昨年7月にオープンした「星のや東京」。
東京の中心地、大手町のビジネス街に進出した日本旅館として話題をさらいながら、その詳細は意外と知られていません。
今回は、長らく秘密のベールに包まれていた「星のや東京」の魅力を2回にわたってご紹介しています。
さて、2回目は、2017年3月1日より提供されているディナーのフルコース全料理をご紹介!
料理長・浜田統之シェフが世界へ発信する「Nipponキュイジーヌ」です。
地下のメインダイニングでいただきます。
コースは、「KAKAWARI」(全9品)1本のみ。
メニューには、テーマになる漢字一文字と素材だけが記されています。
先月放送されたNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」をご覧になった方はご存知かもしれませんが、浜田シェフは、2013年フランスで開催されたボキューズ・ドール国際料理コンクールで日本人初の銅メダリスト。魚料理では世界最高得点をたたき出した注目の料理人です。その才気あふれる料理は、「軽井沢ホテルブレストンコート」のフレンチ「ユカワタン」でも大いに話題となり、信州の食材にこだわる独自のフレンチを確立しました。
その浜田シェフが満を持して、「星のや東京」で披露するのは「魚だけのフルコース」です。食材の選択肢が無限にある東京だからこそ、敢えて日本らしい食材に限定して、料理の本質に迫ろうというもの。
この日は、
季(蛤)
石(5つの意思)
山(ゴマサバ)
温(鮟鱇)
足(甘鯛と蕪)
鮮(鰻と筍)
改(柚子と日本酒)
豊(さつまいも)
果(おたのし実)」
調理法も食べてのお楽しみと、ワクワク。
メニューにはないアミューズから
雑魚のチュイルと雲子のフリット ラグビーボールのような器が目をひく、雑魚の骨と竹炭のチュイル(薄焼きのパリッとしたクッキー)は、熟成チーズの風味とともに後引くおいしさ。クリーミーなフリットとともに。
器は「星のや東京」建築時に出土した、江戸時代の大名屋敷の柱といわれる神代木と現代の木を組み合わせて製作したもの。
◆蛤
今が旬の蛤に天然の花びら茸をあわせた蒸しもの。海苔バターと蛤の出汁が良く合い、うまみのハーモニーを奏でます。米粉のパイでしっかり貝あわせ。これとは別に、紫蘇のオイルをあわせた蛤の出汁で口の中を温めて。
◆五つの意思
浜田シェフを代表するコースの中のコース料理の登場です。
日本固有の味覚である五味(酸・甘・ 苦・辛・旨)を小さな五つの料理に詰め込み、繊細な技術で表現。ひとつずつの料理にあわせ器の石も温冷調整し、味の移り変わりも楽しい意表をつくおいしさ。
写真左から、こはだのタルタル、オニオングラタン、いわしとジャガイモのクロケット、かつおのブーダン・ノワール、干し柿とクリームチーズをあわせたゆりね饅頭
まだまだ、魅力的なお料理が続きます!
