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家のリフォームという一大事が心身に及ぼす影響に爆笑、納得!

山本圭子

山本圭子

出版社勤務を経て、ライターに。『MORE』『COSMOPOLITAN』『MAQUIA』でブックスコラムを担当したのち、現在『eclat』『青春と読書』などで書評や著者インタビューを手がける。

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OurAge世代ともなると、住まいのリフォームを経験した方も多いのでは?実は私もそうで、過去二回わりと大がかりなリフォームをしました。

 

 

住みながらの工事だったので、生活への影響は大きかったけれど、自分としては淡々と1か月半ほどの日々を過ごしたつもりでした。
でも今振り返れば、あの時期の私のテンションはいつもと違った、というか、ちょっとテンパっていた?
だって、就寝中トイレに起きることはあまりないのに、工事期間中は必ず2回起きていたから。
もしかしたら、家にいろんな人が出入りして落ち着かなかったために、頭が休眠モードになりきれていなかったのかも。
細かなところまで打ち合わせをしていても、そのときどきで判断しなければならないことが次々に起こったし……。

 

 

そんなことを思い出したのは、作家の町田康さんがご自身の経験を基にした小説『リフォームの爆発』を読んだから。
町田さんと言えば、炸裂する妄想をリズミカルな文章で描き、笑いとともに真実に迫る作家、という印象がありましたが、この物語はそんな彼の個性がズバリはまった感じ。

 

 

馬鹿馬鹿しいほど暴走する言葉に唖然とするかもしれませんが、リフォーム経験者が読むと「わかる、わかる」の連続!
主人公・マーチダ氏の心情は常人のそれより振り幅が大きいものの、奥底にあるのは誰にだって芽生える不安、疑問、期待etc……なのです。

書評_photo

『リフォームの爆発』
町田康 幻冬舎 ¥1500(税別)
犬や猫と熱海で暮らすマーチダ氏は悩みに悩んだ末、家のリフォームを決行。それは理想と妥協のせめぎあいだった! リフォームの現実をとことん突き詰め、笑いに昇華した“ある作家によるビフォア・アフター”

 

 

さて、マーチダ氏はなぜリフォームをしようと思い立ったのか。

それは次のような理由からでした。

 

 

 

●人と寝食を共にしたい居場所がない二頭の大型犬の痛苦

●人を怖がる猫六頭の住む茶室・物置小屋、連絡通路の傷みによる逃亡と倒壊の懸念

●細長いダイニングキッチンで食事をする苦しみと悲しみ

●ダイニングキッチンの寒さ及び暗さによる絶望と虚無

 

 

これらの問題をある案によってすべて解消できた!と思ったものの、その結果流し台が部屋のど真ん中にやってきたというのだから、頭を抱えてしまいますよね!

 

不具合な箇所を直そうとすると、新たな不具合が発生する。「こんなリビングにしたい」などと夢を追うと、設計上不可能ゆえ家に倒壊のおそれが出てくる……。
マーチダ氏は「永久リフォーム論」なるものまで考えるようになります。

 

 

「永久リフォーム論」が実際どうなったかは読んでのお楽しみですが、とにかくある工務店への工事依頼までこぎつけたマーチダ氏。
ここから彼は、リフォームの現実を全身全霊で(!?)受け止めることになります。

 

 

まず、最初に打ち合わせをしたのが現場監督のU羅君。彼の能力――こちらの希望をちゃんと理解してくれるのか。それをどう具体化していくのかがリフォームの肝なだけに、マーチダ氏の心に渦巻くのは「頼むぞ!」「大丈夫か?」という相反する感情です。

 

 

その後マーチダ氏はU羅君から見積書を受け取るのですが、見積もり、つまり「種類別の工事が全部でなんぼか」の細かさといったら!! 私にも経験がありますが、呆然とするほどの詳細さなのです。
“細かい=大ざっぱではない”ということだから良さそうなものですが、素人にとっては“細かい=親切でわかりやすい”とはならないんですね。

 

 

ただ、そんな見積もりを「うどん作製」にたとえて
○だし工事 かつおぶし五グラム単価五円金額二十五円
などと書いていくのが町田さんらしくて、おかしいやら、なるほどと思うやら。

 

 

そして工事の種類が多岐にわたる分、いろいろな職人さんが遠慮なしに家に入ってきて(当たり前!)、素人にはわからない作業を始めるわけで。
彼らの人となりや能力が気になって仕方がないマーチダ氏の言動、そしてざわつく胸の内はユーモラスに誇張されているものの、私自身痛いほど身に覚えがあるものでした。

 

 

読みながらずっと考えていたのは「リフォームに取りかかった人はなぜ大なり小なりとりつかれたようになるのか」ということ。
多分理由のひとつは、今まで赤の他人だった人(現場監督や職人さん)に一大事を託すから。「上手くやってもらわなきゃ困るよ!」という気持ちが高まるからではないでしょうか。
依頼主の権利として作業をチェックしたくても、土台無理な話だし。
同時にそれ以前の問題として、なぜリフォームが一大事なのか、という疑問もわいてきました。つらつら考えてみたのですが、「かなりのお金がかかるから」はもちろんだとして、住まいはその人の宇宙であり世界だから??
言葉にすると大げさですが、住まいはどこよりも長く時間を過ごす場所。そこがどんな環境かによって、気持ちが左右されるのは当然です。さらに言えば、性格や生き方まで変わるかもしれない!

 

 

それを証明しているのが、テレビ番組の「大改造!! 劇的ビフォア・アフター」です。リフォーム後の家で過ごす家族の表情が以前と違うのを見て、不思議に思わない人はいないのではないでしょうか。
「こんなに過ごしやすい家になったのだから笑顔になるのは当然だし、多分いろんなことが変わるんだろうな」と、テレビの前の人みんなが感じている……。

 

 

リフォーム経験者が読んだらうなづきまくること必至ですが、これからという人が読んだら恐れおののきそうな『リフォームの爆発』。
でも読んで損はない、というより、読むべし!です。
小説として面白すぎるだけでなく、ある意味本当にこんな感じなんですよ!

書評_photo

『家康、江戸を建てる』
門井慶喜 祥伝社 ¥1800(税別)
建築をテーマにした小説と言えばこれもそう。1590年、徳川家康は関白・秀吉から関東への国替えを要求される。しかしそこは低湿地が多く、発展を忘れたような古代的な集落ばかり。家康は長期的な視野で街や城づくりに着手するが……。江戸の巨大プロジェクトを生き生きと描いた、直木賞候補作

 

 

 

 

 

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