚している。服にそれほどの思い入れがなく、何とな~く選んだ昔の私とは大違いです。
だから「あっぱれ!」と言いたいところなのですが、心のどこかにしこりが残って……。

 

 

「早希が少し前に恋人に去られて痛手を受けたのはかわいそうだし、その後年齢を考えて婚活に適した服を着なくちゃ、という気持ちになったのもわかる。でもやっぱり、あざとさが漂ってしまうんじゃない?」と思ったのです。
好きになった人といつの間にか恋愛関係に発展して結婚、という偶然かつロマンティックな流れがベスト、とは思いませんが。

 

早希と並ぶ重要人物が、幼なじみで親友のだりあです。彼女は売れっ子のタレントだけあって、クローゼットの中は都会的で素敵な服でいっぱい!

 

 

といってもそれらは、スタイリストが選んだ彼女に似合う服(を、買い取ったもの)。だりあが自分で選ぶと、元ヤンテイストが出てしまうというのだから、ちょっと笑ってしまいます。
早希から見ると憧れの服ばかりなのに、だりあにとってはブログにアップするとき役立つものであり、「働いて手に入れた服に囲まれてると、いままでの頑張った時間がマボロシじゃなかったって思って、ホッとする。(中略)私にとっては、きれいな服は戦闘服なのかも」。

 

 

つまり、早希にとってもだりあにとっても、服は「こう見てほしい」自分を作る手段なんですね。

 


人は見た目で左右されるものだから、戦略的に服を選ぶのは基本的に間違っていないと思います。20代後半の女性ともなれば、ある程度社会のこともわかってきて、「生き抜くためには武装も必要!」という気持ちにもなるでしょう。
そんな彼女たちをたくましく感じながらも、なんだか疑問をぬぐえずに読み進めていたら、

 

突如だりあの妊娠が発覚!

 

マスコミに追いかけられる、という事態になったのでした。

 

 

だりあにとっても早希にとっても、想定外のこの出来事。その後のストーリーはそれまでとはテイストが変わる……というか、ふたりの意外な一面が出てきて、読み手としては「いったいどうなるの?」とハラハラドキドキ、そしてワクワク(事態は深刻だけど)。
「早希って、意外とたくましいじゃない!」と彼女を見直し、痛快な気分になったのです。
そしてこの経験は、ふたりの生き方の芯の部分にも影響を及ぼすことになって……。

 

 

「私をこう見てほしい」という気持ちは、いくつになっても誰もが持つもの。特に早希やだりあのように感受性が鋭くて、意外と古風で、真面目に生きていこうとする女性ならなおさらでしょう。(多分そんな風には見えないふたりですが)
ただ願望の方向があまりにも本来の自分とかけ離れていたら、そしてやり方が目的化しすぎていたら、やっぱり息切れしてしまうのでは。

 

 

自己アピールって「私、こんなんですけど、どうでしょう?」ぐらいのゆるさを持っているぐらいがいい塩梅なんじゃないかな。気持ちに余裕がないと周囲が見えなくなるし、融通が効かないし……というのが私の結論なのですが、今のご時世でこの考え方は甘いのかな。

書評_photo

『蹴りたい背中』
綿矢りさ 河出書房新社(現在は河出文庫 ¥380)
高校で同じクラスの“にな川”と“ハツ”は余り者同士。ある日ハツはにな川の家に招待されるが、その理由はモデルのオリチャンにあった!? 孤独なふたりの奇妙な友情を描き、2004年に芥川賞を受賞した小説。金原ひとみ著『蛇にピアス』と同時受賞で話題を呼んだ『しょうがの味は熱い』
綿矢りさ 文藝春秋(現在は文春文庫 ¥450)
同棲まではとんとん拍子だったのに、結婚となるとなぜスムーズにいかないのか? 好きだから先に進みたい女と好きなのに煮え切らない男のすれ違いを、シリアス&ユーモラスに描く。こうやって見ていくと、綿矢さんの小説にはいつも同世代の問題が取り上げられている印象が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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