新型コロナウイルスの治療薬開発は急ピッチで行われていますが、現状では決定打がありません。見通しの立たないコロナ時代を健やかに過ごしていくために必要なことは? ハーバード大学&ソルボンヌ大学客員教授・根来秀行さんに、ぐうたらライター・いしまるこがインタビューします。
(記事の内容は2021年11月29日時点の情報に基づきます)
現状、予防薬はありません。自己判断の服用は危険
いし 欧米では、新型コロナの治療薬として抗寄生虫薬のイベルメクチンの需要が急騰しましたね。「奇跡の治療薬」とも呼ばれていたとか。
根来 イベルメクチンは、新型コロナの薬としては認可されていません。感染初期に投与すると有効とする論文の多くに不正が見つかった経緯もあり、科学的根拠は不十分です。それでも現状ではあまり治療薬がないため、海外では内服する人もいるようです。さらに、家畜用のもので代替する人もいて、入院を含む治療が必要になる人たちが続出したんです。FDAが「あなたは馬ではありません。牛でもありません」とツイートし、イベルメクチンの大量使用は「危険で深刻な害をもたらす恐れがある」と警告しました。
一方、決め手となる治療薬がない中、最近、都内の宿泊療養施設で希望する患者に対し、治験でイベルメクチン投与が開始されています。
いし 日本でも予防目的で個人輸入している人がいるようですが、安全性はどうなんでしょう?
根来 その場合、何かあっても自己責任です。効果と安全性が担保された用法用量も確立しておらず、もし使用するとしても、治験の行われている機関で、しっかりした管理の下での投与が望ましいです。
いし なるほど。では、政府が推している抗体カクテル療法はどうですか?
根来 軽症者に投与できる薬として、重症化予防が期待されています。発症から7日以内に投与とされていますが、もっと早いほうが効果的でしょう。ウイルスがあまり細胞に入り込んでいない状態で、抗体がうまく結合すれば一定の効果はあると思います。
中外製薬が適応拡大申請をしていて、承認されれば、予防薬、および無症状の感染者に対する治療薬としても認められます。
●抗体カクテル療法とは?
名前の由来は、人工的に作った2種類の抗体を点滴で同時に投与することから。スパイクタンパク質に結合させ、ウイルスが人の細胞に侵入することを防ぎます。異なる抗体を同時に投与することで、変異ウイルスにも対応できると期待されています。日本では軽症から中等症の患者のうち、50歳以上や基礎疾患があるなど重症化リスクの高い人を対象に7月に承認。入院患者や一定の要件を満たす宿泊療養者のほか、条件付きで外来診療や自宅療養者への往診でも可能に
いし トランプ前大統領が入院した際にも使用されて、あっという間に回復していましたよね。
根来 海外の臨床試験では入院や死亡リスクを7割減らす効果があったという報告もあります。ただ、供給量が限られており、投与対象者やタイミングの選択が難しいのも事実。副作用などいろいろなことがまだしっかりと検証されておらず、慎重に進める必要があります。
いし ワクチン開発も進めている塩野義製薬が、飲み薬による新型コロナ治療薬を開発し、治験も始まっていますね。「国産」で「飲み薬」ということで、期待が高まっていますが。
根来 塩野義製薬の飲み薬は3CLプロテアーゼ阻害薬と呼ばれるものです。新型コロナウイルスが増殖するためには3CLプロテアーゼという酵素が必須になりますが、この飲み薬は3CLプロテアーゼを選択的に阻害することで、新型コロナウイルス増殖を抑制するという理論に基づいています。
僕の研究室で開発中の薬も、新型コロナウイルスのG4構造を制御して新型コロナウイルス増殖を抑制するメカニズムが確認されており、現在治験が行われています。いかに安全にウイルス増殖を抑えることが出来るかということが重要になると思います。
毛細血管の健康度が、感染や重症化を左右します
いし 今のところ「ゼロコロナ」は難しいですね。コロナと共存しながら健やかさを保っていくために何を心がけたらいいですか?
根来 一番のポイントは、毛細血管レベルの健康度合いを高めておくことです。毛細血管は酸素や栄養、そしてウイルスと闘う免疫細胞を全身に運ぶ重要な経路。毛細血管が弱っていると、免疫細胞が必要な場所に運ばれず、ウイルスの活動を阻めません。
糖尿病や高血圧、肥満などの生活習慣病があると新型コロナの重症化や死亡率が高いのも、毛細血管が傷んでいて、ウイルスの攻撃に耐えられないからです。
いし コロナ禍で体調不良やうつに陥る人が続出していますが、毛細血管の状態が心配ですね…。
根来 共通のパターンがあって、外出を控え、リモートワークが増えたことで、体を動かす時間が大幅に減り、間食が増えて食事が不規則になり、つい夜更かしに。その結果、自律神経やホルモン、体内時計が乱れ、それらに制御されている毛細血管の働きが悪化。免疫機能は低下し、コロナの感染リスクも高くなっていきます。
いし 負のスパイラルだ…。
根来 非常時こそ基本を怠らないことが何より大事。薬に頼らなくても、体内時計を合わせた上で、規則正しい食事・質のいい睡眠・適度な運動といった基本を押さえれば、毛細血管を元気にし、増やすことさえできます。
続けていれば免疫機能が高まってグッと状態がよくなり、自然と気持ちも上向きになっていきます。実際、僕が診ているコロナうつの患者さんのほとんどが、1〜2ヶ月ほどの生活指導でかなり改善しているんです。コロナの後遺症についても、毛細血管ケアは不可欠です。
不自由が続きますが、忙しさにかまけておろそかにしてきた日々の生活を丁寧に見直すことで、ピンチをチャンスに変えていきましょう。
毛細血管ケアのバイブル
『ハーバード&パリ大学 根来教授の特別授業 「毛細血管」は増やすが勝ち!』
根来秀行 著/集英社
1,375円
毛細血管を元気にして免疫機能を高める具体的なメソッドが満載
根来秀行教授
Hideyuki Negoro
1967年、東京都生まれ。医師、医学博士。この連載から生まれた『ハーバード&ソルボンヌ大学 Dr.根来の特別授業 病まないための細胞呼吸レッスン』、『ハーバード&パリ大学 根来教授の特別授業 「毛細血管」は増やすが勝ち!』(いずれも集英社)が好評発売中。ハーバード大学医学部客員教授(Harvard PKD Center Collaborator, Visiting Professor)、ソルボンヌ大学医学部客員教授、奈良県立医科大学医学部客員教授、信州大学特任教授、事業構想大学院大学理事・教授。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など多岐にわたり、世界の最先端で臨床・研究・医学教育にあたる。
いしまるこ(いし)
冷房も暖房も苦手なぐうたらライター。換気だけはマメに行い、風通しよく過ごしています!
撮影/角守裕二 イラスト/浅生ハルミン 取材・原文/石丸久美子