中村メイコさんは御年84歳。2年前に、『人生の終いじたく まさかの、延長戦!?』(青春出版社刊)を出版、すでにいつお迎えが来てもいい心構えはできているものの、その覚悟とは別に、「言い遺したことがある気がして」と、古舘伊知郎さんをインタビュアーに指名、思いの丈を縷々語りつくしたのが、この本『もう言っとかないと』。多くの才能あふれた友人、知人が鬼籍に入り、彼らが活躍していた頃には話せなかったことや思いを語りつくしています。
「古舘さんに全部話したから、あとは死ぬだけ」
メイコさんといえば、マルチタレントの草分け的存在。
1歳年上でテレビ女優第1号の黒柳徹子さんと並び称されることも多いですが、キャリアではデビューが2歳8か月(!)のメイコさんに軍配があがります。しかも、そのデビュー作、映画『江戸っ子健ちゃん』では、当時助監督だった世界の巨匠、黒澤明監督に、撮影の合間におんぶしてもらってた(!)のをはじめ、3歳のときに大作家の菊池寛と二人きりで会食、16歳であこがれの直木賞作家の吉行淳之介とデート、大人になってからは昭和の大歌手、美空ひばりと大の仲良しに、など綺羅星のごとき各界の著名人との交流ひとつひとつにエピソードがあるのです。(内容は本書を読んでのお楽しみ!)
幼くして芸能界に入り、有名人になってしまったメイコさんは、普通の人ができない得難い経験も積んだかわりに、あたりまえの日常からは遠い人生でもあったのです。
そんなあたりまえではない人生経験を踏まえて今、思うこととは?
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ちなみに娘のカンナさんはメイコさんのことを、「無知で多識」と評しているとか。
だれもが知っている一般常識には疎いけれど、普通の人では知りえないことまでよく知っている逸話の数々には思わず笑ってしまいますが、ご本人は至って真面目に謙虚に娘の言葉を受け止めているのが、いかにもメイコさんらしいところです。
そんなメイコさんが「もう言っとかないと」と思っていることのひとつは、すべてに台本があり、台本通り進行する昨今の番組制作のやり方。とくに対談番組は、現場での意外な展開こそ醍醐味、と断言。
また、かつてスターはけっして私生活を見せなかったのに、SNSで公開しちゃう最近のスタイルは「スターがスターでいられないのでは?」と、疑問を投げかけています。
〝みんな一緒〟(メイコさんはこれを悪しきグローバリゼーションと呼んでいます)への警鐘も、子供のころから、本物のスターたちと仕事を共にしてきたメイコさんに言われると、確かにと、うなずいてしまいます。
すでに天国へ旅立った人たちとの、今だから話せる裏話や仰天エピソードの数々は、なぜかメイコさんの口から語られると、腑に落ちる感覚ですいすい読み進められます。それはメイコさんの人を惹きつける語りと、聞きだす古舘伊知郎さんのインタビュー力の相乗効果によるもの。紅白歌合戦の紅組司会を務めたこともある(それも3年連続で)メイコさん、古舘さんに自分のお葬式の弔辞を託したいという言葉からも、いかに篤い信頼を寄せているかがわかります。
全編話し言葉で書かれ、章ごとに古舘さんの率直なコメントも添えられて、軽妙洒脱なのに意外と深い読後感を感じさせられる一冊です。