【教えていただいた方】
東京医療保健大学大学院医療保健学研究科医療栄養学領域修了。慶應義塾大学SFC研究所 食・フードサイエンス&テクノロジー共同研究機構メンバー。著書は『麻生れいみ式ロカボダイエット』(ワニブックス)、『20kgやせた! 糖質オフ入門 最新版』(宝島社)などすでに28冊に及ぶ。ベストセラーも多数。
筋肉が増えない理由は、ずばりタンパク質不足!
「40代以降の女性はどちらかといえば、栄養不足で筋肉量が落ちていることのほうが多いのです。特に筋肉は、材料であるタンパク質が不足したらロスが否めません。
いちばん重要なタンパク質の摂取を見直さないと、いくら頑張って運動しても、筋肉は増えないどころか減っていく一方なんです」
と教えてくれるのは、女性の体と栄養の関係に詳しい管理栄養士の麻生れいみさん。
「女性は、ちょうど更年期に筋肉の曲がり角を迎えます。筋肉量が急降下していく傾向にあるのです。
女性ホルモンの減少で筋力が低下していくことは解明されていますし、遺伝の影響もあるでしょう。
しかも、この年代ではタンパク質の消化吸収率がガクンと落ちる。近年では、年を重ねるほど筋肉の合成スイッチが鈍くなり、20代、30代と同じ量のタンパク質を食べても、筋肉がつくれなくなるという研究論文も出てきました。
つまり、若いときはタンパク質が不足してもなんとか筋肉量を維持できますが、40歳を過ぎたら、それまでと同じ食べ方では筋肉量が減るのは当然なんです」
【40代以降に筋肉が減るおもな理由】
■女性ホルモン減少の影響
■遺伝の影響
■筋タンパク質の合成が鈍く、筋肉がつくられにくくなる
■タンパク質が消化吸収されにくくなる
■食事からとるタンパク質が足りていない
統計によれば、日本人のタンパク質の摂取量は2000年代に入って急激に減り、食糧難だった戦後と同じくらいのレベル。
飽食の現代ではカロリーは十分とれているのに、タンパク質が圧倒的に不足しているのです。
では、筋肉が不足したらどんなことが起こるのでしょう?
「まず、代謝が悪くなるので太りやすくなります。そして、筋肉が落ちて脂肪がつくと、筋肉よりも脂肪のほうが体積が大きいので、より太って見えます。
逆に言えば体重は重くても、筋肉がついている人のほうが断然締まってほっそり見えるということ。
ダイエット目線でも、体重が減ったからいいというわけではないんです。
ほかにも、むくみやすかったり手足が冷える、疲れやすいなど、デメリットだらけ。いいことはひとつもありません」
【筋肉不足によって何が起こる?】
■痩せにくく太りやすい
■ボディラインがたるみやすい
■むくみやすい
■手足が冷えやすい
■顔色が悪くなる
■疲労物質が滞り、疲れやすい
■重い荷物が持てない
■つまずいたり転びやすい
■椅子から立ち上がりにくい
■血糖値が上がりやすく、糖尿病などになりやすい
■要介護のリスクが高まる
永久保存版「筋肉を増やす食べ方10カ条」
40歳以降の女性向けに、特に筋肉を増やす食事の仕方を「10カ条」として考えてもらいました。運動をすることを前提としたものです。
筋肉をつけるような運動を何もしないで、食事だけ変えてもあまり効果が得られないことも心に刻んで。
「10のポイントは、大事な順番に並んでいます。すべて習慣にできたら上級者。まずは無理なく上から順に習慣づけて。1番目ができたら2番目も追加、次は3番目も追加…、それだけでもだいぶ違うと思います」
では、10カ条を詳しく見ていきます。
1) 合言葉は「タンパク質、何にする?」
「今日のおかず、何にする?」と考えるとき、おかずをタンパク質に言い換えましょう。「今日のタンパク質、何を食べようか?」という考え方に切り替えて。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2020年版)では、成人女性のタンパク質の推奨量は、1日当たり50gです。肉や魚は100g中にタンパク質を20g程度含むので、換算すると250gは食べなさいということ。
ただ、体の大きさや1日の活動量、運動の強度によってだいぶ変わります。目安になるのは自分の手のひら。手のひらの大きさや厚みは体の大きさとだいたい比例します。1日3回食事をするとして、毎食手のひらと同じ量のタンパク質(肉・魚・卵・乳製品、または大豆製品)を食べましょう。
2) 動物性・植物性、ダブルでタンパク質を意識
