なぜあの頃あんなに心が揺れたんだろう。 静かに思い出させてくれる青春漫画

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出版社勤務を経て、ライターに。『MORE』『COSMOPOLITAN』『MAQUIA』でブックスコラムを担当したのち、現在『eclat』『青春と読書』などで書評や著者インタビューを手がける。

ここ何年も、ど真ん中の青春ものを何となく避けていた私。特に理由を考えたこともなかったのですが、最近久々にそういう本を手にとって、いくつか思い当たることがありました。

 

 

ひとつは、いわゆる“過去恥部”をよみがえらせたくなかったから。以前(かなりの大人になってから)青春小説を読んだとき、かつての羞恥心を生々しく思い出して、ちょっとつらくなったことがあったのです。
どうやら私は「いろいろあったけど、あの頃はよかったな~」などと甘酸っぱい感傷に浸ることがあまりできないタイプみたいで。

 

 

もうひとつは、「物語の中の友情や恋に、どれくらい親身に寄り添えられるかな」と疑問だったから。
それなりにいろいろな現実を経験した今の自分が読んで、青春もの(小説でも漫画でも)に説得力を感じるだろうか。あの頃を美化しすぎていたり、教訓めいていたりしてイヤになるのでは?
そんな先入観があって、避けていたような気がします。

 

 

我ながらメンドクサイ人間!と思いますが、あれやこれやの感情を押しやって、普遍的な高校時代というもの――その頃特有の人間関係や微妙な気持ちをしみじみ思い出させてくれたのが『吉野北高校図書委員会』。
人気漫画家の今日マチ子さんが描く、図書委員たちの人間模様です。

書評_photo


『吉野北高校図書委員会①』
今日マチ子 原案=山本渚
KADOKAWA ¥1000(税別)
平凡だけど特別な、図書委員たちの青春ストーリー。原案者書き下ろしのスピンオフ小説も収録

 

 

主人公は2年生のかずら。サバサバした性格の彼女は、気の合う男友達だと思っていた大地が後輩のあゆみと付き合い始めたことを知って、複雑な気持ちになります。

 

 

そこで「私も大地くんが好きだったんだ。あきらめる?告白してみる?」とならないのがこの漫画のいいところ。
かずらは初めての感情に戸惑いながら、誰にも本心を言わず、ただただ自分に向きあって「どうしたいのか」を考え続けます。

 

 

「……優しい人でありたいし、誰かを傷つけたくない。でも。そうする努力だけはしていきたい。ずっとそう思ってきたけど、それは難しいことなのだと思う。」

 

 

「二人にはうまくいってほしい、のに。(中略)ああやって目の前で恋愛されると、さびしく感じてしまう。」

 

 

「私たち(かずらと大地と、もう一人の男子ワンちゃん)は無敵だった。だから、大地が誰かを好きになるだなんて、考えたこともなかったのだ。」

 

 

多分かずらは、人として次のステップに進むための助走の時期にいるのだと思います。
「時にはゆっくり助走したり、助走の前に迷うことだって必要だよ」
この漫画を読んでいると彼女にそう言いたくなるのですが、同時に最近の自分はどうだろうと考えさせられて……。

 

 

何事につけても、早急に答えを求めすぎていなかっただろうか。間違うことに臆病になりすぎていなかっただろうか。

私は彼女の先輩でもなんでもなく、迷いながら生きている同じ人間、という気がしてなりませんでした。

 

 

さて、そんなかずらの変化に気づいていたただひとりの人物が同じく2年生の藤枝です。

 

 

かつて不登校気味だった彼は図書委員たち――とりわけかずらの明るさに救われて、学校に行きたいと思うようになった。彼がかずらを好きになったのは、ある意味当然だったのです。

 

 

すれ違う図書委員たちの気持ちは、どんな方向に行くのか。友情と恋心という、近いようでまったく違う感情は、どんな形でそれぞれの胸に落ち着くのか。
ページをめくりながら、彼女たちのことを見守っているような気持ち――のめり込むというより、どこか引いた気持ちになるのは、映画のようなコマ割りや展開のせいかもしれません。

 

 

セリフは少なめで、風景や人物のみのカットが要所要所に差しはさまれている。だから読み手はそれらから自然と、空気や感情を読み取ろうとするのです。

 

 

漫画の印象をざっくり言えば、静かで叙情的だけど押しつけがましくない感じ。まるでスケッチのような書きこまない絵柄も、そういう雰囲気にぴったりです。

 

 

 

次のページに続きます。

第26回
なぜあの頃あんなに心が揺れたんだろう。 静かに思い出させてくれる青春漫画

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