高齢者の死因として「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」とよく耳にするけど、誤嚥って何でしょう? 呼吸器内科のスペシャリストとしてメディアでも活躍する大谷義夫先生に、どのような時に誤嚥が起こるのか詳しくお聞きしました。
大谷義夫さん
Yoshio Otani
呼吸器内科医。池袋大谷クリニック院長。東京医科歯科大学呼吸器内科医局長などを経て、2009年より現職。呼吸器内科のスペシャリストとしてメディアでも活躍
のど機能の低下を防ぐことで誤嚥を予防!
日本人の死因の第3位が「肺炎」。その中に、高齢者の死因としてよく耳にする「誤嚥性肺炎」も含まれています。しかし、そもそも誤嚥とはどんな現象なのでしょうか?
「口から食べたり飲んだりしたもの、または唾液などが、間違って気道に入ることです。これは、空気と飲食物が交差しているという、のどの複雑な構造からきています」(大谷義夫先生)
呼吸をするとき、鼻や口から入った空気は咽頭(いんとう)、喉頭(こうとう)を通って気管に入ります。一方、飲食物や唾液は口から咽頭に送られ、ゴックンと飲み込む動作によって食道へと送られます。この飲み込む動作を「嚥下(えんげ)」といいます。
喉頭は気管の口側に位置し、喉頭蓋(こうとうがい)というふたが作動して、食べ物が気道に入らないように防いでいます。
時々、食事中に食べ物が気道に入って「むせる」のは、このふたの開け閉めがうまくいかなかったため。これが「誤嚥」です。若い人でも、誰にでもあることですが、頻繁にこれが起こるようなら、のどの機能が低下している可能性がある、と大谷義夫先生。
「本当なら、飲食の際は気道の入り口はしっかり閉じているのですが、加齢に伴ってのどの機能が低下すると、ここに隙間ができたり、喉頭蓋の動きが悪くなったりするのです」
この誤嚥によって、病原菌が気道から肺に入り、炎症を起こすのが「誤嚥性肺炎」です。
「高齢者によく見られるのが、食べ物だけでなく、唾液中の口腔内細菌が気道に落ちることで起こる肺炎です。寝ている間に起き、自覚症状がないので、“隠れ誤嚥”といわれています」
高齢者に多いとはいえ、まだまだ先のこと…と安心は禁物。最近、食事中にむせることが増えたという人は要注意! 「のど年齢」が進み、のど機能の低下が始まっているかもしれません。
また、むせるのと同時に気をつけたいのが、しつこい咳(せき)です。
「咳も異物を体外に吐き出すための防御反応ですから、むやみに止めてはいけない場合もあります。しかし長引く咳は、のどの炎症だけでなく、気管や肺にまで病原菌が侵入して、肺がダメージを受けていることがあります」
咳の原因はいろいろありますが、長引くようなら、早めに呼吸器内科を受診することが重要です。
「現在、肺炎の予防としてエビデンスがあるのは肺炎球菌ワクチンです。また秋から冬の時期には、インフルエンザの予防接種を受けるのも、肺炎予防に役立ちます。そのうえで、日頃からのどと肺の機能を高めておくことは、重症化を防ぐためにもいいですね」
のど年齢だけでなく「肺年齢」も意識し、呼吸器系の機能を総合的に高めていくのが、大谷義夫先生も推奨する「のどトレ」! 実際のトレーニングは次々回、第4回目からご紹介します。
イラスト/macco 取材・原文/山村浩子