脳に「厳しい」勉強法は成果が出にくい
今いちやる気が出ない、机に向かっていてもすぐ飽きてしまう、成果が見えず諦めぎみ…。そんな自分が残念になって、またやる気が落ちて、という負のスパイラルにハマっている人は、「脳に厳しすぎます」と加藤先生。
「飽きっぽく、好きなことにしか興味を示さず、ご褒美が用意されているとわかれば頑張れる。これが脳の基本的な性格です。
これを勉強に当てはめれば、長時間机にかじりついて苦手な分野を勉強をするということが、いかに脳の特性と逆のことをしているかがわかるでしょう。
脳の特性にそぐわない勉強の仕方では、せっかく貴重な時間を使って勉強しても成果が出にくく、非常にもったいない。
必死で勉強するさまを『机にかじりつく』と表現したりしますが、学生時代にそうした勉強法をしてきているために、『きちんと机に向かってこそ勉強』だと思っていませんか? 実際、机に一定時間向かって勉強すると『やった気』になる人も多いかもしれません。
でも、机に向かって勉強するというスタイルは、学校で一人の先生が多くの生徒を教えるときに、それがやりやすいからできたものです。
自分で勉強をするのなら、寝てやろうが立ってやろうが、極端なことを言えば頭に入ってくればどんな体勢だっていいし、何をしながらだっていい。
脳が『ラクだ』『やりやすい』と感じるやり方がでやればいいのです」(加藤俊徳先生)
脳は「楽しい」という感情が大好き!
脳の特性に合わせた学び方をするには、「楽しい」という感情も大きなカギ。
「脳の記憶系脳番地の中心には、ちょうどタツノオトシゴのような形をした『海馬』という器官があります。
海馬は私たちの目や耳から入ってきた情報を短期記憶としていったん保管しておく場所。
ここで情報の選り分けをして、より『重要だ』と判断したものを長期記憶として残す仕事をしています。
情報を受け取るときに『これが好き』『この作業は楽しい』という感情が一緒にあると、海馬は活発に働き、『これは重要な情報だ』と判断してくれます。
つまり、勉強という作業を海馬に『楽しい!』と思わせればいいのです」
※脳番地について詳しくは第1回参照。
でも、実際に難しい内容だったり初めて学ぶ分野だと、そんな気持ちを自然に持つのは難しい場合も。
「昇級に必要だから」などの理由で、渋々やっている勉強ならなおさらです。
「脳はだまされやすいという性質があります。
だからその勉強が『楽しい』『好き』と錯覚させてしまいましょう。
勉強しているときにワクワクや楽しさ、気分のよさが加わればOKなので、例えば大好きなカフェラテを飲みながら、憧れのホテルのラウンジで優雅に、といった環境を整えるのでもよし。
また語学の学習なら、好みのタイプの先生を選ぶというのもアリ。
『この試験に合格したらあれを買おう』など自分へのご褒美を思い浮かべるのも有効です。
ここで注目すべきは勉強自体を好きにならなくてもいいということ。
もちろん勉強の内容そのものが好きになるに越したことはありませんが、無理な場合だってあります。
そういうときは『好き』という感情が伴えばOK。
『好き』という感情を浴びると、海馬からはシータ波という脳波が出ます。シータ波が出ているときは、学習速度が2~4倍にもなるというデータも。
勉強と『好き』の気持ちをセットにすることは、とても効率のいい学習方法なのです」
「できた!」は脳への大きなご褒美
脳はご褒美が好き。これも勉強の成果を上げるのに生かせる特性です。
「『できた!』という感覚があると、脳の理解系脳番地が活性化し、そこから脳全体が刺激されてパフォーマンスも上がっていきます。『できた!』は脳を働かせるご褒美なのです。
難しい勉強に取り組んでいると、例えば模擬テストをしても、できない問題が多いかもしれません。
でも脳はつまらないこと・めんどうなことには興味を示さないため、できなかったことに注目していると勉強がはかどりません。
少なくてもいいので、できたものに着目し、『なぜできたのか』を分析してみましょう。
『前に一度読んだことがあった』『仕事でたまたま得た知識だった』など、できた理由がわかると、そこからまた『できた!』を味わいたくて、それが次へのモチベーションとなります。
学生時代の勉強は『できていないところを探してつぶしていく』というものだったのではないでしょうか。
それも大切なことではありますが、脳の特性を生かすなら、できなかったことではなくできたことに目を向けるのが正解なのです」
【教えていただいた方】
加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。株式会社「脳の学校」代表。脳科学、MRI脳画像診断の専門家として、胎児から90歳以上の超高齢者まで1万人以上を加藤式脳画像診断法で脳の使い方や脳相を診断。脳の成長や個性に合わせた学習指導や適職相談など、薬だけに頼らない脳が成長する治療を提供。著書に『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)、『1日1文読むだけで記憶力が上がる! おとなの音読』(きずな出版)など多数。
イラスト/藤田マサトシ 取材・文/遊佐信子