仕事柄、同窓会や同世代の集まりになると「どの化粧品がいいの?」「なに使ってるの?」と必ず聞かれます。やっぱりみんなエイジングケア*1は気になるんですね。「ドモホルンリンクルって、どうなの?」というのも定番の質問のひとつです。
エイジングケアといえばドモホルンリンクルというイメージ。テレビCMでよく見る無料お試しセット8点も、「試してみたい」と声を揃えます。
無料お試しセットも豪華だけれど、実際の商品はさらに頼もしい印象。
とはいえデパートなどで直接目にする機会がないので「気になっているのだけど、よくわからなくて」とのこと。
確かに、雑誌などの美容記事は新製品紹介が中心で、ドモホルンリンクルに代表されるロングセラー定番は取り上げる機会は少なくなりがち。知名度に対して情報不足なのは確かです。
たとえば、ドモホルンリンクルの主成分は? 再春館製薬所って、どこにあるの? ほかに化粧品はないの?等々、“知っているようで知らないこと”は意外に多いものです。
そこで反省を込めて、あらためてドモホルンリンクルとその生みの親、再春館製薬所についてしっかり取材することに。4回にわたってじっくりリポートしていきます。
再春館製薬所ってレトロな名前だけど……
そもそも再春館製薬所という社名の由来自体、“知っているようで知らない”もの。再春とは多分、不老長寿や長命と同じような意味の漢語なんだろうな。そう漠然と考えていたのですが、これはまったくの早とちりでした。
広報担当の方によると、6代熊本藩主細川重賢(あの細川元首相のご先祖です)が1756年に設立した日本初の医学校の名前が、再春館。優秀な医師や研究者を輩出し、現在の熊本大学医学部の礎となった名門で、あの北里大学の創始者・北里柴三郎のルーツでもあります。漢方や按摩、薬草研究といった東洋医学はもちろん、解剖学などの西洋医学の研究にも意欲的な、進取の気運に溢れた総合医学校だったことが記録されています。
再春館製薬所は、明治維新によって閉館したこの再春館の伝統を継ぐべく、1932年、その名を冠して開業されました。
CMで言っていた漢方の精神って……
再春館のCMでもうひとつ印象に残るのが、『漢方の精神』です。開業時は、再春館製薬所の名前どおり漢方薬や漢方処方を基礎とした医薬品メーカーとして出発し、代表的な製品の“痛散湯”は現在も製造販売しているオリジナルの生薬処方なのだとか。1970年代からは化粧品を手がけるようになりましたが、化粧品事業においても、この漢方理念は貫かれているのだそうです。
漢方理念とは一言で表すと『自然の生命力を尊び生かして、自然治癒を目指す姿勢』。たとえば、美白ケアなら「シミを染み抜きみたいに漂白しようとするのではなくて、そもそもシミができにくい肌を目指すこと」とのこと。エイジングケアも、シミや乾燥といった一つひとつの悩みにだけ対応するのではなくて、肌本来の力を根本(こんぽん)から立て直すという考え方です。
その理念は、製品づくりはもちろん、梱包や発送、社員食堂のメニューまで、再春館製薬所の営みの隅々にまで浸透し、実践されている……と伺い、これはどうしても実際に目で確かめ、携わっている人たちにお話を聞かねば、という思いに。そこで、再春館製薬所の本社・工場にうかがうことにしました。
英国田園地方のような緑の丘で
TVのCMで何度も目にしている工場ですが、どこにあるかご存じですか?
