映画にドラマに舞台に、快進撃が続いている吉田羊さん。この夏、意欲作に挑戦する。
ほとんど女性ばかりが登場する舞台『ザ・ウェルキン』で主演を務めるのだ。
初めて舞台に立ってから、今年で25年。30代でブレイクし、以来ずーっと第一線を走り抜けてきた彼女が、自らのキャリアを振り返って今、何を思うのか。この先の自分に何を見ているのか。
すべての質問に誠心誠意応えてくれる彼女の姿勢は、前向きで元気でアグレッシブ。
外見も中身も年齢不詳のまま、いつまでもピークのまま、走っていきそうだ。
撮影/土山大輔(TRON) ヘア&メイク/赤松絵利(ESPER) スタイリスト/井阪 恵(dynamic) 取材・文/岡本麻佑
吉田 羊さん
Profile
よしだ・よう●2月3日、福岡県生まれ。1997年デビュー。小劇場を中心に10年活動した後、映画、ドラマ、舞台、CMに活躍の場を広げる。2014年、ドラマ「HERO」で注目を集め、’15年、『映画 ビリギャル』で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。’21年にはオール女性キャストの舞台『ジュリアス・シーザー』でブルータスを演じ、紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。映画『マイ・ブロークン・マリコ』は’22年秋公開予定
30代から始まった〈奇跡の14年〉
吉田羊さんが7月、再び舞台に立つ。そのタイトルは『ザ・ウェルキン』。
2020年1月にイギリス、ロイヤル・ナショナルシアターで上演され、コロナ禍で公演は中断されたものの、大絶賛された作品。日本初演のこの舞台で、主人公リジー(エリザベス・ルーク)を演じるという。
物語の背景は、18世紀イギリスの田舎町。殺人犯として捕まり、絞首刑を宣告された少女サリー(大原櫻子)は、自分が妊娠していると主張する。妊娠している罪人は、死刑を免れることができるのだ。
果たして本当に妊娠しているのか? 真偽を確かめるため、妊娠経験のある近隣の女性12人が集められる。助産婦を生業とするリジーもその陪審に参加することになり・・・。
「脚本を読んで最初に感じたのは、裁きは誰のためにあるのか、いうことでした。
リジーも含めて12人の女性たちはそれぞれが私情や事情を抱えながら、サリーを裁いていく。同じ女性同士、同情票が集まるのかと思いきや全然そうじゃなくて、個人的な都合、恨みや嫉妬からくる、八つ当たりにも見える反対票の多さに、女性たちの身勝手さや残酷さが垣間見えて震え上がりました。
しかし、はて、自分が同じ立場ならどうだろう?とも考えさせられて。
またリジーは助産師で、人間の生命の誕生を司る、ある意味神聖な存在です。その彼女がサリーの命綱を握っているのはごく自然なことに思えますが、そうした一見、慈悲深くてまともな人に見えるリジーにも、徐々に、どうやら深い事情がありそうだとわかってくる。
誰のために、何のために裁くのか。シニカルに、時にユーモアを交えながら二転三転の展開で最後まで観せます」
登場人物はほぼ全員が女性。今回の舞台には若手からベテランまで、演技派、実力派、個性派のクセモノ女優陣がずらりキャスティングされている。舞台の上でいったいどんな化学反応が起こるのか、どんなハーモニーに昇華するのか、楽しみだ。
そういえば吉田さんは昨年、男性の登場人物をすべて女性キャストが演じる、オールフィメールスタイルの異色の舞台『ジュリアス・シーザー』で主人公ブルータスを演じた。
「そのとき、性別を超えて演じることで思ったんです。あ、これは人間の物語なんだ、と。
権力争いとか暴力的な表現は男性中心で描かれがちですけど、でも意外と、女性に置き換えてみても成立するんですよね。力の差はあれど、むしろ女性のほうが、ということも多いのではないかと(笑)」
男性優位一辺倒の時代から、ようやくジェンダーレスが叫ばれるようになった昨今。『ザ・ウェルキン』は単純に女性を持ち上げるのではなく、女性そのものの本質に斬り込み、鋭い視線を注ごうとする作品なのかもしれない。女たちは昔から強くもあり、弱くもあり。
「この時代の女性たちが強いられている状況というのは、時代を超えて、今もそれほど変わっていないと感じています。
