こんにちは。新型コロナウィルスの影響で、楽しみにしていたライブが軒並み延期や中止となり、旅行も取りやめ、突然のネタ切れとなったライブ大好き編集者のすぎです。
全国のライブハウスが潰れることなく、再び活況が取り戻せますように……と祈りつつ、今回は家で楽しめる本をご紹介します。
「お、久しぶりにウチ(集英社)から本を出すんだ!」と会社エレベーター前の宣伝告知で知った、朝井リョウさんの『発注いただきました!』。私、ファンなんです。
タイトルだけ見て、新作のお仕事小説かと思っていたら、こちら森永製菓やアサヒビール、朝日新聞といった企業から、朝井さんが「リアルに発注されて書いた」小説やエッセイ20作をまとめたもの。(最後に「この本がただの寄せ集め本と成り果てる未来を回避するために」集英社が発注した新作短編もあります)
音楽の世界でも、タイアップの多さは人気の証でありつつ、「魂を売った」と揶揄されかねない部分もあって、「もともとあった曲を気に入ってくれて、使われただけなんですよ。(企業に合わせて書いたわけではありません)」というミュージシャンを、昔はカッコイイと思っていました。
が、例えばスガシカオ(正確にはkōkua名義)が『プロフェッショナル 仕事の流儀』のために作った『Progress』なんて、番組との相乗効果もあって「NHKさん、ありがとう!」と言わずにはいられない名曲だし、エレカシの『ハナウタ~遠い昔からの物語~』という私が好きな曲も、「はなうた」という焼酎のCMのために書かれたもの。(タイトルまで捧げたのに、10年の時を経て残念ながら商品はなくなり、曲だけが残りました。サントリーさん、ありがとう)。
要するに、いい作品が生まれるなら、タイアップがきっかけでも良いのでは?と思うようになったのですが、この朝井さんの本が面白いのは、いつ、どこの企業から、どんなお題があったのか(テーマや文字数、使用媒体など)発注内容を最初に明示して、その作品を掲載したあと、どういうつもりでこれを書いたのかという現在の「感想戦」があること。
「誰も○○をキーワードには選ばんだろうハッハッハー!」と鼻の穴を膨らませていたり、「無理がありますよね」「許してえ」と自分で突っ込んで反省していたり。
「こんな依頼があるんだ!」「この文字数、大変そう」というタイアップの裏話(時には暴露話?)としても面白いし、「このお題で、こうきたか!」「やっぱり自分のフィールドへの引き込み方がうまいですね」と、試験に臨む作家の解答と心情を覗き見ているような気持ちになったりもして。
この手法、誰もができるわけじゃないけれど、「いろいろ書いたのにキャンペーン終了と共に葬られちゃうのはもったいない!」と思っていた朝井さんも、逆にキャンペーン終了後もこうして世に残すことができた各企業も、そして「集英社からデビューして10周年なんだから、何か書いてほしい」と思っていた(に違いない)集英社も、みんな嬉しい企画なのでは? と思った次第です。