お見合い、結婚相談所…なんとまぁ、古めかしい。昭和は遠くなりにけり、もう令和ですよ!今ならマッチングアプリもあるし、21世紀風の出会い方、恋愛があるんじゃないの!?だいたい、そこまでして今の時代、「結婚」ってしたいもの?どーせ、婚活に成功する秘訣は「年収〇〇〇万円など、高スペックにこだわるな」とか、どこかで見たようなことが書いてあるんでしょ?
そう疑って読み始めましたが、最初のエピソードで予想は覆されました。とにかくおもしろい!お腹を抱えて笑ったり、著者と一緒に会員に腹を立てたり、時には「ジーン」とするシーンも…
「余計なお世話いたします 半年以内に結婚できる20のルール」
(集英社刊・1,320円(税込))
著者の大屋優子さんは、元ブライダル雑誌編集者。ウェディング関連の広告代理店を30年以上経営し、会社に結婚相談所を併設するまでに。そこで出会った会員さんたちのエピソード(プライバシー保護のため、名前や年齢や職業などを一部変更しています)を紹介しながら、「婚活成功への20のルール」を教えてくれます。
なんですが…まず私が驚いたのは、「結婚相談所に入るには独身証明書、収入証明書、学歴の証明書が必要」だということ。独身証明書!?そんなものあるの!?どこで発行してくれるの!?と、あわててググりました。本籍地のある市区町村で発行してくれるそうです。ひとつ賢くなれました。
すみません、ご存じの方には常識だったかもしれませんが…とにかく、結婚相談所に入る方って「本気度」が違うそう。お金も払うし、いろいろな書類の準備も必要だし、そりゃ大変です。でもそう簡単に話は進みません。その辺のエピソードが、実に愉快です。
たとえば30代半ば、中堅大卒、そこそこの年収の男性は、婚活市場で大人気。希少価値が高く、「ミドサー」と呼ばれるらしい。まさにミドサーのある男性、恋愛経験ほぼゼロ、眉毛はゲジゲジ、白髪交じりのもっさりヘア…どう考えてもモテなさそう。でも、イケてない見た目は各種サロンでイメチェンし、プロフィール写真は専門スタジオで撮影すれば、申し込みが殺到。多い日は1日4件お見合いを!そのスケジュールがまた
「10:00~パレスホテル大宮、12:30~京王プラザホテル新宿、15:00~帝国ホテル東京、18:00~渋谷エクセルホテル東急」
「仕事かっ!」と突っ込みたくなるようなハードさです。そう、大屋さん自身が会員さんに話したように
「これからの休みは、とにかく婚活を仕事だと思って、何より優先させてね!忘年会よりデートが優先。それが婚活なの」
「お見合い」から「仮交際」まで進むと、毎日LINE&週1デートは必須。「仮交際」は複数の相手ともできるので、その場合は、LINEは毎日同時進行、デートはダブルヘッダー…仕事以上にハードかも。そこに真摯に向き合い、努力を続けた人が「成婚」に達するようです。この本は、ある意味「ビジネスで成功するための本」なのかもしれません。
もちろんすべての人が真摯に努力するとは限らず、「ひとつ気に入らないことがあると却下するイチャモン女(男もあり)」「絶対不利なのに禁煙できない男」「相手の予定より自分のスケジュールを優先する自分勝手女」なども登場します。でも著者の大屋さんは、彼らをバッサリと切り捨てはせず、なぜそうなるのか、寄り添って考えようとします。
「会員のすべてが、私の息子であり、娘だと思っている。出来が良い子も、悪い子も、心から愛する私の子どもたちだ」という一文は、決して嘘ではないのでしょう。事実、大屋さんのサポートぶりは並大抵なものではありません。婚活打合せに深夜までつき合ったり、断られ続ける会員をなぐさめ励ましたり、NGなデートを続けてしまったら呼び出してたっぷりお説教したり…まさに「子育て」のよう。だからこの本は、私が最初に誤解していたような、単なる「婚活成功本」とは一線を画しています。著者の“婚活者への愛”が感じられます。
最後に、「70回お見合いした男性」のエピソードを。42歳、国立大学大学院卒、大屋さんによれば「クラスで、いや学年で一番モテないタイプ」。とにかくコミュ力が低く、何十回も模擬お見合いで練習したけれど、連戦連敗。お見合い20回を超えたころから、やっと仮交際まで進めるようになったけど、1回目か2回目のデートで、やはりすべてアウト。原因は「会話が続かない」だったそう。
たいていの人なら、とっくに心が折れているはず。でも彼はめげませんでした。そして、お見合い70回目を超え、とうとう運命の相手に出会い、成婚にいたります。
「今までこんなにたくさんお見合いして、たくさんダメになりましたが、すべては、彼女と出会うための道すじだったと思います」
最初は、会話すらできなかった彼が、自分の言葉でそう語ったときは、私は涙が止まらなくなった。
この箇所には、私もちょっともらい泣き。失敗しても失敗しても、諦めずに目標に向かって、コツコツ努力することができる。その姿はきっと、イケメンでなくても、会話ベタでも、輝いていたのではないでしょうか。彼に寄り添い続けた大屋さん、きっととても誇らしかっただろうと思います。