認知症専門医にズバリ聞きました!
40代・50代女性に必要なのは、「大豆」と「社会脳」です
最近、毎日の生活の中で認知症にならないための予防ができることがわかってきました。第一線で活躍する認知症専門医に、料理研究家の松田美智子さんが"認知症予防"の最新知識について聞きました。
答えてくれたのは…
朝田 隆さん (メモリークリニックお茶の水 理事長)
Takashi Asada
東京医科歯科大学医学部附属病院特任教授、筑波大学名誉教授、医学博士。数々の認知症実態調査にかかわり、軽度認知障害(MCI)のうちに予防を始めることを推奨。『専門医がすすめる60代からの頭にいい習慣』(三笠書房)など編著書多数
質問をしたのは…
松田美智子さん( 料理研究家)
Michiko Matsuda
日本の食材を大切にした季節感あふれる家庭料理を料理教室で指導するかたわら、テーブルウエアや調理道具などの「自在道具」プロデュースも。『丁寧なのに簡単な季節のごはん』(小学館)など著書も多数。女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事
認知症予防も、大切なのは「食」「運動」「休養」
認知症専門医の朝田隆先生と出会い、「生涯現役脳」を考える新聞連載でタッグを組んだという料理研究家の松田美智子さん。日頃から気になっていた認知症の予防について朝田先生に尋ねました。
松田 先生はどうして認知症の専門医になられたのですか?
朝田 医大を卒業して1年間は救急医療に携わっていたんです。ちょうどその頃、近い将来、高齢化社会になるといわれはじめた。未開拓の分野でしたし、必ず必要とされるに違いないと考え、40年ほど前にこの道を選びました。今やいちばん古株の認知症専門医です。
松田 日本には今、認知症の人はどれくらいいるのでしょうか。
朝田 2012年には、日本の認知症患者数は460万人、高齢者人口の15%でした。2025年には700 万人、高齢者人口の5人に1人が認知症に、MCI(軽度認知障害)と呼ばれる認知症予備軍は65歳以上の3人に1人がなると推計されています。
松田 もはや認知症は他人事ではないですね。私も先日、認知機能検査を先生のクリニックで受けました。 60歳を過ぎ、まず自分がどんな状態なのかを知って、効率よく予防をしたいと思ったんです。一般的に、検査は何歳くらいから受けるのがよいのでしょうか。
朝田 目安としては50歳くらいがいいと思います。しかし、認知症の定義は、長谷川式認知症スケール(認知症の診断に使われる認知機能テスト)で何点取るかで決まるものではないんです。朝から晩まで探し物をしたり、買い物や料理ができなくなったり、人とコミュニケーションがとれなくなったり─いくつかの認知機能の低下によって日常生活に支障をきたしているかどうかを見ることが大切です。必要に応じて血液や脳波、MRI検査なども行います。
松田 認知機能に不安があるとなった場合はどうすれば?
朝田 残念ながら認知症に根本治療薬がない現状では、いかに予防するかが重要です。世界的に著名な医学雑誌「ランセット」が認知症の危険因子を9つ挙げています。教育を11〜12歳までに終了している、高血圧、肥満、糖尿病、抑うつ、聴力低下、喫煙、運動不足、社会的孤立です。予防するには、どの病気にも共通することですが「食」「運動」「休養(睡眠)」が何より大事です。松田さんの専門分野である「食」であれば、バランスのよい食事が脳にとっても理想。とはいえ、よく言われる「一日30品目」は現実的には難しいですよね。私は「まごたちわやさしい」をおすすめしています。
松田 大豆などの豆、ごまやナッツ類、卵、乳(牛乳や乳製品)、わかめなどの海藻、野菜、魚、しいたけなどのきのこ類、いも、ですね。私はその最後に「に=肉」をプラスして提唱したい!
朝田 シニア世代にはタンパク質はとても必要ですから、いいアイデアですね。
松田 1年間、先生といろいろな分野の専門医の先生方と一緒に新聞連載のお仕事をさせていただき、一生自立して生きるには「食べる」ことがいかに大切かを改めて感じました。なかでも、多くの先生方が「大豆」をもっと日々の食卓に取り入れるべきだとおっしゃっていたのが印象的で。大豆にはタンパク質はもちろん、本当にたくさんの栄養素が豊富に含まれているんですよね。ビタミンやミネラルの含有量が多く、しかもコレステロールは含まない。「天然のサプリメント」と呼びたいくらい。
朝田 そのとおり。タンパク質、脂質、糖質という3大栄養素をはじめ、食物繊維やビタミンB1 、ビタミンE、葉酸、カリウム、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛、銅など、必要なものがほとんど含まれています。非常にバランスのいい食材ですね。
松田 調理法によってスナックにも、主食にもおかずにもなる。食感を残せば、「嚙む」ことが脳への刺激になります。連載の取材でも、多くの先生方がそれぞれの専門分野の観点から「食感のあるものをしっかり嚙んで食べること」を、おすすめされていましたね。
このインタビューは、連載第2回に続きます。
撮影/合田昌弘〈料理〉 さとうしんすけ〈人物〉 料理・スタイリング/松田美智子 構成・原文/北村美香