答えは九州の熊本空港からクルマで10分ほど。阿蘇の自然に包まれた丘に、再春館製薬所は建っています。ヒルトップと名づけられた9万坪の高台には、“森の中の工場”をイメージした製造と発送の拠点「薬彩工園」と、コールセンターや研究所などを擁する「つむぎ商館」などの建物が、自然に抱かれるように建っています。
ヒルトップの名は、ピータ-・ラビットの生みの親ビアトリクス・ポターが英国湖水地方の自然を守るために購入し、終の棲家としたヒルトップ農場にちなんだもの。自然の恵みを人の力に役立てようとする漢方理念を基に、再春館ヒルトップでも自然を守り慈しむため、さまざまな取り組みが行われています。
自然の恵みを生かし自然を守る
ドモホルンリンクルを作っている薬彩工園・守田守さんによると、2001年に薬彩工園が完成すると同時に、環境に負担をかけない太陽光発電の可能性を検討。3年後の2004年には、当時民間で国内最大規模の太陽光パネルが設置されたそうです。
「自分たちが使う電気は自分たちでまかないたいということから、『太陽の畑』と呼んでいるのですが、少しずつパネル数を増やしていって、現在は約3万枚になりました。おかげで、今では社内で年間に使用する全電力に相当する量をこの太陽光発電でまかなえます」
電力だけでなく照明も、窓のない廊下や更衣室は「集光機ひまわり」で集めた太陽の光を利用。
また製造ラインやトイレ、広大な敷地の緑のための散水には、地下を流れる伏流水や雨水を使用するなど、徹底してエコフレンドリーな運営を行っています。
「不器用な製薬会社です」の心臓部へ
薬彩工園は、広々としたエントランスがまるでリゾートホテルのよう。これは一般の方々に、実際に製造している様子を見ていただくため、公開を前提とした設計だから。同時に、さまざまなセクションで働くスタッフ同士が挨拶を交わし交流する場でもあります。
CMの台詞「すべてを包み隠さず」の言葉どおり、2階のガラス窓からは1階の作業が一望できるつくり。化粧品原料の産地を示した展示を見ると、南米やアフリカ大陸まで網羅されています。
「あくまでも天然素材にこだわっていますが、同じ植物や素材でも産地や季節によって質が異なります。そのため最良の原料を使おうとすると、世界中から集めることになるんです」と守田さん。
この“細部まで手を抜かない”姿勢こそ、再春館製薬所の真髄。製造基準は医薬品レベルに準じているほか、500種以上の残留農薬検査や放射線の影響の有無も自主的に計測しているそう。
完成した化粧品は容器に充填する前に3日間かけて品質を再確認。
さらに、4年間、その日に製造した製品の原材料や、同じ製品を保管して、完全なトレーサビリティを確保しています。購入者の問い合わせに対しても、同じ日に製造されたものを即座に確認できる体勢が整っているのです。
常に安心安全を求めて
各製品の“中身をつくる窯”も意外なほど、小ぶりです。
「多品種少量生産というのも弊社の特徴ですね。常にできるだけ新鮮なものをお届けするため、ある程度注文が予想される分をつくっています」
これもダイレクト・マーケティングの強みを生かしたもの。実際の製品に製造年月日が表示されているのも信頼がもてます。
「ご覧のように製品のチェックや箱詰めなども、機械だけにはまかせず、同じ工程を複数の人間で行っています。ロボットなどを多用して人数を減らすこともできますが、微細な点まで確認するには人間の五感にかなうものはありません。不器用なやり方ですが、肌につけるものは口に入れるものと同じですし、私たちのできうる限りの“安心安全”をお届けするには、今の方法がいちばんではないかと考えています」
実際に、目視で失格とされた商品を見せていただきましたが、どこがダメなのかさっぱり。製品名の印刷がちょっと欠けていたそうですが……。
梱包や発送作業も基本は人の手作業です
梱包まで人の手で行っているのは、購入者一人ひとりのオーダーに間違いなく応えるためでもあります。お試しセットの印象から、全品を一揃え買わなくてはいけないと誤解されがちですが、実際は好みや必要に応じて1品ずつオーダーできるので、梱包内容も一件ずつ違うのです。
ロボットが活躍しているセクションを発見!
「お試しセットの梱包は、事前に検品した製品をトレーにセットする工程だけ、あえてロボットを使っています。見学に来られる子どもたちに日本の技術力を知ってもらい、『こういう機械をつくる人になりたい』という将来の夢にもつなげていければ、とロボットを導入したんですが、動作もかわいいので大人気なんですよ」と守田さん。
商品の破損を防ぐ緩衝材は、今治タオルの工場で捨てられていた残糸を使った特注品。説明書きも紙箱の裏側を使うことで、紙の使用量を抑える工夫が。これも「自然の恵みを得ている自分たちが自然に負担をかけてはならない」という考えに基づく取り組みのひとつです。
細部まで製品の安心安全と自然環境への配慮が行き届いていることに、驚きと感動が。
ドモホルンリンクルは購入リピート率がなんと90%を超えるそうですが、
それはきちんとした「信頼」が寄せられているからなのだと実感しました。
次回は、製品をまだ使ったことのない方がお持ちであろう疑問にお答えしていきます。
*1 年齢に応じたお手入れ
撮影/山下みどり(熊本) 坂根綾子(製品) 取材・文/近藤須雅子
スタイリスト/本瀬久美子 撮影協力/アワビーズ UTUWA