銀座を代表するレストランのひとつ『ファロ資生堂』(東京銀座資生堂ビル10階)が、この10月に新たなスタイルで「FARO(ファロ)」としてオープンしました。これまではイタリアンレストランでしたが、リニューアル後の主軸は〝ガストロノミー〟。
フランス語で〝美食〟を意味するガストロノミーは、最近の東京の食文化トレンドのひとつです。
選び抜かれた食材を作り手のクリエイティビティーで文化として昇華する、と書くと、少々堅苦しく感じますが、つまりは「空間」「器」「サービス」「ワイン」など料理を演出するすべての要素が食文化を作りだすという考えのもと作りだされる料理のこと。分かりやすく言うと「食を通して文化を感じる料理」ということです。
エレベーターを降りた瞬間、目に入るのはブルーとホワイトの空間。天井やオブジェ、壁、照明に至るまで和紙が贅沢に使用されつつも、店のデザインはクラシカルな欧州テイスト。外国のお客様をお連れしたら、サプライズ必至、日本人の私たちも「へぇ!」と胸が高鳴る、贅沢でいて、コージーな空間が広がります。
各テーブルの上で私たちを待つのは、欧州では〝食・宗教(創生)・技術〟を象徴すると考えられる「リンゴ」。新生FAROのアイコンともいえるこのオブジェは、本物のリンゴで型を取り創作されているのでテーブルごとに大きさや形が違うという話などを伺いつつ、最初のお皿を待ちます。
ランチ、ディナー共にメニューはひとつ。
ランチは4品~(8000円/税込・サ別)、ディナーは10品~(2万円/税込・サ別)。「~」とあるのは、その日に仕入れた食材によって、皿数が変化するから。同様にメニューも大枠は月ごとに決まるものの、日によって変化があると言います。
取材に伺ったのはディナー。写真を見ていただくと、まるでアートのような1皿1皿に心奪われると思いますが、ため息が出たり、へぇ~と感心したり、わぁ!と声を挙げてしまったりと、いちいちが逸品と呼んでいい料理が続きます。メニューが変化するという理由から、料理名を羅列することはできないのですが、根底にあるのは「和の素材」と「調理法としてのイタリアン」。
「コース料理はシェフの物語なのだ」と実感するFAROのストーリーは、前半の小さなお皿たちが繊細で、メインメニューと称してもいいとも思えるパスタ2品を挟んで、後半の魚料理・肉料理は味わいもしっかりと力強く、個性的なドルチェでフィナーレを迎えます。
前述したガストロノミーに必要な要素のひとつ〝驚き〟が、最初から最後まで新鮮につながり、3時間近い饗宴もアッと言う間。革新的ともいえるこうした料理をテーマにするレストランはいくつもありますが、残念ながら発想が料理を越えられないという印象を受ける場合も少なくない中、FAROのそれは多くの人の心に響くものに感じました。
さて、FAROのもうひとつの特徴はランチとディナーでまったく顔が違うこと。共にガストロノミーであることに違いはないのですが、ランチは、よりヘルシーに肉・魚は使わないコースです。
たとえば、まるで肉団子に感じる料理は菊芋で出来ていたり、デザートは一切小麦粉を使っていないモナカだったり。聞かなければ野菜や豆が素材だったとは分からない料理はヘルシーで、ボリュームもしっかり。
こちらもディナー同様、ゆっくりと時間を取って味わうために、2時間ほどの時間をみてほしいとのことでした。
決してリーズナブルとは言えない銀座のシンボリックなレストラン。だからこそ、本物の贅沢を味わえる空間とも言えます。そんな至福の時間を体験できるのも『大人』になったご褒美のひとつかもしれません。
次回、資生堂パーラーの鈴木真社長に、2020年を見据えたレストランのあり方などを伺っていきます。
FARO(ファロ)
東京都中央区銀座8‐8‐3 東京銀座資生堂ビル10階
0120(862)150/03(3572)3911
ランチ12時~13時30分(ラストオーダー)/ディナー16時~20時30分(ラストオーダー)
休/日曜・祝日・夏季(8月中旬)・年末年始
※2019年1月より月曜も定休
取材・文/池野佐知子