でもじゃあ、彼女たちがそれを甘んじて受け入れてきたのかというと、きっとそうじゃない人たちもいたはずです。受け入れながらも彼女たちは闘っているし、反発もしている。
女性たちが感じている閉塞感を、こういうエンターテインメントに乗せて声を上げていくのも、演劇の役割かなと思います」
俳優としてのキャリアを、舞台演劇からスタートした吉田さん。20代はずっと、小劇場の舞台に立って過ごしてきた。
30代に入ってから映画やドラマなど映像の世界に場を広げ、注目を集めて大ブレイク。以来幅広いジャンルで活躍しながら、14年経つ。
「なんだか奇跡の連続でした(笑)。私自身は本当になんの取り柄もないですし、芝居だってうまくない。でもアドバイスをくださる方がいたり、叱ってくださる方がいたり、手を差し伸べてくださる方がいた。人とのご縁に恵まれてきた14年でしたね」
環境や状況が変わってきただけでなく、彼女自身の芝居との向き合い方も、少しずつ変わってきたという。
「最初の頃はお仕事をいただけることが、ただただありがたくて、来る者拒まず(笑)、貪欲に仕事をしていました。
そこからありがたいことにコンスタントに仕事をいただけるようになって、今は以前よりさらに丁寧に作品の準備をして、より深いところにお芝居を持っていくという目標に変わってきたと思います」
映画でもドラマでも、確実に爪痕を残してきた。そんな中で舞台は彼女にとって、やはり特別な場所らしく。
「ここ数年は、任される責任の大きさも変わってきたところがあって、舞台は修行の場に変わってきました。
生のお客さんを前に、やり直しのきかない世界で自分の思い描いた芝居を演じきる。緊張感の中で演じることが、最近の私にとっては『鍛錬』なんです。
舞台に足を踏み出す瞬間、『もう帰りたい!』って毎回思うんですよ(笑)。でも台詞をひと言しゃべり出したら、もう止まれない。
その作品の中で自分は何をするべきか、答えを出すまでにものすごく苦しみます。けれど産みの苦しみが強ければ強いほど、その先にある手応えが最高に幸せだっていうことを経験して、知ってしまったので、だからどうしても挑戦したくなる。もう一度、感性を研ぎ澄ましたいと思うんです」
デビュー25周年という今年、ひと区切りつけるどころか、先へ先へと彼女の気持ちは向かっている。
「まだまだ、やりたいこと、いっぱいあります。全然、途中です。今回のお芝居もそうですけど、新しい仕事に向き合うたびに、新鮮に驚いたり学べたりすることは、幸せだなって思います。
歳を重ねると、同じ業界の中で同じことをやり続けているというだけで、重宝されたり大事にされることがありますよね。でも同時に、誰も何も言ってくれなくなる。それが怖いんです。裸の王様にはなりたくないので、いくつになってもフレッシュな気持ちで学んだり驚いたりしながら、この仕事を続けて行きたいと思います」
いつでも、いくつになっても、不安のない体で仕事が受けられるように、健康には気を使っているという吉田さん。
惜しみなく教えてくれたその具体的な内容は、6月30日(木)発売、吉田さんが表紙を飾る『MyAge 2022 夏号』で。自身で試し、失敗も成功も繰り返して得たアイデアと知恵の数々を、お楽しみに! →詳しい内容はコチラから。試し読みもあります。
『ザ・ウェルキン』
18世紀半ば、イギリスの田舎町で、ひとりの少女サリー(大原櫻子)が殺人罪で絞首刑を宣告される。サリーは自分が妊娠していると主張。それが本当なら、死刑を免れることができるのだ。その真偽を判定するため、妊娠経験のある12人の女性が陪審員として集められた。助産婦のエリザベス・ルーク(吉田 羊)もそのひとり。彼女はサリーをなんとかして救おうとするが・・・。
出演:吉田 羊 大原櫻子 長谷川稀世 梅沢昌代 那須佐代子 峯村リエ 西尾まり ほか
作:ルーシー・カークウッド 演出:加藤拓也 翻訳:徐賀世子
東京公演 2022年7月7日(木)~7月31日(日) Bunkamuraシアターコクーン
大阪公演 2022年8月3日(水)~8月3日(日) 森ノ宮ピロティホール
企画・製作:シス・カンパニー
https://www.siscompany.com/welkin/