何もしないでゴロゴロ…はむしろ疲労が取れない
「休む」というと「寝る」「何にもしない」といったイメージを持つ人は多いかもしれません。
「実は休養はそれだけではなく、いくつかの種類があります」と片野秀樹先生。
「大きく分けると『生理的休養』『心理的休養』『社会的休養』の3つがあります。
さらにそれらを細かく分けて、私は7タイプの休養を提案していますが、それについては後述します。
まずはこの、大きく3つに分けたうちの『生理的休養』についてお話しします。
これは文字通り、体の機能や組織を休ませるための休養です。
生理的休養には、さらに『休息タイプ』『運動タイプ』『栄養タイプ』の3タイプがあります。
『休息タイプ』は、皆さんがイメージするいわゆる『休むこと』であり、ゴロゴロしたり寝たり、といったことです。
『運動タイプ』は、文字通り運動することで、ウォーキングやヨガ、筋トレなどですね。
『栄養タイプ』は、食べ物を食べること、栄養をとることです。
3つの中で『運動タイプ』については、休養とは真逆じゃないか!と思う方もいるかもしれません。
確かに、疲れているときは動きたくないという人が大半でしょう。
ですが、実は適度な運動というのは、疲労の回復を早めるのです。
運動をすると血流がよくなります。血液の流れが細胞のひとつひとつに酸素と栄養素を運び、血中の老廃物の除去を促進するので、疲労の回復が早まります。
また、運動で筋肉を動かすことでリンパの流れもよくなり、むくみが取れて体が軽くなる効果も期待できます。
何もしないでゴロゴロしているだけでは血流が滞るので、疲労の回復はむしろ遅れてしまうのです。
もちろん、翌日に差し支えるほどの激しい運動はNG。
あくまで『体を軽く動かす』程度がベストです。
学校の体育の授業の最後に整理体操をしたり、運動部だった方なら最後に軽くジョギングをしたり、といったことがあったのではないでしょうか。
これらはまさに、血液を体中にくまなく回すことで、疲労回復を早めるためのものです。
軽い運動には、ほかにもうれしい効果があります。
それは夜の睡眠の質が上がること。
昼間に適度な運動をすると体がいい感じに疲れ、夜に副交感神経が高まることで深い睡眠を得られるのです。
休みの日は昼過ぎに起き、その後もずっとダラダラしていて、かえって夜眠れなくなってしまった…という経験はありませんか?
それでは50代の休み方としては不正解。
しっかり疲労を取るためにあえて運動をする。これが第4回でもお伝えした『活力を高めるための+α』という考え方です」
運動代わりになる入浴で、疲労回復にアクセルを
疲れを取るためにゆっくり入浴する方もいるでしょう。
入浴も運動タイプの休養のひとつです。
入浴が運動に相当する理由は、血流を促すからです
「温かいお湯で体を外側から温めることで、血液の流れがよくなるため、酸素と栄養素が細胞に届けられます。
また、お湯につかることで体に水圧がかかります。
お風呂の湯につかることによる体にかかる水圧は、体全体で計算すると350kgにもなるそうです。
それだけの水圧が外側からかかるということは、膝下やつま先など、普段血流が滞りがちな体の末端までもが、キュッと押されますね。
ちょうど着圧ソックスのように、ポンピング作用で筋肉の代わりに血液を押し上げてくれるのです。
本来ならば自分自身の筋肉でそれができればいいのですが、50代ともなれば筋肉は落ちてきますし、そうでなくても一日過ごせば午後は重力の影響で筋力が低下。
心臓から遠い場所ほど血流は停滞してしまうので、お湯の力を利用しましょう」
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お湯の温度は、ぬるめがおすすめです
「38~40℃のぬるめのお湯に入ることは、休息タイプの休養にもなります。
二酸化炭素など血流を促す作用がある、温泉成分入りの入浴剤などを入れるのも、休養の効果を高めてくれるのでいいですね。
近年は夏が長くなり、シャワーだけで過ごす時期も多いのではないでしょうか。
でも、疲労をしっかり取って活力を高めるには、面倒がらずに湯船にお湯をためて入浴することをおすすめします。
ちなみに、ここ数年で人気が定着したサウナは、休養においてはメリットとデメリットがあると私は考えます。
メリットは、冷たい・温かいを繰り返すことで血管の収縮が起きるので、入浴と同じで運動タイプの休養に匹敵する効果があること。
デメリットは、極端な熱い・冷たい自体がストレスであり、疲労につながるという点です。
第3回でもお伝えしたように、暑さ・寒さというのは物理的ストレスです。
サウナの『整う』効果を期待して行っても、かえって疲れてしまうという人はいるものです。
あくまで自分の体質に合っているかどうか、で判断するのがいいと思います」
【教えていただいた方】

一般社団法人日本リカバリー協会代表理事、ベネクス執行役員。東海大学大学院医学研究科、国立理化学研究所客員研究員等を経て現在は老人病研究、未病研究等に携わる。休養に対する社会の不理解を解消すべく、多方面で活躍。著書に『「休み方」を20年間考え続けた専門家がついに編み出した あなたを疲れから救う 休養学』(東洋経済新報社)がある。
イラスト/二階堂ちはる 取材・文/遊佐信子
片野秀樹先生の話題の著書