みなさん、WBCは観てましたかー?私は友だちと大盛り上がりしながら、欠かさず観ておりました!もう、佐々木朗希くんに夢中♡ YouTubeでは彼の動画をサーフィンしまくり。あのまだ少年っぽいあどけなさと、剛速球のギャップがたまらん♡ながーい脚をたかーく上げるピッチングフォームもカッコいい…と、いやいや自己規制。語り始めると止まらなくなる朗希くん話ではなく、今回は別のお話です。
WBCでは久々に、声を出しての応援が解禁されていました。TVで観戦していると観客が一体となって、選手ひとりひとりにテーマソングを送っていましたね。WBCだけに海外からも注目されていましたが、その応援風景にも「アメイジング!」「ぜひ行ってみたい!」などの声が多く寄せられているとか。
歌詞をチェックしてみました。たとえば源田選手は「♪泥にまみれて培った 今ここで魅せろ源田の力」、村神様こと村上宗隆選手は「♪闘志あふれる一打 今こそ放てよ 村上!村上!村上!村上!」山田哲人選手は「♪やまーだてつとー!夢へと続く道 行け山田新たな時代を」…素晴らしい。スゴい。スゴいけどおもしろくてつい笑ってしまう。選手の個性に合った歌詞、一体誰が考えたんだろう?
と、そういえばこんなシーンを取り上げた小説があったっけ。大好きなエピソードです。
津村記久子さんの著作、下の『ディス・イズ・ザ・デイ』の中の一編、『唱和する芝生』というお話。
あー、やっと本題に入れました。前フリ長すぎてすみません。上の『ミュージック・ブレス・ユー!!』とあわせてこの2つの話は、音楽を偏愛するオタク高校生が主人公。どちらかといえば全くイケてなくて、スクールカースト(←私たちの時代にはこんなものなかったですよね。よかったー)でもかなり低そうな、けれど音楽への愛と情熱は誰にも負けない高校生が、なぜか50代の私を胸アツにしてくれるのです。
まずは『唱和する芝生』の主人公、富生(とみお)くん。そもそも『ディス・イズ・ザ・デイ』は、架空のサッカーJ2リーグのサポーターたちの群像劇。富生は音楽オタクで、バンド「ケムリ」が好きで、吹奏楽部での担当はスネアドラム(小太鼓)。サッカーのことはオフサイドもよくわからないくらいスポーツオンチ。そんな彼が片思いをきっかけに、J2の川越シティFC(架空のチームです)の応援団でドラムを演奏することになる…というお話。
ここで富生が初めて選手への応援歌(サッカーの場合はチャント、というらしい)に遭遇するシーンがあります。
<選手の一人があいさつに来ると、彼らはドラムの音に合わせて「小南(こみなみ)、小南(こみなみ)、我らの小南、鉄壁の守り、小南啓介」と歌い出した。メロディは<森のくまさん>だった。富生は、くまみたいな人なのかと芝生を移動して選手の姿を確認したのだが、グローブをはめたその選手は、長身で端正な顔つきの選手だったので、くまとは程遠く見えた>
もうこれだけでツボにはまり、さんざん笑わせてもらいました。読んでるだけなのに歌えてしまうのもニクい。富生のポカンとした顔まで浮かんでしまう。こんな感じで音楽好きの富生が、最後までサッカーがよくわからず、恋の力だけで応援団の演奏に青春をかける…どこかズレていてトボけているのですが、とにかくその一生懸命さに胸をうたれます。
そしてもう1冊、『ミュージック・ブレス・ユー!!』の主人公は、女子高生のアザミ。髪は赤く染め、パンクロックが大好き、バンドでの担当はベース。さてはガールズバンドの奮戦記か…と思うと、それは冒頭だけ。高校3年生の、一見楽しいけど、受験や将来への準備という、現実に直面せざるを得ない日常が描かれています。
数学が大の苦手、勉強もできず夏休みは補講でほぼつぶれ、さらに親友のチユキに勉強を教えてもらう始末。なんだけど、いざ音楽となると、ブログを通じて知り合った海外の女の子と英語でメールをやり取りし、聴いた曲は曲名、アルバム名、アーティスト名、評価などを必ず書いてエクセルで管理し、珍しいインディーズレーベルもスラスラと言えるアザミ。アザミの音楽にかける愛と知識量は本物で、純粋です。
物語はアザミとチユキの友情を中心に描かれます。チユキが恋心を告白した相手に、必要もないのに屈辱的にフラれれば、アザミは彼にこっぴどく仕返しをする。同様に、アザミの淡い恋が破れたとき、チユキは思いがけない大胆な行動に出る。電車で痴漢に遭っている他校の女子を、絶妙な方法で助けるアザミ。学園祭で無礼な態度を取った他校の男子を、まんまとだましてお仕置きするチユキ…高校3年生の1年間という期間限定で、彼女たちは大人たちにはできない、さまざまな冒険をします。でもそんな楽しい時間にも終わりが。卒業式をむかえ、彼女たちはそれぞれの道を進み、ひとつ大人の階段を上ります。
高校生ってところがやはり眩しいのでしょうか?富生にせよアザミにせよ、音楽への真っすぐな愛、そこから生まれる行動力やひたむきさにはスゴいパワーがあります。それを魅力的に、説得力をもって描くのが津村記久子さんの素晴らしさ。なんというか、富生やアザミに憑依しているような…高校生なのに。そういえば他の短編の解説にも「津村さんはおっさんの駄目な気持ちをよくわかっている」とありました。高校生の気持ちも、おっさんの気持ちもわかるなんて、最強です。
もうひとつ、もしかして関西出身ということもあるかもしれませんが、津村さんの魅力はそのユーモア。淡々とした筆致でおもしろいことを書くから、まー笑ってしまいます。最後にもうひとつ、とにかく笑える短編をご紹介。
短編集『浮遊霊ブラジル』の一編、『地獄』です。
文字通り、地獄のように笑わせていただきました。ツラいことがあったとき、オススメです。電車の中で読むのは、いきなり笑いだしてしまって周囲から白い目で見られるかもしれないので、オススメできません。