昨年10月から一般公開された「重要文化財 旧三井家下鴨別邸」
「下鴨神社」の南側、閑静な住宅地に位置する大きな邸宅。そこはかつて三井家の人々が集った別邸です。近年、その建物および庭園の価値が見直され、修復事業が行われ、昨年10月に一般公開される運びになりました。
そもそもこの「旧三井家下鴨別邸」は、大正14年(1925)に、三井家十一家の総領家である三井北家の第十代三井八郎右衛門高棟が手掛けた別邸です。
明治42年(1909)に三井家の祖霊社である「顕名霊社(あきなれいしゃ)」を、蚕の社(かいこのやしろ)の名で知られる「木嶋神社(こしまじんじゃ)」から下鴨の地に遷座。その参拝に際し、一族の人々が休憩し寛げる場所にと造られたのが、この別邸なのです。
主屋の建物は、かつて木屋町三条にあった明治期の別邸を移築。「五山の送り火」や鴨川の流れをはじめ、周囲の山々の眺望を楽しむために望楼もある三階建。その後、玄関棟などを増築し、現在見られるような大規模別邸の姿になりました。
戦後の財閥解体を受け、昭和24年から国に譲渡され、昭和26年から平成19年まで「京都家庭裁判所」の所長宿舎として使用されていたのです。今も裁判所の敷地に隣接しています。
下鴨エリアに住む人々の間では、「この森の中に、立派なお屋敷があるらしい…」と、昔から噂されていたそう。
そして平成23年には重要文化財指定に。京都府、京都市による修復工事の後、ついに昨年10月から一般に公開され、「こういう建物があったんだ~」と、地元の人たちも初めて知ることになったのでした。
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大正期の財閥、三井家の一族が、祖霊社に参拝し、交流と共に一族の結束を深めた別邸。南側に広がる庭園に面した広い座敷などが、ここが住まいとしてではなく、参拝休憩所であったことを伺わせます。その随所に、施された三井家の家紋やハイカラな雰囲気の照明。三井家の人たちが、ご先祖を崇敬する社のそばで、誰にも気兼ねなく、のんびり過ごした、いわば憩いの場ではなかったかと歩きながら思います。
日本家屋をメインにした建物には、絨毯敷きの洋間のほか、なんと当時としては珍しい洋式トイレ(2階トイレは通常非公開)が設置されています。その時代における最先端の生活様式を取り入れた建築思想を垣間見るようです。
ひょうたん池を中心にした情緒あふれる庭園には、石橋や燈篭などが配置され、春の新緑や秋の紅葉を楽しみながら、美しく着飾ったお嬢様たちなど訪れた人々がのんびりと談笑しながら過ごす姿は、さぞや素敵であったろうと想像してしまいます。
ちなみに、人気を博したNHK朝ドラ「あさが来た」の主人公のモデルとなった広岡浅子は、三井家十一家のひとつ、出水三井家(後に小石川三井家)の出身で、「下鴨別邸」」を作った高棟の結婚を世話しており、そのつながりの深さからも、もし生きていたら、きっとこの場所を訪れていたことでしょう。
京都に新たに登場した素敵な見どころのひとつとして、ぜひおすすめの場所です。
旧三井家下鴨別邸
京都市左京区下鴨宮河町58番地2
開館時間 9:00~16:30(受付終了)水曜・年末(12月29日~31日)休み
入場料 410円
http://kyokanko.or.jp
小原誉子ブログ「ネコのミモロのJAPAN TRAVEL」
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