聞こえが悪くなったり耳鳴りがしたりと、日常生活で感じる耳の不調について、医学博士の中川雅文先生にお伺いしました。
今までご紹介してきた「将来、難聴にならない方法」は、下のリンクから読むことができます。
【特集】将来、難聴にならない方法
お話を伺ったのは
中川雅文さん
Masafumi Nakagawa
1986年、順天堂大学卒業。医学博士。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医。国際医療福祉大学医学部教授。専門は耳鳴り、難聴、補聴器。著書に『「聞こえにくい」がなおる耳トレ』(大和書房)、『耳の聞こえがよくなるトレーニング』(PHP研究所)など
難聴は耳鳴りの原因にも…
「耳鳴りの9割以上の背景には、難聴が隠れています。以前は患者さんの多くが高齢者でしたが、最近は若い人、特に20代~40代といった忙しい世代の女性が目立っています」(中川雅文先生)
耳鳴りは自律神経とも深いかかわりがあります。ストレスなどで自律神経が乱れると脳にエラーが起こり、内耳がダメージを受けるために耳鳴りやめまいなどの症状が現れることも。耳鳴りは、体からのSOSなのです。
聞こえが悪いは認知症の始まり!?
脳はその活動に伴い、アミロイドβという老廃物を産生します。この老廃物が脳の中に大量にたまることで認知症が進行していきます。
一方で、この老廃物は、脳を使うことで脳の外に排泄されます。つまり脳を最良の状態に維持するためには、脳を使い倒すことが大切なのです。聞こえないまま、難聴のままでいることは、学びの意欲を損なうことにもつながります。
使われない脳が生じることでたまりが生じ、意欲の低下によって他の部位にもたまりが生じる。聞こえを保つことは、若々しい脳の維持につながるのです。
生活音で騒音負債がたまってる?
毎日の睡眠不足が借金のように積み重なった状態を“睡眠負債”といいますが、同じように、耳にも日常の騒音による“騒音負債”がたまっていきます。特に女性の場合、注意したいのがヘアドライヤーなのだそう。
「ドライヤーの音量は100デシベル。15分で1日の許容時間を超え、ロックコンサートに行ったのと同程度のダメージを耳に与えます。髪が長く乾燥に時間がかかる人、乾かしたあとカールドライヤーを使う人は特に気をつけて」
もしかして難聴?
騒音負債と耳の病気
◆騒音性難聴
スマホ難聴・イヤホン難聴・ヘッドホン難聴ともいわれます。騒音に長時間さらされることで蝸牛の中の有毛細胞がダメージを受け、その一部が回復不可能な状態になり、騒音性難聴を引き起こします。
初期の自覚症状は耳鳴りで、徐々に進行するので要注意。原因となるのは、電車の中でスマホやイヤホン、ヘッドホンで音楽を聴くこと、もしくはヘアドライヤー、掃除機といった家庭内の騒音など。
◆突発性難聴
ある日突然、片方の耳が聞こえなくなったり、聞こえが悪くなったりする疾患。激しいめまいや吐き気を伴うことも。発症の要因やメカニズムはわかっていません。40代~50代に多い一方、最近は年齢に関係なく増加傾向にあります。
治療開始が遅れるほど回復が難しく、回復する見込みがあるのは発症から48時間以内。遅くとも1週間以内には病院へ。基本的な治療は、安静と点滴。
◆メニエール病
30代~40代の女性にやや多く、回転性のめまい、片耳の難聴・耳鳴りがおもな症状。吐き気や嘔吐、冷や汗、動悸などを伴うことも。発作性のめまいが30分~6時間程度続くので、静かに横になって休むことが大切。
内耳の内リンパ腔が腫れる「内リンパ水腫」が生じることから、内耳の循環障害やストレスが原因とも考えられています。めまいを伴わないものは「蝸牛型メニエール病」と呼ばれます。
◆耳垢(じこう)栓塞
耳垢が湿っているタイプの人がなりやすい病気。耳垢をためすぎたり、耳かきで傷つけたりすることで耳垢が外耳道の奥に押し込まれ、聞こえが悪くなります。また、補聴器やインナーイヤホンの出し入れで、耳垢が奥に詰まってしまうケースも。
耳垢は基本的には掃除の必要はなく、乾いた耳垢の人はベビーオイル、湿ったタイプの人はオキシドールで綿棒を湿らせて、軽く拭くだけでOK。
次回は、【耳の「聞こえ」を守る3つの習慣】についてご紹介します。
イラスト/いいあい 取材・原文/上田恵子