寝ているだけではダメ。前向きに取り組むことが肝心!
つらい「めまい」ですが、「寝ているだけでは治りません。慢性のめまいには、めまい改善訓練(前庭リハビリ)が欠かせません!」と新井基洋先生。
「実は、めまいの治療薬は1974年にジフェニドール塩酸塩(商品名:セファドール)が登場して以降は出ていません。そこで、私の外来では治療にトレーニングを取り入れています。これは、めまいやふらつきを改善する体操のことです」
人間は、目(視覚)、耳(前庭覚)、足の裏(深部感覚)からの情報を、「小脳」がまとめることで、体の平衡を保っています。「めまい改善訓練(前庭リハビリ)」では、この3つの部位を反復刺激して、小脳という体のバランスの中枢を鍛えることでめまいを改善していきます。
「私たちは、体のバランスに左右差があると、それを直そうとする仕組みが備わっています。その機能を訓練により高めるのです。これはきちんとしたエビデンスに裏づけられた方法で、アメリカでは標準治療になっています。フィギュアスケートの選手が、あんなにクルクルと回転しても演技が続けられるのも、日々の“回転という平衡機能の訓練”のたまもの。同じように、前庭リハビリという平衡機能の訓練を重ねれば、めまいやふらつきも克服できます」
「めまい」の前兆を知り、発作を上手に回避しよう!
もうひとつ、めまいと上手に付き合う方法…それは「避ける」ことだと新井先生。
「めまいの発作を何度か経験してくると、前兆のあることがわかってきます。それはある程度、共通するものがあります。代表的なものが次の7つです」
よくある前兆
1:耳鳴りや耳が詰まった感じがいつも以上に強い
2:首・肩のこりがいつも以上にひどい
3:生あくびが止まらない
4:吐き気や軽いむかつきがある
5:後頭部が重く感じる
6:ストレスが過度にかかっている状態が続く
7:ふらつきやすい、乗り物に酔いやすい状態がいつも以上である
これらはあくまで、よくある症状です。大切なのは自分のケースを知っておくことです。
「そのためには、めまいが起こる前の体調やその状況をメモしておくといいでしょう。季節も関係していて、春は気候の不安定さに加えて、学校や職場、また部署が変わったり、それに伴う引っ越しなど、生活にも変化が多い季節です。それらがストレスになって、めまいの引き金になることが多いのです。
ですから、いつ、どんなとき、どんな前兆があり、どのような症状だったのか? 簡単なメモでもいいので『めまい日記』をつけることをおすすめしています。起こりやすいタイミングを知っていれば、事前に回避、もしくは準備することができるからです」
めまいを起こしやすい要素をチェック!
めまいを起こしやすい状況にはどんなものがあるのでしょうか?
自分のケースを知っておくことが最も大切ですが、一般的にめまいを起こしやすい状況があります。それをあらかじめ知っておき、避けたり、事前に準備しておくことが、めまいと上手に付き合うポイントです。
めまいのリスク要因は8つ!
1:人混み/めまいを起こしやすい人は、大勢の人が行きかう人混みが苦手。目や頭を左右に動かすことが多くなり、それが刺激になってめまいが誘発されるからです。どうしても外出しなければならないときは、誰かに同伴してもらったり、時間にゆとりを持って、休憩をとりながら…を心がけます。めまいの処方薬を持っていくのもいいでしょう。
2:体調不良/風邪やコロナに感染すると、落ち着いていためまいも再発しやすくなります。体調管理をしっかりして、無理をせずに体を休めることが第一です。
3:気圧の変化/気圧が変化すると、内耳にある「気圧センサー」が敏感に反応します。耳が詰まった感じがしたら要注意。天気予報などで事前に気圧の変化が予測できたら、その日は旅行など遠方の外出を控えるといった対応を。
4:精神的ストレス/新しい職場や学校、結婚、離婚、引っ越しなど、生活環境の変化もストレスになり、めまいを発症しやすくなります。上手にストレスを解消する方法を持っておくことが大切です。
5:多忙/忙しすぎることもめまいのリスク要因。特に、大変な状況が落ち着いて、緊張が解けたときが落とし穴です。ゆとりのあるスケジュール管理を!
6:女性ホルモンの変化/月経前や月経中、更年期など、女性ホルモンのバランスが変わるタイミングに起こりやすい傾向があります。その時期には無理をしないようにしましょう。
7:睡眠不足/必要な睡眠時間には個人差があります。ひとつの目安として日中に眠気が起こらなければOK。夕食は就寝3~4時間前までにすませ、寝る直前の入浴を避けるなどして、睡眠の質を高める工夫も大切です。
8:飲酒・喫煙/お酒は適量ならいいのですが、やはり飲みすぎはNG。お酒は小脳を抑制します。また、ニコチンは内耳の血流を悪くし、めまいの症状を悪化させるリスク要因。ぜひとも禁煙を!
リスク要因を知って、事前に回避する習慣をつけることが重要です。
【教えていただいた方】
1964年生まれ。横浜市立みなと赤十字病院 めまい・平衡神経科部長。日本耳鼻咽喉科学会耳鼻咽喉科専門医、日本めまい平衡医学会専門会員・代議員。北里大学医学部卒業後、国立相模原病院、北里大学耳鼻咽喉科を経て現職。『全国から患者が集まる耳鼻科医の めまい・ふらつきの治し方』(KADOKAWA)など著書多数。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子