なんだか最近、筋力が衰えてきた。肌のハリもなくなったみたい。やっぱり年のせい…? いえいえ、それは加齢のせいばかりでなくタンパク質不足が原因かも。健康面でも美容面でも重要な働きをするタンパク質は、OurAge世代は特にしっかりとるべき栄養素。 近年、次々と明らかになってきた、タンパク質のとり方の「新常識」を知って、賢く効率的に補給しましょう!
今回の話を伺った先生
上西一弘さん
Kazuhiro Uenishi
女子栄養大学栄養学部教授。大学のゼミでは選手のパフォーマンスが上がり、勝てる体をつくるためのスポーツ栄養学を研究し、指導にあたる。著書に『新しいタンパク質の教科書 健康な心と体をつくる栄養の基本』(池田書店)など
現代人はタンパク質が不足している?!
近年の筋トレや糖質オフなどのブームによって、タンパク質をしっかりとる必要性についての認識は高まってきています。しかしその実、現代人の多くは、タンパク質が不足ぎみ!
「厚生労働省の調査によると、現在の日本人の1日平均のタンパク質摂取量は1950年代、つまり戦後まもなくと同水準です。最も摂取量が多かった1995年と比べると、2017年には約85%にまで落ちています。もちろん平均値なので、十分にとっている人も多いと思いますが、一方で不足している人が増えているのは事実です」
と話すのが、女子栄養大学の上西一弘先生。その理由は、ダイエットやメタボ予防などのために、太るイメージのある肉類を避ける人が増えているからともいわれているそう。
「一見、タンパク質が多く含まれていそうな牛丼でも、1食に含まれる量は約18g。これは平均体重(55.4㎏)の50代女性の1日の理想的なタンパク質摂取量の3分の1以下。しっかりとっているつもりでも、実際の摂取量は想像以上に少ないのです」
2017年の1日の平均タンパク質摂取量は戦後まもない1950年代と同レベル! ピークだった1995年の約85%にまで減少。
1947〜1993年:国民栄養の現状、1994〜2002年:国民栄養調査、2003年以降:国民健康・栄養調査(厚生省・厚生労働省)を加工
筋肉や肌はもちろん、心や免疫力にもタンパク質は不可欠!
なぜ、タンパク質がそれほど重要なのか? それは、体のあらゆる部分で重要な働きをしているから。
「タンパク質は、筋肉の材料になることが知られていますが、それだけではなく、全身のあらゆる部分で働き、生命そのものを担っています。
例えば、美肌によいとされるコラーゲンも、生命維持に必要なホルモンや酵素もタンパク質。また、新型コロナウイルスの流行によって改めて重要性が高まっている“免疫力”を正しく働かせるためにも不可欠です。
さらに、タンパク質は心にも関係しています。例えば、心を落ち着かせるセロトニンや、喜びや快楽を感じさせるドーパミンなどの神経伝達物質のおもな材料も、食事からとったタンパク質から作られます。このようにあらゆる機能にかかわっているので、不足するとさまざまな不調が現れ、老化も進んでしまうのです」
ただ食べるだけではなく、最新知見に基づいた「きちんと効かせる」とり方で、タンパク質をしっかり補って!
タンパク質は体のあらゆる部品になる!
人体をつくる物質の約60%は水分ですが、それを除くと、およそ半分がタンパク質。体をつくる部品になるだけでなく、生命の維持に必要なあらゆる機能を担っています。
脳
セロトニンやドーパミン、ノルアドレナリンなど脳内の神経伝達物質の材料はタンパク質
髪
髪の大部分を構成する毛皮質は、ケラチン繊維というタンパク質の束からできています
目
目で焦点を合わせるレンズの役割をする水晶体は、クリスタリンというタンパク質
舌
舌表面にある受容体タンパク質は、味覚のもとになる物質を情報に変えて脳に伝えます
口腔
唾液に含まれるリゾチームという抗菌作用のある酵素は、タンパク質から成ります
肺
肺で酸素と二酸化炭素の交換を促す、炭酸脱水酵素もタンパク質
肝臓
肝臓で働くアルコール分解酵素もタンパク質
免疫力
体内に侵入した異物と戦う“抗体”もタンパク質で、免疫機能を担います
胃
胃でタンパク質を分解する働きのあるペプシンという酵素の材料はタンパク質
膵臓
膵臓(すいぞう)から分泌され、血糖値を下げる働きのあるインスリンもタンパク質
十二指腸
十二指腸で、タンパク質を分解する働きのあるトリプシンという酵素の材料もタンパク質
皮膚
肌のハリを生み出すコラーゲン、肌に弾力をもたらすエラスチンはもちろんタンパク質!
筋肉
筋原線維の約80%は、ミオシンとアクチンというタンパク質で構成されます
血液
血液の成分で、酸素を全身に運ぶ重要な働きをするヘモグロビンも、タンパク質
爪
爪の主成分は、髪と同じくタンパク質のケラチン。不足すると割れたり二枚爪になったり
ホルモン
人体で体のあらゆる機能を調整する重要なホルモンも、実はタンパク質
イラスト/二階堂ちはる 取材・原文/和田美穂