私は夜寝る前には必ず本を読みます。
何度も読み返したくなる本やフレーズには、そこに課題やメッセージが潜んでいるはず。
どんなジャンルの本もその物語の行き着く先は
「人はみな傷つき、喜び、嘆きながらもそれぞれの人生を必死に生きている」ということ。
本は生きるヒントと栄養と勇気を「お好きなだけどうぞ」と差し出してくれます。
本は人生のもう一人の相棒です。
~書籍「十和子道」P100、102、103より~
<担当編集者からみたこの言葉の背景>
お金の賢い貯め方、思い切って会社員を辞め起業した人のルポルタージュ、会社経営者や政治家のインタビュー、読者から悩みを募集し著名人に答えてもらう人生相談……
自分が今までつくってきた記事を思い出すままにあげていくと、その雑多な内容にあらためて驚く。
なかでも好きだったのが作家へのインタビュー。
書評を担当していた時期は毎月ひとりの作家に話をきいていた。
インタビュー相手の作品は可能な限りの冊数を読んでから(少なくともデビュー作、話題になった作品、最新刊の3つ)現場に臨んだので、読書の量も幅もずいぶん広がった。
それに加え書評コーナーでは毎月9冊は紹介することにしていたので、その9冊を選ぶために数多くの本を読んだ。
そんなこんなで会社のデスクも自宅の居間も本であふれかえった。
どうしたものかと思ったが、これらは会社の経費で買ったものや出版社や作家から贈呈されたものなので、古書店に売るわけにはいかなかった。
かといって本の作り手のひとりとしては、とりあえず捨てるなんて無情なこともなかなかできない。
それが面白い本であるなら、なおさらだ。
ある日、十和子さんを取材していたら〝時間の使い方〟の話になった。
「結婚するまで実家暮らしだったのでお休みの日はたっぷり美容に時間を使うことができたけど、今は子どもたちもまだ小さくてそうもいかないから、すき間時間をやりくりしてお手入れしている」
と言うので、私は
「お子さんの手が離れて自由な時間が増えたら、思う存分エステに行ったり百貨店のコスメカウンターめぐりをしたいですよね」
ときいた。
すると十和子さんは
「ううん。本屋さん。
時間がたっぷり使えるならとにかく本屋さんに行きたい」
と即答した。
「本屋さんでひとつひとつの棚をゆっくり見て回って、じっくり本を選びたい」
こうして十和子さんが本好き、読書好きなことを知った私は
「よく読むジャンル、作家は誰ですか?
最近だとどの本が面白かったですか?
……なるほど歴史物ですか。
あ、○○って読まれました?
それと○○は?
そう、今すごい話題の本!」
と思いつくまま質問し、その読書傾向を心の中で勝手に分析した。
ほどなくしてスーツケース(だったかボストンバックだったのか)を引き、私は十和子さんのご主人誉幸さんが当時経営していた服飾を扱う会社を訪問した。
スーツケースの中は本だった。
十和子さんが読書家と知り、好みの本を分析した私は会社と自宅に積まれた本の中から「おすすめ」と思うものを選んでスーツケースに詰めて持って行ったのだ。
応対に出てくれた会社のスタッフは、玄関先で開けられたスーツケースの中を見て
突然現れた大量の本にかなり驚いていた。
ご主人の会社に本を届ける
↓
誰かが(おそらくご主人が)その本を自宅へ運ばねばならない
↓
お手間をかけることになる
↓
そして気に入る本でなければ……処分にも困る
ということは当時の私の頭には全くになかった。
日をおかずして誉幸さんは車でその本を自宅まで運んでくれ、本は十和子さんのもとに届くこととなったのだが、今思うとなんと強引というか、迷惑なことをしたのかと当時の自分の無邪気さを恥ずかしく思う。
以来取材の際、メイクルームで準備している間やカメラマンが照明の調整をしているちょっとした待ち時間には
「○○さん(←ギリコの名前)、林(真理子)先生の新刊本読まれました?
読み終わるのが惜しいくらい面白かった。
とくに途中のあの○○の場面はもう林先生ならでは!」
と十和子さんが言えば
「読みましたよー、面白くて一気読みしました。
十和子さん、林先生のあの本がお好きなら××の書いた△△もはまるかもしれませんよ。
これも実際にいた女性が主人公で……」
というように本の感想などを披露したりしたのだが、あれは本当に楽しいひとときだった。
(十和子さんの本棚の一部。華麗な物語からノンフィクション、自伝、評伝まで……興味の幅の広さが垣間見える。「十和子道」ではおすすめの一冊も紹介してもらったのだが、それはとても意外な本だった/「十和子道」P102より)
十和子さんの読書量、読書遍歴を知り私が多いに納得したことがある。
それはインタビューにおける十和子さんの使う言葉の豊富さや的確さ、センスのよさがどこからきたのかだ。
この連載の第11回目でも書いたが初めてのインタビューのときから、十和子さんの放つ言葉には力があり無駄がなくてわかりやすかった。
そのままタイトルや小見出しに使えるものばかりだった。
その理由がわかった。
たくさん読んできたのだ、この人は。
それもただ漫然と読んできたのではない。
〝なぜ自分はこの本に惹かれるのか〟をつどつど考え、そこで感じとったことを自分の心にストンとおちる言葉で蓄積させてきたからなのだ、と。
(就寝前に行うことの中には、読書のほかにはたとえばこんなことも。足指をつかんで足首まわし。血行を促し末端まで暖かくなるようにしてからベッドに入る。これはご主人による撮影)
撮影/本多佳子、冨樫実和
★次回は2020年5月7日木曜日配信予定です、お楽しみに!
*オールカラー、自宅で撮影、オール私服、収録写真400点
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電子版には特典としてプライベートを含む計276点の写真とコメントを特別編集した「エブリディ十和子」がついています!