加齢とともに気になる“フケ声”は、“声筋”を鍛えると改善されるとか。声の専門家の渡邊先生と由紀さおりさんによる対談も最終回。今回は、由紀さおりさんが実践しているメソッドについてもお聞きしました!
渡邊雄介さん
Yusuke Watanabe
国際医療福祉大学医学部教授。山王病院国際医療福祉大学東京ボイスセンター長。一般の声トラブルから発声のプロフェッショナルまで幅広い支持を得て、新聞やテレビにも多数出演。声の悩みに応えるわかりやすく丁寧な解説、実践的なエクササイズの紹介が好評
由紀さおりさん
Saori Yuki
群馬県生まれ。子どもの頃より童謡歌手として活躍。1969年「夜明けのスキャット」でデビュー。姉の安田祥子さんとの童謡コンサートも好評。米国ジャズオーケストラPink Martiniとのコラボアルバム『1969』は50カ国以上でリリースされた。2019~20年は50年記念コンサート『感謝』を全国で公演中
歌は言葉。ため息ひとつさえもちゃんと
伝えたいから、声を守って歌い続けます
(由紀)
声が心の状態を映すから、
体も心も前向きに豊かでいたい
―いつもきれいな声を出していらっしゃる由紀さんが、日頃から気をつけていることとは何ですか?
由紀 私自身がそうなのですが、声って心の状態がダイレクトに影響するものだと思うんです。「声の調子が悪いなあ」と思っていると、本当に声が出なくなってしまうの。“喉が締まる”という言い方をするのですが、声や喉の状態が悪くなってしまいます。そういうマイナスな心にならないよう、つねに前向きでありたいと思っています。
渡邊 さすがの心がけです。
由紀 毎朝起きてすぐ思うのは、まず喉のこと。「今日の調子はどうかな?」って。寝ているときもケアは欠かしません。寝ているときに口呼吸だと喉が乾燥してしまうので、鼻呼吸をするように意識して。さらに乾燥を防ぐために、目の下から首まですっぽりと覆うマスクをして寝ています。
渡邊 喉に大敵なのは乾燥ですからね。特にエアコンを使用しているとひときわ空気が乾燥するので、対策が必要です。加湿器を利用して、湿度は40~60%に保っていただきたい。喉の潤いのためには、水分補給が基本ですが、うがいも同様に大切です。潤いのためには日常的にこまめにうがいをすることをおすすめします。
由紀 私はぬるま湯でうがいをするようにしています。喉を乾燥から守るために、歌う前には中国の咳止めの薬湯を飲んだり、喉飴をなめるようにして、喉の潤いを欠かさないように心がけています。
渡邊 まさにプロフェッショナルのケアですね。
由紀 喉を冷やすのもダメですから、外出するときには必ずスカーフやショールを首元に巻くのを忘れないようにしています。あと、喉のために気をつけることといえば…何かしら?
渡邊 脂と砂糖のとりすぎには要注意です。とりすぎると、太るだけではなく胃酸がたくさん出て逆流し、声帯を傷つける“喉やけ”を起こしてしまいますからね。
由紀 そうですね。私も以前はかなり食べていましたが、一日2食にしたら体調がよくなりました。コンサートがある日の食事は、本番前に軽く、おうどんや、煮野菜とご飯を少しいただくだけにしています。本番後、もの足りないときはスープを飲んだり、ちょっと甘いものが欲しいときにはゼロカロリーのゼリーをいただきます。
渡邊 由紀さんの日々のケアの積み重ねは並大抵ではないですが、そうやって声帯を大事に守ってこられたからこそ、70代の今でも声がみずみずしいのですね。先日、50年記念のコンサートにも伺いましたが、抜群の歌唱力で、たいへんすばらしかったです。
ワンピース/エスカーダ・ジャパン(エスカーダ)
由紀 ありがとうございます。先生は、仕事の現場を見に来てくださるのでとてもありがたいんです。診察室だけでなく、歌い手の現場で声の状態を見届けてくださるから。そういう姿勢も含めて、信頼しています。
渡邊 由紀さんの歌は、なんというか、感情をこめているせいか声にも表情があり、歌の世界が広がるんですよね。
由紀 歌というのは「言葉」ですから、言葉とフレーズの音色や間、息遣い…ひとつひとつ細かいニュアンスまで表現したいと思って歌っています。
渡邊 そういうこまやかさが歌に表れています。ご著書で「歌うときに情景が見える」とおっしゃっていましたね。
由紀 そうです。海辺や星空など、いろいろな景色が目の前に広がります。ラブソングを歌うときは自分がイメージした人物が出てきますし、情景が浮かんで胸がキュンっとなったりしますね。「♪大人になってもひとりぼっちはつらい」っていう歌詞の、「初恋の丘」。デビュー間もない頃に20代で歌った歌ですが、これを今歌うとね、またせつないのですよ(笑)。
渡邊 ときめき、せつなさというビビッドな気持ちを味わうのも、若々しい声を保つのに役立っているのでしょう。由紀さんは、今の声帯の状態を保っていただければ100歳まで歌えますよ。
由紀 まあ! 本当かしら。でもそう言われると、背中を押してもらっている気分になります。先生に「大丈夫だよ、明日も歌えるよ」と言っていただくのが、一番のお薬なんですから。
●由紀さんの実践メソッド
1.おしゃべり声は頭から出す!
いつでもファルセットで話をする姉にならって、頭から抜けるような「頭声発声」で、喉に負担にならないように話すよう心がけています。長時間のおしゃべりは禁物。
2.つねに喉を潤す!
声帯のためにはお水を飲むより、うがいのほうが潤うのだそうで、うがいはおすすめです。必要なときはうがい薬も入れて、ぬるま湯で。咳止め薬湯や、喉飴は欠かせません。
3.喉を絶対に冷やさない!
喉を守るために、日頃は首元にスカーフをするようにしています。夏でも欠かせません。寝るときは口元だけではなく首や襟元まですっぽり覆うマスクをして冷えを防止します。
いつも手元に欠かさず常備!
愛用の咳止めのお薬と喉飴
喉飴はつねに手元に置いて愛用。「鼻・のど甜茶飴」¥463/森下仁丹
瓶入りの「京都念慈菴 蜜煉川貝枇杷膏」は香港のシロップ薬。お湯に溶かして飲みます。手放せない必需品です
睡眠時の喉の冷えと乾燥を防ぐ、
首元まで覆うマスク
継ぎ目のない丸編みで伸縮性抜群、耳かけ付きでずれにくい。肌触りもふわふわで睡眠を妨げないので愛用中。
おやすみフェイス&ネックカバー ¥1,700/サンハーティネス香産
『フケ声がいやなら「声筋(こえきん)」を鍛えなさい』
渡邊雄介 著/晶文社 1,200円
声と健康の密接な関係を声の専門家がわかりやすく解説。放っておくと重大な問題を引き起こすという声のトラブル解消の知恵を、声筋のトレーニングやケア方法のイラストを交えて紹介
『明日へのスキャット』
由紀さおり 著/集英社 1,389円
幼少時から歌を愛し、音と自分に真摯に向き合ってきた歌い手、由紀さおりの自伝。「歌うことは私の運命、宿命」と挑戦を続けて50年。70代を迎えた今も前向きな姿勢に感銘を受ける一冊
撮影/宮本直孝 ヘア&メイク/徳田郁子(竹邑事務所) スタイリスト/吉村由美子 構成・原文/浦上 優