タンパク質は、アミノ酸という細かな物質でできています。20種類あるアミノ酸のうち体内でつくることができないもの、つまり食品からとるしかないものを「必須アミノ酸」といいます。
なかでも、筋肉を増やすのに必要な必須アミノ酸は「バリン」「ロイシン」「イソロイシン」。この3つを総称してBCAA(Branched Chain Amino Acid)と呼びます。
BCAAをとるにはいろいろな種類のタンパク質をとることが大事。
動物性も植物性もまんべんなくとります。また、BCAAを手軽に摂取できるアミノ酸飲料やサプリメントを利用するのも賢い手。
3)「鉄」が不足しないように
食事と運動で筋肉を増やそうとするなら、ミネラルも欠かせない栄養素。中でも「鉄」はとても重要です。吸収のよい「ヘム鉄」は赤い色の動物性食材、牛肉やカツオ、マグロの赤身などに多く含まれます。また、日常的に鉄鍋、鉄瓶を使うのも鉄をとるのにいい習慣です。
市販の鉄サプリでもよいのですが、輸入品のサプリの中には「アミノ酸キレート鉄」という、日本では認められていないものもあります。キレート鉄による健康被害が増えているので、鉄サプリは慎重に選びましょう。
4) 食事は1日3回、特に朝は必ず食べる
1)で1日のタンパク質の目安は50gとありました。同じ量なら1回で食べても2回でも同じと思うかもしれません。が、タンパク質は体にためておくことができないので、こまめに食べていかないと筋肉を増やすには至りません。朝昼晩と3 回均等に食べたほうが筋肉がつくというデータもあります。
特に、夜寝てから朝までは時間が長く体は飢餓状態。そこで朝食を抜いてしまうと体に必要なタンパク質が入って来ず、筋肉を減らしてしまいます。40代以降は絶対に朝食を食べましょう。もし難しければ、アミノ酸サプリでもBCAAサプリだけでもかまいません。
5) 野菜・海藻・きのこはどれだけ食べてもOK
1)と2)でタンパク質を優先的にとることができていれば、あとは野菜やきのこなどでビタミン・ミネラルをとれば完璧。
ビタミンではビタミンD、ビタミンB群。鉄、カルシウム、マグネシウム、亜鉛など筋肉にかかわるミネラルをとれたら理想的です。
6) なるべく決まった時間に食べる
筋トレやエクササイズをするなら、食事は朝昼晩、できるだけ同じ時間にとるほうが効果的です。それによって体を動かすリズムをつくりやすくなるはず。
7) 毎日同じものを食べない
「毎日同じものを食べても大丈夫」「考えるのが面倒なので決まったものを食べる」という人がいます。これは、筋肉を増やす食事としてはNG。やはりタンパク質を増やす意味では食材のバリエーションが大事。2)で説明したように、必須アミノ酸はいろいろな食品に入っているからです。
同じように動物性タンパク質を食べるにしても、朝が卵なら昼は鶏肉にしよう、昨日豚肉を食べたから今日は牛肉にしよう、などとあえて替えてみましょう。
8) 運動前は、脂質OFF & 糖質ON
運動の前には、筋肉のエネルギーである糖質をとって、筋グリコーゲンの量を高めておくとトレーニングの効果がアップします。食事のほかに、運動の1、2時間前にあえて糖質をとるのです。
ただし、この時間帯にカロリーはいらないので脂質は不要。気軽に糖質だけがとれる自然のもの、バナナなどがおすすめです。
9) 運動後は、ごほうびタイム
運動後は、糖質をとっても太りにくい時間。筋肉には栄養が行きやすく、脂肪には栄養が行き渡らない状態になっているときです。1時間以内なら甘いものもOK。これは運動により、血糖値を下げてくれるホルモン「インスリン」が出やすくなっているため。
ただし、筋トレ後すぐの飲酒は避けましょう。すぐにアルコールを摂取すると筋肉がつきにくくなるデータもあります。飲酒はせめて1時間以上たってからに。
10)間食もタンパク質の多いものを
運動前後に食べるなら糖質でよいのですが、運動と関係なくおやつを食べる場合は、高タンパク質を意識。
以前、「筋トレ30分後にタンパク質」がもてはやされた時期がありましたが、実はそうでもないことがわかってきました。筋肉をつけたい人は、運動後ではなくても、タンパク質をこまめにとることが大事。
もちろん、筋トレをしない日でも、タンパク質摂取はいつも心がけて。
特に疲れやすい人や、疲れたときにこそ、甘いものではなくタンパク質を。
ちくわ、ソーセージ、チーズ、小魚、ナッツなど気軽にとれるおやつがおすすめ。
「疲れたときには甘いもの」ではなく「疲れたときこそタンパク質」です。
画像制作・取材・文/蓮見則子