◆ゴマサバ
香ばしく皮目をあぶった酢〆のゴマサバに生姜風味のドレッシングを合わせて。春菊のオイルと茗荷、紫蘇、ねぎのビネグレットのジュレ、仕上げに三色すみれをあしらいます。着物の帯に見立てた紅芯大根のピクルスは、押し花のようです。
◆鮟鱇
和の趣たっぷりのお椀ですが、鮟鱇のエキスにコンソメを加えたスープ。ほろりと口溶ける鮟鱇の身、さらに器の底にある鮟肝のコクが加わります。最後に蓋の上に添えられた生姜汁を加え、鮟鱇のスープの三変化を楽しみます。
いよいよメインへ! そのあとのデザートも気になります。
◆甘鯛と蕪
甘鯛の鱗焼きのおいしさにうなる、春を感じる美しいひと皿。
米油でパリパリに仕上げた甘鯛の皮と、肉厚で柔らかな身との食感違いが見事です。ミモザ色の柚子ソースは、フレンチのヴァン・ジョーヌソースをイメージし、ヴァン・ジョーヌ(ジュラ地方の特産、黄色いワイン)の代わりに日本酒を使っています。蕪の甘みにも合う、軽やかな酸味と甘みです。
◆鰻と筍
ここでテーブルは、山の木の葉でイメージチェンジ。里山の筍を思わせる楽しい演出で、土に見えるのはどんぐり粉です。
筍の皮を開けると、蒲焼の甘く香ばしい香り…。生姜のスパイシーな甘だれソースがしっかり効いた締めのひと皿です。
女性にはちょうど良いボリュームの料理6品の後、さらにうれしい「別腹」が控えています。
◆デザート
柚子と日本酒…王冠を模したビジュアルもすてきなジュレと日本酒のコンビネーション。
さつまいも…ごま油のアイスクリームも印象的な味わいです。
おたのし実…最後の最後にこのプレゼンテーション!
ムリムリと思いながら、ひとつづつの説明を聞くと手が伸びます。くるみとみそのクロカン、ごまのフロランタンが特に好みでした! 全10種類。
写真右から、栗とほうじ茶のガトー、大徳寺納豆のマドレーヌ、きなこのギモーヌ、くるみとみそのクロカン、いちごと黒酢のパート・ド・フリュイ、鮟鱇の骨を使った卵白菓子、リンゴのタルト、かぼちゃのマカロン、ごまのフロランタン、黒豆のケーキ。
特徴あるデザートナイフは、福井県・龍泉刃物のオリジナル。
ここのステーキナイフ「RYUSEN JAPAN」をご存知でしょうか。2013年のボキューズ・ドール国際料理コンクールに出場する日本チームのために開発製造され、その卓越したデザインと技術力で各国のシェフたちも魅了しました。その後予約制で市販されたものの、現在でも4年待ちという、メイドインジャパンの逸品です。
「星のや東京」のディナー、いかがでしたでしょう?
今までありそうでなかった「魚だけのフルコース」へとたどりついた浜田シェフ。
「肉はやはりナイフ&フォークの文化、ヨーロッパのほうがおいしいんですよ。箸の文化の日本では、長い間魚を食べてきたのだから、『星のや東京』のメインダイニングでは、魚縛りもいいんじゃないかと。それに、誰もチャレンジしていなかったので(笑)」。
さらにこのコースでは、所謂雑魚と呼ばれる魚や、従来のフレンチではほとんど使われていない魚(例えばゴマサバや鮟鱇)にも目を向け、骨やガラまで無駄なく使う「おいしい魚料理」に仕立てています。
料理に負けず印象的だったのが、木をふんだんに使った器やスタッフのプレゼンテーション。基本、個室での食事ですから、サービススタッフの説明もじっくり聞け、質問や要望も伝えやすい雰囲気です。
ワインはもちろん、日本酒や焼酎のお酒もそろっており、フルコースにあわせたバイザグラスのマリアージュ(ワイン&日本酒を7種類)もおすすめ。
メインダイニングのディナーは、外来ゲストも受け付けており(宿泊者優先)、「塔の日本旅館」の雰囲気を垣間見ることができます。
■星のや東京
東京都千代田区大手町1丁目9番1
星のや総合予約0570・073・066 チェックイン15:00 チェックアウト12:00
1泊1室72,000円~(税・サ込、食事別) 夕食(ダイニング)フルコース1名18,000円(税・サ別)、朝食(インルームダイニング)和洋とも1名4,000円(税・サ別)
※食事を希望する場合は夕食付きプランで予約を。外来夕食は宿泊者優先のため、予約が取れないこともあります。
東京駅丸の内北口より徒歩10分。東京メトロ大手町駅A1もしくはC1地上出口より徒歩2分
文/さとうあきこ