どのようにして音が聞こえるのか、また、耳を疲れさせてしまう音など「聞こえ」の仕組みについて、医学博士の中川雅文先生にお伺いしました。
今までご紹介してきた「将来、難聴にならない方法」は、下のリンクから読むことができます。
【特集】将来、難聴にならない方法
お話を伺ったのは
中川雅文さん
Masafumi Nakagawa
1986年、順天堂大学卒業。医学博士。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医。国際医療福祉大学医学部教授。専門は耳鳴り、難聴、補聴器。著書に『「聞こえにくい」がなおる耳トレ』(大和書房)、『耳の聞こえがよくなるトレーニング』(PHP研究所)など
音が聞こえる仕組みって?
音は空気の振動であり、それを「聞こえる」と認識するのは脳。耳は外耳・中耳・内耳に分けられますが、音は耳介から入って、外耳・中耳・内耳へと伝わり、蝸牛(かぎゅう)に到達します。
すると蝸牛の内壁にある外有毛細胞が高速で激しくダンスをし、それによって電気信号に変換された音を内有毛細胞が聴神経を通して脳に伝えます。そこで初めて、私たちは「音が聞こえた」となるわけです。
耳は音を集めて調整し、電気信号に変換するための器官。「よく聞こえる」とは、「耳と脳の両方がうまく機能して連携している状態」ということになります。
耳を疲れさせる音とは?
耳に悪影響を与えるのは騒音ですが、耳へのダメージは「音の大きさ×音にさらされた時間」で決まります。
近年は、電車に乗った際にスマホで音楽を聴く影響で、“スマホ難聴(イヤホン難聴)”が急増しています。
電車内でスマホの音楽を快適に聴こうとすると、90~100デシベルほどのボリュームになりますが、WHO(世界保健機関)が定めた1日当たりの音圧レベルは、90デシベルなら2時間半、100デシベルなら15分が限界。それ以上は耳への負担になります。
長時間のデスクワークは難聴のもと!?
「耳の栄養素は酸素。酸素は血液によって運ばれますが、血液の中には脂肪の塊であるコレステロールも浮遊しています。水と油を混ぜたものを放置すると分離するように、じっと動かずにいると血液にも油の上澄みができて酸素が耳の細胞まで届かなくなり、細胞が徐々に傷んでしまいます。
長時間座りっぱなしのデスクワークは耳のためにもよくありません。1時間に一度は立ち上がり、250~500歩ほど歩くか、足踏みをして血行を促す習慣をつけましょう」
老化と聞こえのつながりは?
以前は年齢とともに聞こえが衰えていくのは、自然な老化現象と考えられていました。しかし現在では、難聴と明らかな関係があるのは「騒音」と「動脈硬化」のふたつだけだということがわかっています。聞こえを保つためには、動脈硬化の予防も大切なのです。
次回は、【騒音負債が難聴の原因?】聞こえの仕組み編②をご紹介します。
イラスト/いいあい 取材・原文/上田恵子