いつもキャピっと美容の情報をお届けしているこの連載ですが、今回は社会問題について触れたいと思います。私がお会いしたのは、元厚生労働省・事務次官の村木厚子さん。
貧困や虐待、DV、性的搾取などで“生きづらさ”を抱える若い女性を支援する「若草プロジェクト」の代表呼びかけ人です。
Qoo10やMOVEを運営するeBay Japanの寄付贈呈式に居合わせた私は、不安定な社会情勢の中で苦しむ女性の実情や、プロジェクトの活動内容を知ることになりました。
「私たち、まだやり残したことがあるわよね。SOSを出せないでいる若い女の子たちが心配じゃない?」
故・瀬戸内寂聴さんが90代になった頃の一言がきっかけとなり、村木さんや故・大谷恭子弁護士の呼びかけで2016年に若草プロジェクトは設立されました。村木さんが動いたのは、自身のある経験が強く心に残っていたからです。
村木さんは厚生労働省で働いていた2009年に冤罪事件に巻き込まれ、半年以上も拘置所で過ごすことになりました。
「拘置所では刑務作業の女の子たちが食事や着替えを運んでくれるんです。20代だと思いますけど、メイクをしていないので、もっと幼く見えました。刑務官との会話も聞こえてきましたけど、みんなすごく真面目で素直でいい子なんですよ。“彼女たちはどうしてここに?” 刑務官に尋ねると、たいていは薬か売春だと言うんです。私はどうしても、彼女たちの姿と薬・売春というのが結びつかなかったの。ここに来ることになる前に、どうにかできなかったのかしら。そんな風に思いました。実は、悪い大人に騙されたり強制されて罪を犯してしまう子がほとんどなんです」
「体験」という、もう1つの形の寄付が社会とつながる機会に
若草プロジェクトは少女や若い女性を支援するため、「つなぐ」「まなぶ」「ひろめる」の3つの活動を行っています。
その中でも力を入れているのが「TsunAが~る(つなが~る)」というプラットフォーム。これは信頼できる大人と生きづらさを感じる若い女性たちをつなぎ、自立に向けた支援サポートをする活動です。eBay Japanの寄付も、金品のほかに「体験」がありました。つまり、社会参加することで元気に生きるきっかけに…というのが目的です。
昨年の夏休みに行われたeBay Japanのイー・コマース体験会。物流倉庫で通販に関わる作業を体験する企画です。
参加したのは女子高生ですが、彼女たちの画像は掲載できないので、こちらは社員さんが作業を説明している様子。
「親がいなかったり虐待やDVなどで家に居所がなかったり。いろんな理由で施設にいる子たちは、“どうせ私なんて”と思っていることが多いんです。こうした体験を通して、自分が社会とつながっている、誰でも知っている有名な会社の人が自分のことを見てくれている、そう思うことが自信になるんですよ」
「社会とつながる体験が将来の夢につながることもあります。施設にいる子たちに将来なりたい職業はと聞くと、施設の職員という返事が多いんですよ。お世話になったから恩返ししたいというのもあるのでしょうけど、外の世界を知らないということもあると思います」
引きこもりがちになっている若い女性たちも出かける機会を得て、結果的にとても楽しく作業することになるそう。「体験」という寄付は初めて知りましたが、とても貴重ですね!
選べるファッションとコスメがワクワクとキラキラを届ける
もう1つ、なるほどと感心した寄付の形が物品です。若草プロジェクトのプラットフォームでは、欲しいものを買い物するかのように“ポチれる”仕組み。
「私たちは施設ごとに欲しいものを選んでオンラインで注文する方法をとっています。自分で欲しいものを選ぶ機会が少ない子が多いので、とても喜ばれていますね。特に人気なのは、やっぱりファッションやコスメ。これは若い女の子たちにとっては共通言語なんですよ。閉ざしていた心を開いて友達や職員との会話もはずみますし、きれいになることは自己肯定感アップにも。ファッションで自己表現できることで、自分を大切に思うことができるようになるんです」
SDGsが叫ばれる昨今、余剰な化粧品の廃棄も問題視されています。「コスメバンク プロジェクト」はさまざまな理由で販売できなくなった化粧品を経済的困難下にある女性に無償で届ける一般社団法人による活動。「コスメバンク プロジェクト」の化粧品と前述したeBay Japanが提供する衣料品は大人気だそうです。
私たち個人は無力? いえ、できることがあります!
村木さんも、若草プロジェクトに力を貸す企業も素晴らしい! 美容と推し活のことばかり考えている私とは大違い。私たち個人にできることは何もなさそう…と、村木さんに聞いてみると。
「女の子たちは、時に親や先生や友達には言えない悩みを抱えることがあります。そんなとき、ちょっと距離のある斜めの関係の大人の存在はとても大事。もし、生きづらさを抱えている子がいたら、話を聞いてあげて欲しいんです。そのとき、特に大事なことは“聞くことに徹する”こと。つい、意見を言ったりアドバイスをしたくなりますが、それは我慢しておいた方がよさそうです。
そして、大切なことがもう1つ。楽しそうに、生き生きと暮らしているところを見せてあげてください。若い子は大人を見ています。みんなが不機嫌な顔をしていると、“大人になっても楽しいことはないんだ”と思うようになるので、ご用心。大学生の多くが就職を怖がっているので、どうして?と聞くと、“通勤電車の中のおじさんの顔が暗いから”と言っていました(笑)」
これなら、私たちにもできそう♡ 次回からまたOurAge読者の皆さんが生き生きと暮らせるよう、美容の情報をお届けしたいと思います。
若草プロジェクトではLINEで悩み相談を受付中。お相手してくれるのはボランティアの大学生だそうです。
若草プロジェクトへの寄付にご興味がある方はこちらをご覧ください。「寄付をする」と「賛助会員になる」の2通りがあります。
<お話をうかがった方>
村木厚子(むらき・あつこ)さん
若草プロジェクト 代表呼びかけ人。1955年高知県生まれ。土佐高校、高知大学卒業。78年労働省(現厚生労働省)入省。女性政策、障がい者政策、子ども政策などに携わる。2009年、郵便不正事件で有印公文書偽造等の罪に問われ、逮捕・起訴されるも、10年に無罪が確定、復職。13年から15年まで厚生労働事務次官。
退官後は伊藤忠商事、SOMPOホールディングス、住友化学の社外取締役などを務める。また、累犯障害者を支援する「共生社会を創る愛の基金」や、生きづらさを抱える若年女性を支援する「若草プロジェクト」の活動にも携わっている。大阪大学ダイバーシティ&インクルージョンセンター招聘教授も務めている。2023年からは全国社会福祉協議会会長。
(著書)「日本型組織の病を考える」(角川新書)「あきらめない」(日経BP社)「公務員という仕事」(ちくまプリマー新書)